INTERVIEW

山本千尋

恩返しがしたい 『キングダム2』『未来への10カウント』『鎌倉殿の13人』、そして恩師への想い


記者:木村武雄

写真:『鎌倉殿の13人』トウ役を演じる山本千尋。初登場で強烈なインパクトを残した(写真・NHK提供)

掲載:22年08月05日

読了時間:約11分

 山本千尋が、公開中の映画『キングダム2 遥かなる大地へ』で羌かい(清野菜名)の姉のような存在である羌象を好演。更に、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で善児(梶原善)に育てられた孤児・トウを演じる。山本は中国武術を3歳から習い数々の世界大会で優勝した経歴を持つ。女優としては2015年公開の映画『太秦ライムライト』でベストアクション女優優秀賞を受賞。様々な作品で持ち前の身体能力を活かした圧倒的なアクションに挑んでいる。記憶に新しいのはドラマ『未来への10カウント』(テレビ朝日系)での名門校の最強選手。プロボクシングライセンスを持つ彼女だからこその説得力で最強選手を好演し話題を集めた。益々注目を集める彼女の今の心境に迫る。【取材=木村武雄】

意識した山田杏奈との距離感

 『未来への10カウント』では、1年生にしてインターハイに出場、3年生を相手に優勢な状況で試合を運んだ高い実力を持つ名門京明高校の最強選手、奥村紗耶を演じた。インターハイ予選で松葉台高校の水野あかり(山田杏奈)と対戦した。

――山田さんのパンチが思いっきり入っていましたね。寸止めではなくしっかり打ち込まれていたのが印象的でした。

 ボクシング作品が初めてでしたので勉強させて頂くところがたくさんありました。アクションと違ってちゃんと打ち落ち込まれないと後悔すると思いましたので、山田杏奈さんに遠慮なく打ってくださいと言いました。一般的には敵対する相手だから距離を置こうとすると思いますが、私の考えではその逆で距離を近づけてお互いに遠慮なく話した方がきっと良い画になるのではないかと思いました。杏奈さんもしっかり打ってくれて、それを受け止めることができてすごく幸せでした。特に最終回は自分たちの中でも熱いものが作れたんじゃないかなって思います。

――距離を近づける発想はアクション経験からですか。

 ケガをしてしまったらそこで止まってしまいますから。アクションでケガをするのは、呼吸が合わないことが大きく影響していると思うんです。特にボクシングの場合はちゃんと当てていないと映像を見て分かってしまうので。杏奈さんは幼少期から運動をする機会がどちらかというと少なかったみたいで、ものすごいプレッシャーのなかで努力をされていて。私はアクション経験もあるのでひとつの安心材料として私が近くにいられたらと思っていました。アクション経験が豊富なもの同士だから素晴らしいものができるかと言ったらそうではなくて。気持ちで負けていない杏奈さんとの対戦だからこそ起こる化学反応もあって。杏奈さんから学ぶこともたくさんありましたし、すごくいいペアだったんじゃないかなって個人的には思います。

福本清三氏への恩返し

――今思えば、『封刃師』での早乙女太一さんにしかり、経験者を相手にすることが多かったですよね。

 確かにそうでしたね。それはそれで本当にかけがえのない時間で楽しかったです。けれど、どちらかというと、私が早乙女さんたちに合わせてもらってるみたいな感覚の方が強かったので、自分が相手のためにどうサポートに回れるかということを大きく考えたのは『未来への10カウント』で、勉強になった瞬間でもありました。

――とは言っても難しいと思うんです。山田さんはボクシングが初めてで。だけど下手に見せちゃいけない。一方、受けとして上手すぎちゃいけないし。そのバランスが相当大変だったんじゃないですか。

 なんとなく自分の中で福本清三さんへの恩返しまでは大げさですけど、福本さんがされてきたことってきっとこういうことだと思いました。亡くなられましたけど、福本さんがもし、奥村紗耶の立ち回りを見られたら「ああ、この子に教えてきてよかった」って思ってもらえるようなポジションでいようというのは心の奥底で思っていました。杏奈さんができないことに挑戦していく姿は私たちには比べものにならないぐらいのプレッシャーがあったと思うんです。だから私がパンチをもらう側として、いかに杏奈さんを強く、そしてかっこよく見せるか、というのは福本さんがずっと考えてやってこられたことだと思ったので、少しでも福本さんに「千尋ちゃん良かったよ」って天国から言ってもらえるくらい頑張らないと、というのはひそかな課題として持っていました。

 ※福本清三氏…「5万回斬られた男」の異名を持つ俳優。2021年1月1日に肺がんのため亡くなった。山本は、福本氏が主演を務めた映画『太秦ライムライト』で共演。

――前回も福本さんに何か恩返ししたいというようなことをおっしゃっていましたね。

 福本さんがご存命のうちに何もお返しできなくて悔やまれることがいっぱいあって…。でも私の中で福本さんはずっと生き続けています。どこかで見てくれているんじゃないかと感じるというか。

――ずっと生き続けているんですね。

 ずっと生き続けています。今回出演させて頂く大河ドラマ『鎌倉殿の13人』もそうですが、念願の時代劇。見てくれているって毎回思うので、自分に活力だとか力を与えてくれる人としてずっと見守ってくれている存在というのは大きく感じています。

求められることに嬉しさ

――山田さんとの共演を通じて他に見えたものはありますか?

 杏奈さんとの距離感は心地良くて、年齢は私の方が3、4つ上なんですけど、そこまで離れた年下の方と同じ歳の役をやるのは初めてでしたので、自分の年齢を考えたときに、私自身もいつまでも「太秦の女の子」ではダメなので成長を見せる時といいますか、変わっていかないといけないんだなって思いました。特に去年から今年にかけては、いい意味で自分が見えた瞬間でもありました。

――見えたというのは?

 自分の弱さを知ることもできましたし、自分が求められていることとか、何を重要に思うのかとか。ある意味、コロナという期間も本当にするべきことは何かとか、制限があった世の中だからこそ、そういった取捨選択ができたいい時間だったのかなと思います。

――『誰かが、見ている』(20年9月配信開始)でアクションだけでなく、普通の女性の役も演じてみたいと話されていて、それ以降、現代劇から時代劇まで様々な役を演じれてこられて、そして最近はまたアクションが増えてきていて。いまどう捉えていますか?

 アクション作品が続いているからアクションがしたくないという感覚はまったくなくて、もちろん普通の女の子の役をしたいとも思ってはいるんですけど、「山本千尋さんにこの役をやってほしいんです」と言われたらそれ以上にありがたいことはないので、だからもうどんどんやらせて下さいという気持ちです。これからもアクションはしていきたいですし、アクションじゃない役も見てほしいです。自分から求めるよりは、きっとそのタイミングで求めてもらえることってたくさんあると思うので、求められたときにいかに準備できているかが大事だと思っています。でもいろんな作品に出たいということばかり考えてます(笑)

――求められることに応えていきたいというのがベースにあるんですね。

 そうですね。やりたくない役なんてもしかしたらないんじゃないかって思うぐらいいろんな役をしたいですね。求められているものは絶対あると思いますので。今はありがたいことにアクションを求めて下さったり、気の強い役とかを求められることも多いので、その役を私にやってもらいたいと思ってもらえる限り頑張れる力になります。求めて頂いているからには、それ以上のものを提供したいという欲もあるので。まだまだ頑張り不足なところも多いので、やっぱり日々鍛錬だなって思います。それは中国武術をしているときから女優になっても変わらないなって思います。

――ハリウッドに行きたいと言っていましたが、それもやっぱり大きく影響されてるんですか。

 自分にチャンスがあるならもちろん行きたいです。私の中で変わったことといえば、明確にここっていうものを今は作ってないということです。中国武術をしていたときは夢という言葉がすごくピンと来ていたんです。でも女優業に関してはこういう夢があるっていうのは何か自分の中でしっくりこなくて。だから目標という言葉に変換するようにしています。例えば大河に出たい、朝ドラに出たい、アクションを磨きたい、ハリウッドに行きたいといういろんな目標がある中で、それを徐々に回収していきたい。回収することによって、また新たな目標が生まれる。何か欲張っちゃうんですよ。1個夢が叶うとまた5個ぐらい拡散されて。私の目標はその目標をたくさん回収していって、叶えていくことになりました。だからハリウッドという目標もまだ遠い未来かもしれないですけど、回収したい目標の1つとしてふつふつと大きくここにいます。

温かい現場に充実感

――その中で迎える大河ドラマ『鎌倉殿の13人』。初大河への心境と、何十話も重ねてきたところに出演する心構えを教えてください。

 今撮影中でクランクインして間もないんですけど(※取材時)、夢を見てるのかって思うぐらい、まだまだあり得ないという感覚です(笑)。小栗旬さんとか梶原善さんたちを見て「芸能人だ!」みたいな感覚で。その人たちとお芝居できることが嬉しくて現場で泣きそうになった時があるぐらいです。幸せだと思いながらも、三谷(幸喜)さんから与えられた課題と、自分がなぜここにいるかという使命を我に返って思い出す瞬間があるので、皆さんにいただいた土台を大きなステップに、トウという役を初めての大河で駆け抜けたいなと思っています。

――三谷作品は『誰かが、見ている』以来ですが、どうですか?

 現場にいらっしゃらないのに三谷さんが放つ温かいオーラが現場にあるんです。キャストの皆さんもスタッフの皆さんも皆さん温かい。私が刀を抜くだけのシーンなのに、自然と照明さんが刀に光を当ててくれたんです。大河の現場に行くと、いかにこの子をカッコよく見せてあげようかなとか、どの角度、どういうポジションで撮ったら、カッコよく見えるかということなど、カメラマンさんや演出の方々、先輩方からその気持ちがすごいひしひしと伝わってきて。そういった環境にいさせていただけているので、今は胸をお借りして甘えさせていただいて、思いっきり演じたいと思っています。

――『誰かが、見ている』では父役だった佐藤二朗さんとはいかがですか?

 二朗さんにお会いしたのは、クランクインする前にカツラ合わせと衣裳合わせがあって、初めて大河クルーの皆さんのところに行く日でした。本当に緊張がすごくて(笑)、緊張しながらカツラ合わせをしていたら、「おう~千尋か~」って二朗さんが来て下さって。すごくほっとしました。まだまだ撮影は続くんですけど、いろんな人に助けてもらってるなって思える瞬間がたくさんあります。

――こうして大河に出られるのは『誰かが、見ている』でしっかり成果を出した証だと思いますが、どうですか。あれだけ個性的なキャストのなかで山本さんも個性をしっかり出されて。

 どうでしょうね。でも三谷さんのお人柄がとても素敵で人間性というものにすごく惚れています。『鎌倉殿の13人』の制作発表があった後、「どうしても出たい」とちょっと期待を抱きつつ、月日が流れること半年。もうダメなのかなと思っていた矢先に「トウという役で出演することが決まりました」とご連絡をいただいて。本当に嬉しかったです。『誰かが、見ている』があったからというわけではなく、本当にいろんな人のおかげで決まった役だと思っています。だからこそ、これからどうお返しできるかというのも考えながら日々現場にいさせていただいています。

『キングダム2』で中国武術の恩返し

――『キングダム2 遥かなる大地へ』はいかがですか。『キングダム』連載10周年実写特別動画で羌かい役を演じられて、今回はその姉・羌象役ですが。

 その動画に参加させていただいてから作品への愛は深まっていますし、羌かいというキャラクターにものすごく思い入れがありましたので、今回その思いを理解して下さったスタッフさんたちが羌象という羌瘣の姉のような存在の役を「ぜひ山本さんに」って言って下さったのは本当にありがたかったです。今まで私が羌かいに対して思っていた愛は決して無駄ではなかったからここで生きたんだと思うと、本当に自分のやるべき使命というものが明確になった瞬間というか、やっぱり『キングダム』というものは私にとって末永くあり続ける作品の1つなんだなって思っています。

――山本さんはもともと中国武術をされていて、ゆかりのある作品に特別な思いもあったのではないかと。

 中国武術に恩返しできる作品だと思いました。これまでも中国武術を活かしたアクションはありましたが、私がやってきた武術は舞を見せて得点をつけてもらうという競技でした。なので、そこまで忠実に表現させてもらえる機会はなかったんです。でもこの作品のおかげで中国武術への世間の感覚というものが変わったと思うんです。私の幼少期は中国武術をからかわれて認めてくれないことが多くて。『キングダム』によって中国武術はカッコいいという見方に変わった部分もありましたので本当に感謝にしかないなと思っております。

――『ウルトラマンジード』でのライハ役でも舞はしていましたよね。

 舞はしていたんですけど、やっぱり刀を回してアクションをしているときのほうが多くて。鳥羽ライハというキャラクターは坂本(浩一)監督が作ってくださったような役でしたので、またちょっと羌かい、羌象という役とは違いがあって。羌かい、羌象っていうのは本当に中国の時代にああいう戦い方をする人がいたんじゃないかなって。中国武術はそこから生まれてきたスポーツだと思うので、その原点というものに触れられたことも、私としては大きな財産だと思います。

清野菜名と通じ合っている感覚

――羌かいを演じた清野さんとは?

 撮影期間が短かったので話せる時間が限られてしまったんですけど、不思議と心で通じ合っている感じがあって。私は人見知りなんですけど、たぶん清野さんも人見知りで、人見知り同士が一生懸命喋り合ってる感じが心地が良くて。清野さんも私に対しては結構プライベートのことも話してくれたと思うんです。なぜなら姉妹のように寄り添って行く役ということで、清野さんの普段の無邪気な姿やひたむきに頑張る姿とかが、年上なのに可愛らしく見えてしまって、私も姉のような存在という役どころで清野さんの普段の姿を見れたというのは役作りにおいて必要なことだったなとお会いした時に思いました。

――実際は清野さんが年上ですが、姉としての立ち振る舞いはどのようにされたのですか?

 戦国の世の中で男性が刀を交える中、女性が刀を手にとり戦に出るって、大河ドラマのトウという役もそうですけど、ものすごい鍛錬と覚悟が必要だと思うんです。羌象という1人の女性も妹のような存在の羌かいを守らなければいけないということにプラスして、自分も刀を持たないと生きていけないという運命の中で生きていく女の子ということで。一緒にしてしまうとすごく失礼にあたるかもしれないんですけど、私も小さいから刀を持って練習しないと自分の成績が出せないっていう環境にいましたし、練習が結果につながるというのもよく分かっていたので、羌象という役どころにすごく共感できる自分もいました。私も姉がいて2人姉妹なので、近しいものを感じていたり、清野さんの姿が、私に羌かいを守りたいっていう思いを抱かせてくれる存在でしたので、私がこういう立ち振る舞いをしようという感覚ではなく、中国武術で培ってきたものや、清野さんが現場で与えて下さった環境が、私が羌象を演じるにあたってのいいヒントになりました。

――こう考えると福本さんや三谷さん、中国武術など恩返しの連続なんですね。

 できていないんですけどね…(笑)。自分の実力でできていたらカッコいいのかもしれないですけど、私の場合はいろんな人のお力を借りすぎていて、その人たちにどう恩返しするべきかをずっと考えています。もしかしたらさっき言ってた目標の話じゃないですけど、夢がそこに当たるかもしれないですね。

――恩返しが?

 はい。ゴールがそこかもしれないです。今思うと、いろんな目標を回収して、お世話になっている方に恩返しすることが夢かもしれないです。

(おわり)

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『鎌倉殿の13人』トウ役を演じる山本千尋。初登場で強烈なインパクトを残した(写真・NHK提供)

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