INTERVIEW

左から岡山天音、福地桃子

「2人の空気感が届いたら嬉しい」映画『あの娘は知らない』で見せる世界観


記者:村上順一

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掲載:22年10月03日

読了時間:約5分

 女優の福地桃子と俳優の岡山天音が、公開中の映画『あの娘は知らない』に出演。主演の福地は海辺の町にある旅館・中島荘を営む中島奈々、岡山はその旅館に訪ねてくる青年・藤井俊太郎を演じる。映画『あの娘は知らない』は、『溶ける』で日本人最年少でのカンヌ国際映画祭の出品を果たした、井樫彩氏が監督を務めた。家族を亡くし、孤独感を抱えながらも旅館を営む女性と死別した恋人の軌跡を辿る男の交流を描いた『あの娘は知らない』は、人と人との繋がりを感じさせ、ロケ地となった伊東市の美しい風景も印象的な作品となっている。インタビューでは、それぞれの役にどのように向き合ったのか、この作品を通して気づいたことなど、福地桃子と岡山天音の2人に話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】

福地桃子は山の湧き水みたい

――完成した作品を観て、発見はありましたか。

岡山天音 近年の邦画はエンターテインメントに振った作品が多いなと感じていて、この作品はそれとは対極にある作品だと思いました。僕が事務所に入った当時は単館で上映される映画をよく観ていたんですけど、本作はその当時に観ていたものと温度が近い作品だと思いました。この作品が今の邦画の大きな流れの中に出てきた時に、どう受け止めてもらえるか気になります。

岡山天音

福地桃子 この企画が始まって、井樫監督と脚本ができる前からお話をさせていただいて、作品ができるまでの過程を一緒に歩んできたような気持ちだったので、完成したものを観た時にすごく感動しました。撮影をしていた時に、伊東市の空気みたいなものをすごく感じていたのですが、完成した映画を観た時に、その空気も一緒に思い出せて、すごいなと思いました。その土地の魅力が映像として残っているというところも、楽しんでもらえたら嬉しいです。

福地桃子

――お互いの印象はいかがですか。

福地桃子 とても安心感がある方だなと思いました。お会いしてみないとわからなかったことだと思うのですが、岡山さんがそこにいてくださるだけで、安心できるんです。

岡山天音 監督がすごく真剣だったので、その空気感が反映されていた現場だったと思います。そんなにオフビートのような感じではなくて。

――岡山さん、福地さんの印象はいかかでした?

岡山天音 僕の勝手なイメージなんですけど、山の湧き水みたいな感じの人だなと思いました。

福地桃子 初めて言われました。

岡山天音 混じり気がない、すごく透明な方だなと思ったんです。それは初めてお会いして、本読みをした時から感じていたことで、撮影で数週間ご一緒しても、その印象は変わらなかったです。

――撮影していく中でどんな発見がありましたか。

福地桃子 「この人はどういう人なんだろう」というのは、自分が今回の作品でテーマにしていたところでもありました。この映画で人との関わりだったり、人と出会うことで自分だけでは知り得ない感情に出会えたことがすごく素晴らしいと思いました。自分にも届くような体験が今回あったので、前よりも自分のことを信じてみようと思えた撮影でした。その体験があったからこそ、自分が奈々を演じさせていただくことにすごく意味を感じました。この役に出会えて本当に良かったです。

岡山天音 すごくシンプルなことですが、熱を込めて作品を作るということは、とても大事なことだなと思いました。福地さんと井樫監督のお2人がどういう風にこのシーンを作っていくのかというのを間近で見させていただき、その佇まいから純粋に良い作品を作るんだという意志が見えたんです。そういう気持ちで作品と向き合うことは、大切なことだなと改めて思いました。

意識して自分から何かをするということはやめた

――この作品は、表情やセリフの間がすごく重要な気がしました。

福地桃子 脚本をいただいた時、奈々が抱えているものを自分がどうやって表現したら良いんだろうと思いました。でも、実際に演じてみると、そこには奈々の当たり前がたくさんありました。俊太郎さんとご飯を一緒に食べて笑顔が自然に出る瞬間だったり、奈々にとっては当たり前ではない日常の温もりに触れた時に、きっとそれぞれが抱えているものは当たり前にある感情なんだろうなと感じました。私が立ち止まってしまった時には、井樫監督が、「自分の中から出てきたものを大事にして」とお話して下さり、撮影中はその言葉がお守りのようになっていました。

福地桃子

――岡山さんも監督さんからはどんなお話がありましたか。

岡山天音 色々ありました。演出のことよりもどういう起源でそのセリフが生まれたのか、俊太郎の背景とかエピソードを聞かせていただくこ とが僕は多かったです。それもあり、前の夜にホテルで台本を読んでい て思いついた芝居より、現場で福地さんと向き合ってお芝居をした時 に、いかにそれまで考えていた演技プランみたいなものから逸脱してい けるか、ということを大事にしたいと思いました。それは、ただそこに 生きている人が映ればいいなと、そんな思いを抱く作品だったからなん です。

――岡山さんは俊太郎を演じるにあたって、どのようにアプローチしようと思いましたか。

岡山天音 作品の質感みたいなものが既にあったので、役作りはしない方が良いのかなと思いました。なので、自分を加工するというよりも、いかに自分が肌で感じてきた生の実感を俊太郎のそれとシンクロさせて
いくか、という事の方に意識を集中させていました。

岡山天音

――最後にこの作品をどんな人に観てもらえたら嬉しいですか。

岡山天音 余白がたくさん残されている映画で、それぞれ年齢や性別、職業によって、全然違う作品を観た気持ちになるような作品なので、こういう人に観てもらいたいというのは、正直ないんです。ただ、1人でも観てもらいたいかな。誰かと一緒に見るのも良いですけど、1人だと全然違った心地がする映画だと思います。自分の身体の中の一部分と、静かに重ね合わせて欲しいです。

福地桃子 奈々と俊太郎の2人の空気感が届いたら嬉しいです。この作品の日常の中には、小さな幸せや発見があると思います。ストーリーだけではなく、そういうところも皆さんに届いたらいいなと思います。

(おわり)

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