実力派俳優の岡山天音が、映画『リトル・サブカル・ウォーズ ~ヴィレヴァン!の逆襲~』(10月23日公開)で、ヴィレッジヴァンガード店員の杉下役を続投した。元は2019年5月14日~6月25日に「メ~テレ」のテレビドラマとして放送され、深夜にも関わらず名古屋を中心としたサブカル戦士たちの熱いハートに火をつけ、カルト的人気を誇った作品だ。岡山自身、映画版への意欲は高まっていたそうで、「自分が主演で、キャラクターをじっくり演じること、長期のスパンを経て同じ役を演じ直すということは初めての経験だったので期待感が大きかったです」と胸中を明かした。
その待望の映画版は、個性を出し過ぎで、誰かの“好き”であふれかえった名古屋発の遊べる本屋「ヴィレッジヴァンガード」を舞台に、自称“空っぽ”の杉下とその仲間たちが、この世からなくなってしまった“サブカル”を、カルチャーそのものを取り戻すため、壮絶なバトルを仕掛けていくストーリーだ。自身も音楽やマンガが好きという岡山は、本作への出演を通じて何を感じたのか。話を聞いた。【取材・撮影=鴇田崇】
初の経験、長いスパンで同じ役
――今回の映画版が決まった時、いかがでしたか?
これまでにもいくつか続編の企画はありましたが、自分が主演で、キャラクターをじっくり演じること、長期のスパンを経て同じ役を演じ直すということは初めての経験だったので期待感が大きかったですね。
――それは、ほかのキャストのみなさんも同じ想いでしたよね。
キャストはみんな仲良かったので、まさに青春みたいな感じだったんです。だからあの時間にまた戻れるという喜びがありました。ただ、現場は大変でした(笑)。ぶっちゃけハードなスケジュールだったりはしたのですが、あのメンバーでなければ乗り切れなかったと思います。
――1はご当地色もありつつ、それが全国区の映画になることへの想いは?
間口として、どう捉えていこうかみたいなことは思いましたが、今は配信で観ようと思えば観られるので、地域性はあんまり関係ないですかね。だからそこまでの大きな課題としては思っていなかったですが、初めてヴィレヴァンを観る方もいると思うので、僕ができる範囲内で初めての人が観るための親切な設計にするためには何ができるかは考えました。
――今回の撮影はいかがでしたか?
実在の店舗をお借りしているので昼夜逆転状態で、人間の極地みたいなモードにみんなで入っていったんですけど(笑)、そういう状態でもどんよりせず、キャストも優しい人が多かったです。出会って日が浅い方と作品作りをすることも多い仕事ではあるので、何を話そうか考えたりすることもあるのですが、今回は何を話したか覚えていないほどずっと夢中で話をしていて、そういうことってそうそうあることではないので、全員がその近い距離感でいられる現場だったので楽しかったですね。
あとはシンプルに贅沢な時間を過ごさせていただいたと思います。ある程度の評価を得たので映画化の機会をいただけたわけですし、そもそもそうやって時を経て同じ人間を演じることもレアケースですし、滅多に出来ない経験をさせてもらえました。いろいろな経験をしてきましたけれど、またひとつ知らなかった貴重な体験をすることができて本当に楽しかったです。
弱っている時にラップをよく聴く
――ヴィレヴァンの魅力のひとつに、わくわくするようなたくさんのモノ、モノに囲まれている幸せってあると思うのですが、先ほどの配信の話じゃないけれどアナログよりもデジタルの流れが加速していくなかで、ヴィレヴァンの魅力について改めてお聞かせください。
僕は音楽もマンガも僕はすごく好きなのですが、両方ともモノとして持っていなくても楽しめるコンテンツになってきたとは思います。でもあえてモノとして手に持っていることで、より好きになる。より自分の人生の中で占める割合が大きくなる。でも、全部が全部モノで、全部が全部データでということではなく、自分なりにチョイスしていくことで本当に豊かになると思います。僕は音楽やマンガはモノとして持っていたい派なので好きなモノは買います。でもヴィレヴァンの物量は再現できないと思うので、必要だと思うし、あり続けてほしいお店だと思いますね。
――たとえば音楽で元気になったとかモチベーションが上がったとか、そういう経験はありますか?
あります。僕はラップが好きで、あの詞は生活する人が自分の生活の半径という狭い世界の出来事を、固有名詞や直接的な言葉をたくさん使って曲を作るスタイルが主流だと思うのですが、その分1回のパンチ力が大きいんですよね。だからどうしてもモチベーションが低下している時など、聴くことは多くなると思いますね。落ち込んでいる時なんかも。考え事や台本の読み込みをする時に聴くのであれば、また別のジャンルを聴くのですが、弱っている時にラップをよく聴きますね。
――好きなアーティストは?
そもそもラップが好きになったきっかけはKOさんで、新しいラッパーの方たちが次々と評価を得てたくさん出てくるのですが、ずっと聴き続けている人がKOさんです。最近はLEXさん。僕よりも年下の男の子ですけど、全部自宅で収録・編集したりしている。直接的な詞でどうこうという感じではないのかもしれないけれど、幅がある曲を作る人。普遍的に聴いている人がKOさんで、最近のマイブームがLEXさんですね。
萩原、安達を見て感じたこと
――今回の撮影を経て、俳優として新たに感じたことはありますか?
劇場版では萩原(聖人)さんと安達(祐実)さんが出演していて、お芝居している時は面と向かってコミュニケーションをとっているのですが、完成した映画を観た時に、大先輩であり、この作品を守ってもらったという印象を強く受けたんですよね。だから僕もこれからどんどん後輩たちが出てくるなかで、そういう支え方ができる先輩になりたいなと思いました。こういう言い方するとカッコつけすぎみたいな感じなんですけど、萩原さんや安達さんのキャリアになる頃には、あれだけの進化の遂げ方はしたいなと。
難しいですよね、成長していくことって。最初はどんどん登っていけると思うのですが、ちゃんとキャリアに見合った、もしくはそれ以上のことができるようにならないとなと思いました。主演という立場でおふたりの芝居を画面越しに観ているからだとも思うのですが、それは今までなかなか感じなかった感情ではありましたね。
――もしかするとおふたりにはそういう意識はなく、むしろ岡山さんの主演としての心の余裕や成長が、そういう解釈や視点につながったのでは?
どうですかね(笑)。ただ、後輩の子たちと一緒に仕事をした時に、後押しできるくらいの大人にちゃんとなりたいとは思いました。それは、その頃の僕もそういうつもりでやってはいないかもしれないけれど、結果としてその作品の中で残せる人にはなりたいなと、おふたりの姿を見て思いました。