- 1
- 2
山本千尋が、現在放送中のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で暗殺者・トウを好演中だ。山本は3歳から中国武術を習い、数々の世界大会で優勝、JOCジュニアオリンピックでは長拳・剣術・槍術の3部門で3連覇の実績を有する。これまでにも数々の作品で圧倒的なアクションを見せてきた彼女が本作でもいかんなく発揮。初登場の際に見せた演武は大反響を受け、以降、登場の度にSNSで話題になるなど個性派ぞろいの本作で存在感を放っている。出演の経緯や想いについては過去のインタビューでも語っているが、今回は名シーンの舞台裏を聞く。【取材=木村武雄/撮影=村上順一】
初登場シーンへの想い
――トウの初登場はかなり反響がありましたが、それを受けてご自身の意識は変わりましたか?
オンエアされるまで「大丈夫かな」という気持ちもありましたが、反響を頂いて「このままでいいんだ」と自信が持てるようになりました。
――しゃがんでくるっと回る立ち回りというか、演武は山本さんの案も?
基本はアクション部さんがつけて下さったんですけど、私も案は出させて頂きました。「時代にそぐわない」と言う話も出ましたが、中途半端なものにしたくはないと思い、大げさになってしまうかもしれませんが爪痕を残したいとわがままを言わせて頂きました。
――視聴者からも「中国武術の要素が見られる」という声があって。でもそれは山本さんの色ですからね。
そう言われるだろうなとは予想はしていました。三谷さんに最初にご一緒した時「山本千尋はアクションが出来るんだというのを僕の大河で発揮させたい」というような事をおっしゃって下さっていたので、それを実現できて私としては悔いのない登場シーンになりました。
何かの目的を果たす役割、トウ
――トウに関しては三谷さんからは人物像についてのお話はあったんですか?
「こういう目的を果たす、そのためにトウという役柄を生み出した」ということは聞いていました。『鎌倉殿の13人』にはオリジナルキャラクターもいますがそのなかの一人でしたし、三谷さんも「僕も楽しんでいるから、千尋さんも楽しんでね」と言って下さったので、三谷さんが描いて下さったトウという役を楽しもうという気持ちで前半は臨んでいました。
――暗殺者ですが優しい人柄が見られる描写もあって。
きっとトウはこの道に好きで進んだわけじゃないでしょうから、人間味というのはどこかにあると思っています。
――ネガティブな部分だけを強調していないというか。一幡(頼家の嫡男)を殺める前に一緒に遊んでいてあのギャップも、トウというキャラクターを印象付けさせたように思えます。
善児に復讐を果たす時も、実は人間味ある女の子なんだと台本を読んだ時に思いました。命令された“仕事”は割り切って感情もなくやっているんですけど、何か内に秘めているものがあって、もし両親が殺されなかったら、もしこの道に進まなかったら、村に住む一人娘として家族と幸せに暮らしていたかもしれないので、根っこの部分は捨てないでいたいと思いました。
役は三谷幸喜氏からのラブレター
――その善児に復讐を果たすシーンも印象的でした。あの複雑な感情を見事に表現されていたと。
三谷さんは、その人のために役を書いたりされるんです。例えば、この人物はこういうキャラクターで役者はこの人だと思いながら書いていて。なので私に重ねながらトウという人物を描いて下さったのかなと思っています。
――愛情がありますね。
愛の塊ですね。ラブレターを受け取っているかのようです(笑)。
――悪役でも憎めないというか。
最終的には悪い人がいないというか。例えば歴史上で世紀の大悪女と言われた政子が悪女に見えない。歴史上に書かれているだけで本当は違ったんじゃないかという見方もできて。三谷さんの根っこには役者さんの事が大好きなんだという事が垣間見えます。
――毎回台本をワクワクしながら受け取る感じですか。
めちゃくちゃワクワクしていました!「次どうなるんだろう」って私が一ファンになっていたので。それはたぶん私だけじゃなくて、『鎌倉殿の13人』のスタッフさんや演者さんたちみんなファンになっているのが感じられました。
山本耕史とのアクション
――山本耕史さん(三浦義村)とのアクションもありましたね。あの舞台裏はどうだったんですか?
耕史さんとは2年前に舞台『INSPIRE 陰陽師』で初めてご一緒させて頂きました。この舞台はお互いにアクションはあったのに、同じ場面で立ち回りすることはなくて。稽古は一緒にしていたんですけど「一緒にできなくて残念だね」という話をしていたら、耕史さんが三谷さんに「千尋と俺が戦ったら面白いんじゃない?」と言って下さって。まさか本当に描いて下さるとは思いもしなくて。それが第38回で実現したので嬉しくて、やっている時は楽しくて仕方なかったです。
――あのシーンは何回かテイクは重ねたんですか?
リハーサルは結構重ねましたが、本番では1回OKがほとんどでした。耕史さんは撮影と撮影の間に空いた2時間とかでリハーサルに付き合って下さって。そのおかげもあったと思います。スタッフさんも、アクションシーンを楽しみにされていて、恵まれているなと思いながら安全第一で楽しく撮影しました。
――山本耕史さんと対峙していかがでしたか。
一緒にアクションをさせて頂き本当に楽しかったです。アクションは相性もあるので、きっと耕史さんはどんな人でも受け入れる受け身ができる俳優さんだなと思っていて、私が上手く見える様に合わせて下さって、すごくやりやすかったです。
――山本千尋さんがそういう反対の立場になるのは稀じゃないですか。
ここ最近は確かにそうかもしれないですね。こんなにありがたい経験をさせて頂けるなんて感謝してもしきれないです。耕史さんみたいな人が大河の現場で率先してアクション練習しようとか、こっちの方がいいんじゃないとか言って下さるとみんなテンションが上がって「耕史さんが言うなら!」となっているので、私みたいな若手俳優からするとすごくありがたいことでした。
2人の主、義時、善児
――そんなトウの主は現在、義時ですが小栗さんとはどうですか?
やっぱり座長だなと思いました。みんなとの距離感の取り方とか、私の誕生日を知って下さっていたり、座長のあるべき姿を小栗さんが見せて下さっているというか。楽しいだけではなく、締まるシーンの時は寡黙にいらっしゃったり、主と使いの者という一定の距離感がありました。ただ、すべての撮影が終わった時に初めて素の小栗さんが見れたと言いますか、こんなにフレンドリーな方なんだなって。役を本当に生き抜いた方なんだなと思いました。
――大河ともなれば長い期間ですし、あの距離感というのは話し合ってやられたんですか?それとも自然と?
実は、小栗さんとはお芝居の打ち合わせは一回もしたことがないんです。そこまでセリフを掛け合うことがなかったので、演出家の決めたポジションでこうかなって感じで、不思議な経験でした。
――それと善児の梶原さんとは最後のシーンが終わった後に言われたことや印象的なことはありましたか?
あっけらかんとされているんですよ。「来週からまた舞台で忙しいんだよ~」くらいしか言ってなかったです(笑)。でもお芝居の時は入念にリハーサルを重ねて下さって、相手がこう思っているんだろうなということを察して下さいますし、復讐シーンだからこそみんなが暗くならないように明るくいて下さっていた気がします。
――そうでもしないと気持ちが引きずられてしまいますからね。
梶原さんが何かのインタビューで「さすがに今回の役どころは口数が少なくなります」っておっしゃっていて。でも誰よりも現場でしゃべっているんですよ(笑)。でもお気持ちは分かるんです。殺される側より殺す側の方が引きずる気がしていて、私も頼家の金子大地さんとせつ役の山谷花純さんの最後というのは結構引きずりました。
念願のアクション監督のもとで
――さて話題は変わりますが、Netflixシリーズ『今際の国のアリス』シーズン2で「絵札のカード」スペードのクイーン・リサ役を演じます。いかがでしたか?
撮影環境が過酷だったといいますか。でもアクション監督が念願の下村勇二さんでした。『キングダム2』に出演させて頂きましたが、その時はアクションを下村さんチームですることが叶わなかったので。当時25歳でしたが、その時の私にできる素手のアクションの集大成を下村さんが撮って下さったような感じがしました。
ただ昼夜逆転の生活でしたし、発電所のビルを借りていたので、機械音でみんなの声が聞こえないんですよ。そんな中でのアクションだったので大変な部分も多かったんですけど、そういった作品のほうが記憶に残るといいますか、やり切った感がありました。世界配信なので多くの方に観てもらいたいなと思っています。
(おわり)
- 1
- 2