AI、IT、流行…変わる音楽、堀込高樹が語るKIRINJIの適応力
INTERVIEW

堀込高樹

AI、IT、流行…変わる音楽、堀込高樹が語るKIRINJIの適応力


記者:小池直也

撮影:

掲載:18年06月17日

読了時間:約12分

 KIRINJIが13日、13枚目となるニューアルバム『愛をあるだけ、すべて』をリリース。ダンスミュージックやヒップホップに影響を受けている近年のポップスの流行に負けない事を意識したという本作。かつては渋谷系の文脈で語られたこともあった彼らだが、リーダー堀込高樹は「一番新しい形の音楽に中年の気持ちが乗っているのが格好良い気がする」と語ったように、とてもデビュー20周年を迎えるバンドのものとは思えない新たな挑戦を感じられる作品となっている。口から出るトピックは新作、AIによる作曲、クラウド化するバンドについてなど多種多様。そのどれもが時代に柔軟であることを考えさせられる。2018年現在、KIRINJIはどこに立っているのだろうか。堀込高樹に話を聞いた。【取材=小池直也/撮影=冨田味我】

人間の精神力もありつつ、機械みたいな感じもする作品

堀込高樹(撮影=冨田味我)

――今回のアルバム製作に当たって念頭に置いていた事はありましたか。

 昨年の11月に先行配信シングル「AIの逃避行 feat. Charisma.com」をリリースしました。シングルを出したいというのがまずあって、年頭から曲を作っていました。KIRINJIの曲だけじゃなくて、NegiccoやV6、RHYMESTERの楽曲提供もあったので、それと並行しながらの制作でしたね。

 昨年夏に「AIの逃避行」のレコーディングをするまで、アルバムを具体的にどうするかは見えてなくて。前作の『ネオ』がそれまでのKIRINJIと趣を変えた感じだったので、その路線を引き継ぐ感じにはなるだろうなとは思っていました。ただ随分毛色が変わったと言っても、まだ生(演奏)の曲が中心でしたよね。

 最近はダンスミュージックやヒップホップ、それらに影響を受けたポップスが主流となっています。その中に放り込んだ時に負けないというか、それと勝負できるアルバムにしたいというのはありました。なので、エレクトロニクスを多用したものにした方が『ネオ』の流れから考えても良いのかも、と思ってそれを推し進めた感じになりました。

――確かにシンセが前面に出ているのを感じました。

 「AIの逃避行 feat. Charisma.com」も生演奏が主体ではあるのですが、上モノ(サウンドの中で音程的に上位にある音)は結構シンセ中心です。生のドラムに色々な加工もしてあるので、ダンストラックみたいな仕上がりにはなっていると思います。この曲を作った事でアルバムのざっくりした方向性が決まったのかなと。

――完成した作品を巷の作品と比べていかがですか?

 まだ冷静に聴けてなくて。もう少ししたら客観視できるようになると思います。3カ月、4カ月かかるかもしれません。

――生演奏とテクノロジーについて、制作してみて思った事を教えてください。

 『ネオ』の流れもあって、エレクトロニクスが増えたので「もしかしたらドラムも打ち込みが多くなってしまうかも」、「自分のパートがないとか、そういう事もあるかも」とメンバーにも相談していました。それから「時間がない」をまずレコーディングして。その時、普通に打ち込みでやったら面白くないなと思ったんです。でも一方で、生楽器だけで良い感じの演奏でやってもつまらない。

 そこでまず楠さんのキック(バスドラム)を録りました。それをシーケンスに貼って(打ち込んで)いくわけです。すると音圧とタイミングが均一なビートがまず出来上がります、サンプリングで作った曲と同じですけど。それに対して生のハイハットとスネアで演奏してもらいました。ハイハットも細かいプレイは機械がやって、人間はエイト(8分音符)。そうすると人間の精神力もありつつ、機械みたいな感じもするというか、真ん中よりのものができるんですよ。

 「打ち込みばかりになりそう」という危惧があったんですけど、混ぜて見たら良い感じのバランスが出来上がった。キックが均一になると生のベースが入っても生っぽさは失われず、ペダルスティールも色々な工夫をするとシンセに馴染んで。この線でいけば、メンバーの個性も活きつつ、機械の様な正確さも出せるなと。それで視界が開けました。

――人間の心を持った機械というか。

 はい。確かに僕が中心になってトラックは作っているのですが、それに対してメンバーが「自分だったらこうする」と色々な試行錯誤をしてくれて出来たアルバムになっています。聴く人にそれがどこまで伝わるかはわかりませんが、仮に全部打ち込みでやったら随分と印象の違う作品になったと思いますよ。

――その機械と人間の対比を感じさせる様に、アルバムには「AIの逃避行」に対応する様に「新緑の巨人」という自然を連想させる楽曲もありました。

 ダジャレですけどね。うちの子供が「新緑」という言葉を最近覚えて話していたので、そこからイメージを広げました。新緑だから4月とか5月ですよね。その季節って一気に草木が芽吹くじゃないですか。公園とか遠目に見ると緑が“わあっ”とこんもりしている。あれが仮に巨人が横たわっているとしたら、というイメージが浮かんで。そいつが立ちあがった頃に夏が来る、という様なファンタジックなアイディアになりました。

 ただ、幻想的なだけだと不思議なおじさんみたいになってしまう(笑)。それはよくないと思ったので、もう少し自分の感情を盛り込みました。春は割と楽しそうなイメージですけど、意外と春に欝になる人も多いらしいんですよ。5月病の前の、3月とか4月とか。僕も最近その気持ちが少しわかるんです。「春先は何か調子が悪いな」と。

 そうすると昔は夏が好きじゃなかったのに「夏が来たら楽になるのにな」と思う事が時々あって。その気持ちとファンタジックなモチーフを合わせて、この曲ができあがりましたね。

――楽曲自体もAメロはトラップ風なアレンジで興味深かったです。

 その意識はありました。サビに入るとグルーヴが出てきますが、もともとは全編そんな感じで作っていました。ただそれだと単調に感じてしまって、どんどん間引いていったんですよ。そうしたら音数少なく始まって、リズムを刻むというよりもポストロック的なドラムで徐々にリズムが見えてくる、という様な感じに。それで楠(均)さんと試行錯誤をしながらレコーディングしていきました。

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