KIRINJI堀込高樹「通底するマインドは変わっていない」進化するKIRINJIの本質とは
INTERVIEW

KIRINJI堀込高樹

「通底するマインドは変わっていない」進化するKIRINJIの本質とは


記者:村上順一

撮影:村上順一

掲載:21年07月28日

読了時間:約10分

 2020年末をもって約8年間のバンド体制を卒業し、2021年より堀込高樹を中心とする変動的で緩やかな繋がりの音楽集団となったKIRINJIが7月28日、EP「爆ぜる心臓 feat. Awich」をリリース。EPは堀込高樹が劇伴音楽を担当した、8月27日公開の藤原竜也が主演の映画『鳩の撃退法』の主題歌「爆ぜる心臓 feat. Awich」と4月に配信リリースされた「再会」、さらにセルフカバー「恋の気配(2021 Version)」の3曲を収録。インタビューでは、ラッパーのAwichを招き制作された「爆ぜる心臓 feat. Awich」の制作背景に迫るとともに、様々な側面を持つKIRINJIの本質とは何なのか、多岐に亘り堀込高樹に話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】

印象に残る曲にしたかった

村上順一

堀込高樹

――上半期を振り返るとどんな半年でしたか。

昨年末でバンド形態での活動が終了して、1月から制作に入りました。それで2月には4月に配信リリースした「再会」がほぼ完成して、5月には今回収録されている「恋の気配」を再録音しました。

 あと、福田利之さんとの共作絵本『あの人が歌うのをきいたことがない』のライブを5月頭にブルーノート東京で行う予定だったのですが、コロナ禍で延期になってしまったので、アルバムの制作に入りました。

――アルバム楽しみです。お一人になられて半年が過ぎましたが、実際作業されてみてどのように感じていますか。

 前々作『愛をあるだけ、すべて』から一人で作業することが増え、バンドで集まってやることが少なくなって、リモートでレコーディングすることが多くなりました。それもあって一人でとことんやってみたいと思うようになったのですが、そういう流れがあるので作業の進め方というのは大きな変化はありません。

――アルバムはどんな雰囲気になりそうですか。

 前作『cherish』とはまた違った作品にはなりそうな気がしています。ただ、ダンスミュージックのボトムを持った、現行のポップスの音像に近いものにアプローチするというやり方は次の作品でも引き継がれると思いますし、その中で新しいことを入れていく感じになるかと。

――そろそろアルバム制作もラストスパートに?(取材日は6月下旬)

 いやいや、まだ助走期間です(笑)。今の段階ではもう少し色々試行錯誤しないとダメかなと。

――楽しみにしています! さて、新曲「爆ぜる心臓 feat. Awich」は新しいKIRINJIが垣間見れますが、ご自身ではどのように感じていますか。

 実はこの曲は昨年の10月には完成していました。映画の公開が延期になってこのタイミングでのリリースになりましたが、これからのKIRINJIはこの路線で行きます、という曲ではなく、あくまでも映画『鳩の撃退法』用に、製作陣のリクエストを汲んで出来た曲です。

――どんなリクエストがあったのでしょうか。

 予告編でこの曲が流れる事が決まっていたので“インパクトのある楽曲”というのと、フィーチャリングを入れて欲しいというリクエストです。その中で僕が提供できる最善のものを作りました。

――ロック系という感じのオファーではなかったんですね。

 そうですね。ただ、映画には謎解き要素があり、ストーリーのテンポが良いので、バラードやミディアムテンポといった曲のイメージは持てず、自然とロック調になりました。これと別に劇中で流れる挿入歌があるのですが、それに続けて流れても印象に残る曲にしたかったというのもあって、このアレンジになったという経緯もあります。

――フィーチャリングにラッパーのAwichさんを起用されているのもポイントだと思うのですが、選ばれた経緯は?

 すでに自分が歌っているパートのイメージは出来ていたので、他のパートをどうしようかとなって。レーベルから紹介してもらったのがAwichでした。他にも何人か候補に挙がって、その中にはラッパーではなくシンガーの方もいましたが、こういう曲でデュエットというのはちょっと違うかなと感じて。メロディが乗ったものだと映画作品に対してセンチメンタルなものになってしまうので、やはりラップが良いだろうと思いました。

――実際にラップを聴いていかがでしたか。

 格好良かったです。僕は以前「Almond Eyes feat.鎮座DOPENESS」で鎮座DOPENESSとコラボしましたが、彼とはまたカルチャーが違うなと感じました。鎮座くんは一匹狼的な雰囲気で、Awichはクルーがバックにいる感じがあって、ヒップホップのカルチャーを強く感じました。なので最初は自分とそのカルチャーが上手く合うのか、という懸念が少しありましたが、実際にAwichと会って作品について話していたら、そんなことは全く気にならなくなりました。

――Co-ProducedとしてChaki Zuluさんが入られていますね。

 僕はラップについては素人でディレクションが出来ないので、Chaki Zuluに参加してもらいました。彼はトラックメイカーとしてAwichの作品にずっと関わっていて、彼のスタジオでAwichのラップをレコーディングしたのですが、ふたりの作業がものすごく早くて、その場で手直ししながらも1時間ぐらいでラップパートは完成しました。

映画のサブテキストのような歌詞

――歌詞は堀込さんのパートは完成していて、そこからラップのパートをAwichさんに書いていただいた感じですか。

 どんなものにするかは事前に打ち合わせをしました。Awichは『鳩の撃退法』の原作を読んで、総合的に判断してラップパートを書いて来てくれました。それを見ながら僕も自分のパートの歌詞を書いて、彼女のラップを録り終えてから、最終的に清書しました。

――詞は映画とどのくらいリンクさせようと思っていましたか。

 当初、映画製作サイドからは「作品のことはそれほど考えずに自由に書いて下さい」と言われていたのですが、僕の中ではそうは言っても映画の主題歌なのだから絡めないのは逆に不自然だなと。

 映画は謎解きがメインで進んでいくストーリーなので、主題歌では登場人物の心の在り方や、作品のテーマとなっている本物と偽物ということ、それに価値の差はあるのかという点をテーマに考えました。偽物だとしても、そこに魂を込めることで本物になるんじゃないかという考えもあって、偽物が本物になる瞬間だったり、じゃあ本物の価値はどうなのか、というのが裏のテーマとしてあるように僕は思いました。それをAwichにも話したのですが、彼女はその辺りも汲んでくれていたので仕上がりはバッチリでした。

――歌詞の中にも謎解き要素が入っていたりするのでしょうか。

 謎解き要素はありませんが、映画を観てからこの曲を聴いてもらうと、映画のサブテキストのような感じで楽しんでもらえるものになっていると思います。

――キーになったワードはありますか。

 <時折、まことは嘘より stranger>ですね。それから<適当なページ挟まれた意味深な story のめり込む>以降は、より映画作品に沿った歌詞になっています。

変拍子はうっとり出来ない

村上順一

堀込高樹

――ベースは千ヶ崎学さんが弾かれていますが、フレーズがクールですね。

 千ヶ崎君も弾いていますが、基本はシンセベースです。それも2本重ねていて、上のざらついたところとサブベースというすごい低い帯域の2本鳴っていて、そこに千ヶ崎君の生ベースを重ねています。Bメロは生ベースの存在がわかりやすいのですが、他のパートはシンセベースが強く出ているので、本人にも大丈夫かを確認して、ちゃんと生ベースの感じが出ていると言ってくれたので安心しました(笑)。ミックスは昨年の時点で一回終わって完成していたのですが、今回リリース用にエンジニアと話してやり直しました。

――ドラムは石若駿さんですが、これは堀込さんからのオファーですか。

 はい。いま日本で一番注目されているドラマーですよね。

――確か、以前エンジニアにOfficial髭男dismや米津玄師さんを担当する小森雅仁さんを起用されたのも日本で一番注目されているからと仰ってましたね。

 僕はそういう評判に弱いんです(笑)。石若君のドラムは文句なしでバッチリでした。パターンを作り込んでデモを渡して叩いてもらったのですが、それ以上にテクニカルなものが返ってきました。それも格好良かったのですが、少し抑えてもらいました(笑)。後半のリズムがアウトする感じは石若君が自ら考えてくれたものです。

――また、川口義之さんのバリトンサックスも印象的でした。

 もっと音大きくしても良かったなと思うくらい格好いいです。「爆ぜる心臓」ではバリトンを使用して、イントロのリフでは重ねています。彼は普段は優しい感じの栗コーダーカルテットというバンドをやっていますが、こういう感じも吹ける。この曲のレコーディングは真夏でしたが、猛暑の中テナー、ソプラノ、アルト、バリトンの4つを抱えて持ってきてくれました。

――あと、興味深かったのがリズムなんですけど4拍子なのに変拍子のように聴こえるのが面白いなと。

 変拍子っぽく聴こえました? 僕の中では難しく聴こえたら嫌だなと思っていたのですが(笑)。

――2小節で1つのフレーズのように聴こえまして。アクセントの取り方だと思うんですけど、レッド・ツェッペリンの「ロックン・ロール」の要素を感じました。

 バレた(笑)。実は「ロックン・ロール」のイントロのドラムフレーズを※チョップしてリズムを組み立てるというところから始めて、そこに8分音符の変則的なリフを絡めて作りました。あと、リズムで面白いのはAwichのラップ。後半に拍が裏返るような入れ方をしていて、それがまた頭に戻っているのですが、それがまたスリリングで良かった。(※演奏されたオーディオ波形を細かく切り刻み、リズム上に配置し直すこと)

――変拍子はあまりお好きではない?

 シンプルに難しいですからね。僕の曲で変拍子は1曲くらいしかないんじゃないかな? 拍を数えることに集中してしまうのでうっとり出来ないんです(笑)。

どこか通底したものはある

村上順一

堀込高樹

――確かにそれはあるかもしれないです。さて、カップリングに「恋の気配(2021 Version)」を収録されていますが、どんな経緯があったのでしょうか。

 「恋の気配」は元々コトリンゴがボーカルの曲で、彼女が抜けた後も、ライブでよく演奏していました。ライブでやるために僕の歌いやすいキーに直したりしていて、それだったら録音物として残したいと思ったのがきっかけです。もちろん自分にとっても好きな曲ですし、お客さんも気に入ってくれている曲でもあるので、今後ライブをやる時のためにも僕がボーカルをとったバージョンが音源としてあるのも良いかなと。

 シングルのカップリングとして過去の曲を順次リメイクしていくのも面白いと考えています。弓木(英梨乃)さんが歌っていた曲や、兄弟時代の曲も今ライブでやっているので、こういったタイミングで作品化していきたいですね。

――リアレンジすることで新たな発見みたいなものもありますか。

 ライブで歌っていたので今回改めて新しい発見というのは正直無いです。自分でアレンジしたものを改めてアレンジするというのはなかなか簡単ではなくて、あまり元のアレンジとかけ離れるのも良くないですし、違う部分も作らないといけないから、その加減が難しいですね。

――ギターソロが入っているのは変えたところですね。

 はい。あと、キーももちろん違いますし、リズムも1から組み上げたので、その変化はあります。

――楽しみが広がります。最後に新体制となって半年以上が経ちましたが、KIRINJIの本質はどこにあると感じていますか。

 僕がやる事がKIRINJIであると思ってもらっていいと思っています。元々僕がやりたいと思って始めたグループですし、バンド編成になったのも、僕がバンドをやりたいと思ってメンバーを集めたので。兄弟の頃とバンド編成のKIRINJIは音楽的にも少し違いますが、どこか通底したものはあると思う。ムードなのか、メロディやハーモニーの感覚なのかは上手く説明が出来ないのですが、それは聴いてくれる皆さんに感じ取ってもらうしかないのかなと。

 大きな話になってしまいますが、日本という国があって平安時代と江戸時代ではカルチャーが違う。現代でも戦前と戦後では世の中の様子が違いますし、言語にも変化が訪れている。とはいえ、それでも日本ならではの通底したもの、マインドが必ずあります。同じようにKIRINJIも外見は変わっていってますが、通底するマインドは変わっていないと思っています。例えば野球で監督や選手、スポンサーも変わってしまっているのに、そのチームをずっと応援している人たちがいる。今は近視眼的に捉えられることも多いので、こことここは違うと分類されることもあると思いますが、引きの目で見た時に同じようなムードが漂っている、「なんかKIRINJIっぽいな」というのが将来的に伝わればいいなと思っています。

(おわり)

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