INTERVIEW

小野花梨

『ハケンアニメ!』で天才アニメーター役「天才の陰に努力」


記者:村上順一

写真:村上順一

掲載:22年05月21日

読了時間:約7分

 小野花梨が、吉岡里帆主演の映画『ハケンアニメ!』(20日公開)に出演する。直木賞&本屋大賞受賞作家・辻村深月氏による同名小説が原作。地方公務員からアニメ業界に飛び込んだ主人公・斎藤瞳(吉岡里帆)がアニメの頂点「ハケン(覇権)アニメ」の称号を手にするため熾烈な戦いに挑む、アニメ業界の舞台裏を描く。09年公開の映画『南極料理人』や、今年は連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』、『恋なんて、本気でやってどうするの?』など話題作への出演が続く小野。本作では作画スタジオ「ファインガーデン」所属の天才アニメーター並澤和奈を演じる。インタビューでは、天才と称される並澤和奈をどのように演じたのか、小野花梨の仕事への原動力はどこにあるのか、などを聞いた。【取材・撮影=村上順一】

ゴッホ展に行ってみた

――今回、プロのアニメーターということで、絵を描く練習もされたとのことですが、どのような練習を?

 実際の絵はプロの方に描いていただくというのを聞いていたので、私は作業している姿がどうしたらプロのように見えるのか、というところを練習しました。プロのアニメーターの方は短時間で膨大な絵を描くので、絶対にやらないペンの持ち方や、手首の動かし方など一番効率がいいものがあるみたいなんです。そういった理屈もしっかりあったので納得しながら練習することができました。

――ご自身が演じる並澤和奈はどのように映っていますか。

 並澤和奈は工藤阿須加さん演じる宗森周平にリア充と言ってしまったり、きっとリアル的な面では充実してない、あまり自分に自信がない人なんだろうけど、ただ自分が任された仕事や自分の描く絵には自信があるんだろうなとは思いました。普段とのメリハリを意識して、天才アニメーターと呼ばれている人でも、普通の女の子の一面があったり、どうすれば魅力的に見えるのか、というところも吉野監督と相談しながら作っていきました。

――今回、アニメーターということで、絵を描くお仕事ですが、小野さんは普段絵を描いたりされますか。

 普段描かないんです。それもあって絵を勉強しようと思いゴッホ展に行ってみたのですが、結果的には「何にも分からないけど、これが高価なものなのか!」って(笑)。でも今作を通してやっぱり絵ってすごいなと思いました。二次元だからこそできることもたくさんあって、実写では難しいけど、絵だからできる可能性を秘めているところもすごく興味が湧きました。

――アニメの制作現場を体験したことは?

 全くなかったです。声優さんが声を入れるとき、私は完成した絵に向かって声を一番最後に入れるものだと思っていたんですけど、ラフな感じで書いた絵に完璧な声を当てていかなければいけないのかと知って、そこが一番びっくりしました。

――声優に今後チャレンジも?

 やらせていただけるなら、何でもやりたいと思っているのですが、俳優さんと声優さんがやってる声の違いはやっぱりわかるじゃないですか。プロはやっぱり違うんです。そんな簡単に踏み入れていい領域じゃないと言いますか、相当覚悟を持って勉強して、やっとその場に立てるような場所だと思っています。

――アニメ業界に対するイメージで変わった部分も?

変わりました。あんなにたくさんの人が関わっていることがイメージできなくて驚きました。作中でライトに色をかざして、「それは何ブルー?、コバルトブルー?」と、アニメ監督役の吉岡里帆さんがスタッフさんとやり取りする場面があるんですけど、色というのは私からしたら青、赤、黄色でしかなかったものが、アニメーターさんにとってはいくつもあり、細かい調節をしてアニメが出来上がってるんだというのを知って、すごいことをしているなと思いました。

――今回の作品で今までと違うと感じたところはありましたか。

 吉野(耕平)監督はすごく優しい方で、何か日だまりみたいな方でした。日差しではなく、そよ風みたいなすごく柔らかい雰囲気の方だったので、ベタベタに演出をつけたりとか、こうしてください、というのはあまりなかったので、そこは自分で考えて演じました。ご一緒した工藤阿須加さん、六角精児さんと「ここはもうちょっと熱心に画像を見てる方がいいかもね」とかお話して、それを吉野監督にお見せして「それでいこう」というのも多かったです。

――演者さんの意見を尊重してくれるような。

 はい。すごく尊重して下さって、「その演技をとてもいいです」と言ってくださる方で、撮影現場に行くのがすごく楽しかったです。

――新しい発見や見方が変わった部分はありましたか?

 並澤和奈が所属する作画スタジオ「ファインガーデン」は、アニメ『サウンドバック 奏の石』と『運命戦線リデルライト』どちらの作画にも携わっていて、ライバル構造にあるどっちの作品も応援しているんです。そういうのはあまり構図としてなかったシチュエーションだと思いました。それがけっこう斬新で、私も演じていて「サウンドバック」と「リデルライト」どちらを応援すればいいのか、というのは面白かったです。割と他のことでもVS構造になることはあると思いますが、ただ敵対している両者だけではない、というのがリアルですごくいいなと思いました。

――演じるにあたって一番こだわったところは?

 天才アニメーターというのに、引っ張られすぎないように、その人なりの人生がある、という、人としてリアルを意識しました。私の演じる並澤和奈は23歳なんですけど、すでに大人を納得させる神作を描く天才と呼ばれています。その彼女にもコンプレックスがあって、人生があって、男性とデートしてウキウキしたりとか、ちょっとおめかしして一喜一憂したりとか、そういう面があることがリアルでした。

小野花梨

小野花梨

小野花梨にとっての天才とは?

――天才アニメーターというところで、小野さんが「この人は天才だ!」と思った人はいますか?

 例えば絵を見て、これを描いた人は天才、電子レンジを作った人は天才だ、とかそういうのはよくあります。例えばすごい監督さんと会わせていただく機会もありますけど、そういう人でも苦労されていることがわかります。すごく考えて作品を作っていますし、いろんな人の力を借りて作っていて、一人で飄々と何でもこなす人ってたぶんいないと私は思っています。

 それを乗り越えて作品を作るということが、天才みたいな見方もあるとは思うんですけど、もがいていることがすごく愛しいですし、尊敬できます。すごい方でもこんなに苦しんで何かを作っているのなら、私ももっと頑張らなきゃいけない、と元気をもらったり、そういうことが多かったと思います。

――天才と称される方でも裏では努力されて、何かを成し遂げているんですよね。

 天才というその言葉の表現自体、何かに甘んじている気がします。すごいものを見た時、簡単で一番近いものをチョイスしている感じがして。天才と言われる人にもきっといろいろあるから、それを全部ひっくるめて一言で治めてしまうのが、ちょっともったいないかなと思います。生まれた瞬間からそうだったわけじゃないと思いますし、見えないところで努力していたことが、表に出たときに変わるだけなんじゃないかなと思っています。

――天才と呼ばれる並澤和奈もすごい努力しているということですね。

 そうだと思います。その努力が自信になり、それが絵にも出ると思うから、すごく努力してきた女の子、というふうには解釈して演じようと思っていました。

役者としての原動力は「出会う人」

――共演者の方と印象的だったエピソードはありますか。

 中村倫也さんとはお会いできていなくて、尾野真千子さん、柄本佑さん、吉岡さんもちょっとしかご一緒が出来なかったので、多くは工藤さんと六角さんといました。すごく面白いお二方で、六角さんは何でも知っていて博識だなと思ったのと、工藤さんもすごく温かい方でした。私が話すことを親身に聞いてくださって、休憩時間でもみんなでお話ししたり、良い意味で芸能人っぽくないなと思いました。

――六角さんは小野さんにどんなお話をしてくださるんですか。

 例えば「北海道に旅行に行ったんです」と話すと、六角さんは「北海道のあの鉄道が~」とか、「あそこの宿が~」とか、「次に旅行に行くのなら福岡が良い」とか色々お話しくださいました。あと工藤さんは農業をされているので、農業のお話しもすごく面白くて。無農薬のお野菜を作ったお話を興味深く聞かせていただきました。

――小野さんは役者としてのキャリアは15年を超えますが、ここまでやってこれた原動力は?

 出会う人だと思います。出会っていなかったら、私は役者を続けていなかったかもしれないと思う人が何人もいるんです。それは事務所の社長さんもそうですし、監督さんやプロデューサーさん、もうダメだなというタイミングで「お前はまだやれる」、「まだまだやるべきだ」と、私を鼓舞してくれる人に出会ってきました。その出会いは奇跡だなと思っています。

――心が折れそうになったこともあったんですね。

 今も下積み時代だと思っていますが、しんどいと感じることも多くて。自分は全然求められてもいないし、期待もされていない、というのを感じたときに「もう嫌だ!」と投げ出してしまいたくなることもありました。その度に普通に就職した方が幸せなんじゃないか、と思うことも少なくなかったんです。

――でも、自分を救ってくれる方が現れて、そういった出会いを求めて今も活動できているんですね。

 本当にそうです。役者というのはたくさんの人に出会えるお仕事で、そこがすごく魅力的だなと思っています。凹むこともありますけど、それ以上に素敵な人と出会えることが、自分のモチベーション、原動力になっています。

小野花梨

(おわり)

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