INTERVIEW

小野花梨

「ひと回りは成長した姿を」:舞台『パラダイス』インタビュー


記者:村上順一

写真:村上順一

掲載:22年10月18日

読了時間:約6分

 女優の小野花梨が、10月7日から11月3日までBunkamura シアターコクーンで公演中の関ジャニ∞丸山隆平主演舞台『パラダイス』に出演。詐欺グループの一員である望月道子を演じる。2022年は連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』、『恋なんて、本気でやってどうするの?』、映画『ハケンアニメ!』など話題作に出演し注目を浴びた小野花梨。舞台『パラダイス』は劇作家・赤堀雅秋氏が作・演出を手がける最新作。当初2020年に上演される予定だった作品だが、コロナ禍で中止に。時を経てほぼ当時と同じキャストで再演が実現した。物語は、巷で蔓延する詐欺グループの刹那的な成功と、そして転落を描く。インタビューでは、この舞台に臨む姿勢から、シアターコクーンの思い出、さらに見どころなど多岐に亘り話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】

意識を出来るだけ日常に溶け込ませる

村上順一

小野花梨

――復活上演が決まった時の心境は?

 もう二度とこのキャスト、座組みで公演はできないんだろうなと思っていたので、上演が決まったと聞いた時は、本当に嬉しかったです。共演者の皆さんとは一度も会えずに中止になってしまったのですが、またお会いできて、本当に嬉しかったです。

――どんな姿を皆さんに見せたいですか?

 2年間の経験の蓄積がありますから、ひと回りは成長した姿を見せられないと、自分としては困ります(笑)。なので、2年間空いてしまったけど、皆さんが良かったなと思ってもらえるような演技をしたいと思っていますし、そうしなければと思っています。

――赤堀さんはどんな印象ですか。

 言葉がすごく直球で、何をおっしゃりたいのかわかりやすいです。なぜこの言葉をこのタイミングで発したのか、というのが伝わってきます。あと、赤堀さんはご自身で演じて、見本を見せて下さるんです。どんな役でも体現して下さって、それが本当にお上手で。例えばこんな感じで殴ってほしいと見せていただく演技も上手いですし、殴られる役も上手いので、ニュアンスがすごく伝わってきます。個人的に赤堀さんがお1人で10人ぐらい演じる舞台を観てみたいなと思いました。

――今回、詐欺にまつわるストーリーなのですが、テーマを聞いてどう感じました?

 良くないことですが、日常で詐欺はよくあるんだろうなと、頭ではわかっているんですけど、わたし自身は詐欺にあったこともないですし、未知なるものとして不安感はあります。それを自分が体現できるのか、という不安もありました。

 でも、赤堀さんが台本に、なぜ望月道子がこの詐欺グループにいるのか、という背景まで書いてくださっていて、それが登場人物一人ひとりに書かれているので、いまは得体の知れないものという不安感はないです。すごく安心して稽古に臨めています。

――小野さんは事前準備はそんなにやられないみたいですね。

 そうなんです。しっかり準備をしたこともあったんですけど、していく中で緊張してしまうんです。私にはその傾向がある気がして、舞台という意識を出来るだけ日常に溶け込ませるようにして、「なんでもないんだから」と思い込むようにしています(笑)。

復讐という言葉がキーワード

村上順一

小野花梨

――小野さん流のやり方ですね。さて、主演の丸山さんはどんな印象でした?

 面白くて優しくてテレビで見たままの丸山さんがそこにいて、ビックリするくらいイメージ通りの気さくな方でした。その丸山さんが詐欺グループのリーダーをやっているわけで、セリフも今までの丸山さんのイメージとは180度違うと思います。赤堀さんの見せたかった丸山さんは、こんな人物なんだと衝撃を受けましたし、その丸山さんの演技は本公演の一つの見どころだと思いました。

――小野さんが演じる望月道子はどんな人物ですか。

 詐欺グループの一員です。詐欺のやり方も、手を変え品を変えという感じで、いろんな手段で人を騙していく役で、元風俗嬢でお金に困っている人物です。風俗でのお仕事が上手くいかずに、詐欺のグループにいるのですが、きっと挫折が多い人生だったんじゃないかなと思います。どんなことをしても良いから成功したいと思っている、ギリギリで生きている人です。

――ストーリーとしてのみどころは?

 赤堀さんの特徴でもあるんですけど、人に見せないような、情けない部分だったり、嫌味ったらしい部分など、そういうところをしっかり見せようという脚本になっていると思いました。登場人物の一人ひとりが決して良い人物ではなくて、でもこれが人間だよね、と思わせるような説得力があります。それでもみんな自分の居場所の中で一生懸命に生きている、私はそういったところがこの脚本の魅力だなと思いました。

 セリフの中でよく出てくるんですけど、復讐という言葉がキーワードだなと思っていて、その復讐心みたいなものってすごく人間っぽいなと思いました。今まで見下してきた人たちを見返したいとか、それは人間ならではのもので、ギスギスした気持ちややるせない気持ちを手玉にとって書かれたんだろうなと思いました。

――小野さんは、誰かを見返したいと思った経験はありますか?

 そういった負の感情って、プラスのエネルギーにならないような気がしています。これまで悔しい思いも沢山してきましたし、見返したいと思う人もいたんですけど、その感情が原動力になることは私はないんです。私が明るく楽しく生きていれば、あまりそこには気持ちが向かないと思っています。でも、自然と復讐心みたいなものも、潜在意識の中にはあるのかも知れません。

――そして、今回公演されるシアターコクーンは、小野さんにとって思い入れのある舞台なんですよね?

 そうなんです。初舞台がシアターコクーンでした。2016年に上演された『8月の家族たち』という作品が初舞台で、高校生の時に出演させていただきました。学校が終わって制服のままシアターコクーンに向かって、衣装に着替えて舞台に出るという生活をしていて、それが私の舞台のベースになりました。その2年後には下北沢の駅前劇場という舞台にも立たせていただきました。

 最近もシアタートラムでやらせていただいたりと、舞台にも色々あることがわかりました。でも、初めて立ったシアターコクーンの舞台は特別なイメージがありまして、当時、周りの方から「ケラリーノ・サンドロヴィッチさん演出で、シアターコクーンなんて信じられないくらい恵まれているよ」と聞いて、当時の私もすごく恵まれているんだと感じたのを覚えています。そんな場所に、自分の実力でまた戻ってこなければいけないと思っていたので、こんなにも早く戻ってこられるなんて、驚きと嬉しさがあって、感慨深いものがあります。

――小野さんが思う舞台の魅力とは?

 映像の方は刹那的で瞬発力が求められます。舞台はワンシーンに何時間かけるんだと思うくらい時間をかけます。一つのセリフに向き合っている時間が、映像と舞台では桁が違うと思っています。舞台はそこへの熱量は段違いなので、そこが魅力かなと思います。

――最後にこの舞台を楽しみにしている方へメッセージをお願いします。

 コロナ禍で鬱々とする時間が慢性的に続いています。一歩外に出てこういった作品に触れると、自分の呼吸のテンポが少し変わるような感覚を覚えていただけるんじゃないかと思います。私自身もそういう経験を沢山してきていますので、この作品でそういったことのお手伝いが出来るのではないかなと思っています。そして、この舞台を観て良かった、2時間ここにいて良かったと思ってもらえるように頑張りますので、気晴らしにぜひ観にきてください!

(おわり)

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