鼎談の場をジャズ喫茶に移す、白熱した「100年のジャズを聴く」
INTERVIEW

鼎談の場をジャズ喫茶に移す、白熱した「100年のジャズを聴く」


記者:編集部

撮影:

掲載:18年02月16日

読了時間:約37分

<4>Nose-Mo-King  Wynton Marsalis “Live At Blues Alley”

後藤雅洋 どうです、こっちの方がはるかに勢いがあっていいと思いますが(場内笑)。これがジャズなんだよね。頭で考える音楽も悪くはないけれど──そういうのは技術があってちょっと頭がよけりゃあそこそこできちゃうんだよね。というかそういう発想では、歴史と実績のあるクラシックにはなかなか敵わないんです。

村井康司(シンコ-ミュージック・エンタテイメント)

村井康司 これは同じ人たちが同じ年にやってるんだよね。

後藤雅洋 だから、確信犯でああいうトリッキーな音楽をやってるけども、やればこういうストレートな演奏ができるわけですよ。

村井康司 すごいねぇ。

後藤雅洋 これを聴けば、私の言い分も無下に否定できないでしょ。

村井康司 してない、してないですよ。俺、どっちも好きなんだよね。

柳樂光隆 だから、「100年のジャズを聴く」の中だったら、野球とサッカーなんですよ。90分戦って戦術をひたすら観て1対0で終るのと、10対9の乱打戦の違いっていうか。

後藤雅洋 いやぁ、「April in Paris」は私に言わせればサッカーでも面白くない試合なんですよ。他方「ブルース・アレイ」は面白い野球の試合なんだよね。

村井康司 そうそう、そういう話が出てきて。野球とサッカーの柳樂説。昔のジャズは野球で、今はサッカー。

後藤雅洋 そのたとえ話は当たってると思う。話は戻るんだけど、Caipiバンドとか、ゴーゴー・ペンギン、スナーキー・パピーとかは正にサッカーで、それが今聴くと面白いんですよ。だからウィントンを特に悪し様に言う気はないんだけど、まだサッカーを覚えたばかりで、今一つ試合運びがこなれてない感じがするんだよね。

村井康司 助走期間──っていう話も出てきて。

後藤雅洋 柳樂さんの言う、助走期間っていい言い方だよね、僕は停滞期って言ってたけど、同じことでも物は言いようでポジティヴに考えられる。

村井康司 長い助走期間。

後藤雅洋 もの凄く長い助走期間。走っているうちに疲れて死んじゃうんじゃないかって思ってたんだけど、ようやくゴールしたって感じですね。

村井康司 スティーヴ・コールマンを聴かない? ちょうど助走期間の80年代、ウィントンと並び称される一方の人で、86年の『On The Edge Of Tomorrow』から「Fire Revisited」を。

柳樂光隆 この二人の評価のされ方って不均衡というか。スティーヴ・コールマンは商業的な成功がちっちゃかったこともあって、その不遇ゆえにちゃんと評価されている所もあって。基本的にジャズ・ファンって売れてないアーティストが好きじゃない?雨の日に鳴いてる子犬を拾って帰る──っていう心情の人が多いと思うんですよ。ショービズも好きじゃないし、だから売れない物に対する愛情が大きいなって前から感じてて。そういう意味でスティーヴ・コールマンってちょっと得をしてる気がするんですよ。

後藤雅洋 柳樂さんの言ってることはすごく良く分かるんだけど、俺は売れない音楽って嫌いだな。なぜ売れないかっていうと要するに自己満足的でつまんないからでしょ?

柳樂光隆 まぁまぁまぁまぁ(笑)。

村井康司 ウィントン・マルサリスが売れると、スティーヴ・コールマンは全然売れなかったんですけど──、でもそういう意味で好きだったのかな──。

後藤雅洋 ジャズ・ファンに判官贔屓みたいな人が多いのは事実なんだけど、僕はそれはやなのね、負け犬の遠吠えみたいでカッコ悪いじゃない。ダメなものはやっぱりダメなんですよ。

柳樂光隆 だから、今になって思うとウィントンもスティーヴ・コールマンも同じくらい良くて、同じくらい微妙だったんですよ(笑)。

後藤雅洋 それは今になって分かりますよね。ハービー・ハンコックのサイドにウィントンが入ったアナログ2枚組(「ハービー・ハンコック・カルテット」コロンビア)とか、80年代チコ・フリーマンのサイドに入った盤(「デステニーズ・ダンス」コンテンポラリー)でのウィントンってもの凄くいいんですよ。だからウィントンを全部否定してるわけじゃなくて、彼が頭で考えた妙にあざとい演奏が嫌なんです。さっきのブルース・アレイのライヴみたいにストレートにやれば出来るのに敢えてやってないわけでしょ。この人が政治的と言うか極めて恣意的だと思ったのは、出てきたときにエレクトリック・マイルスをディスったよね、その一方で誰も文句を付けられないデューク・エリントンを持ち上げてるんですよ。この辺りのジャズ界における政治感覚って凄いって思いましたね。でもどういうわけかチャーリー・パーカーについては絶対に触れないんだよね。否定もしないけど言及もしない。言及すると自分のトリッキーな立場が危うくなることを実によくわかっているんだよね。しかしパーカー的なスリリングな即興に全く関心がないかというとそんなことはなくて、今のブルース・アレイの演奏を聴けば。明らかにビバップ的なものが念頭にある。こういう計算された周到な立ち回りって、戦略的でもの凄く頭のいいやり方だと思うけど、それが分かって嫌な奴だと(笑)。

村井康司 後でまた話が出ますが、80年代になって、モダン以前のジャズに注目したのはウィントンが最初なんだよね。

柳樂光隆 そうですね

後藤雅洋 僕も一定の効果はあったと思います。でもそれはパーカー的なものを避けるための戦略なので、あまり真に受けちゃいけないと思うんですよ。

村井康司 ではスティーヴ・コールマンとファイヴ・エレメンツを聴いてみたいと思います。彼らも今のジャズに強い影響を与えてるんじゃないかと思うんです。30年くらい前の音です。

<5>Fire Revisited  Steve Coleman and Five Elements “On The Edge Of Tomorrow”

村井康司 スティーヴ・コールマンとファイヴ・エレメンツの「Fire Revisited 」ですけども、ジェリ・アレンがシンセサイザーを弾いてトランペットがグラハム・ヘインズってロイ・ヘインズの息子、ドラムがマーヴィン・スミッティ・スミスですけど、今聞いても カッコいいですね。

後藤雅洋 この演奏もリズムは凄く複雑じゃないですか、当時初めてこういう演奏を聴きましたし、頭で考えたという意味ではウィントンと同じなんだけど、先ほどの発言を補足すると、頭で作ったからどうこうじゃなくて、考えたつまんない音楽と、頭脳的で面白い音楽ってのがあるわけ。スティーヴ・コールマンみたいに凄く頭脳的な演奏で、かつ身体に響くストリート的な音楽、ノレる音楽があるってことなんですよ。ウィントンもブルース・アレイのライヴのような演奏はノレるんだけど、スタンダード・タイムとか、カッコつけて吹いたのはちっとも面白くないって思ってました。

村井康司 柳樂くんはリアルタイムでこれは聴いてないでしょ?後で聴いたときはどう思った?

柳樂光隆 率直な感想を言うと、ヒップホップを先に聴いてるとすごくダサく聞こえたんですよ。さっきの話じゃないけど僕の中にも弱いものを愛でるという音楽ファン心理はあるわけで、僕もジャズ・ファンだからね(笑)。売れなさそうだな──っていう面白み、ダサいものを楽しむみたいなところはあって、それで僕は最初スティーヴ・コールマンを聴いてました。僕が20代の頃で、あまりみんなが注目してない古いものをちょっと掘ってみようかと思って。僕が大学生の頃ってM-BASEって海外では評価が高かったけど、日本では底値でディスク・ユニオンとかに持っていっても“買い取りできません”とか、“50円です”とかそういう時代だったと思うので、すっごい余ってたんですよ、セールコーナーとかに。だからそれを片っ端から買って聴いて、あぁやっぱダサいなって。だからさっきのジェリ・アレンのソロとかカッコいいし、今聴くとなんとなく意味も分かるんだけど、ハンコックがシンセに行くときみたいにセクシーな感じとかがないじゃないですか。ピアノと違ってシンセを弾く上手さがないし、音色もあまり考えられてないし──とか思うと、素直にかっこいいものとしては聴けなかったですよ。ただ構造自体は凄く面白いし、フィジカルでいいですよね。

後藤雅洋 柳樂さんの話ってよく分かるんですけど、音楽を後からCDで聴くか同時代的に踊りながら聴くかの違いだと思うんですよ。村井さんもそうだと思うけど、僕らスティーヴ・コールマンの初来日観てますよね、渋谷のクアトロで。カサンドラ・ウィルソンがバンブーからソロ・アルバムの『Blue Sky』を出して、そのプロモーションで来日したとき、そのバックバンドとしてスティーヴ・コールマンが来たんです。彼らの音楽それまでのジャズにはない斬新なもので、初来日ライヴを観た時の感覚はまさに心躍るものでした。

村井康司 後で聴くと、その後のことを知ってしまってるんですよね。

柳樂光隆 そうなんですよ。

村井康司 それは絶対しょうがないことなんだけど。今のウィントン・マルサリスとスティーヴ・コールマンはどちらも80年代に出てきて世代的には変わらないし、同じニューヨークの中マンハッタンとブルックリンで。

後藤雅洋 ウィンター&ウィンターだっけ、スティーヴ・コールマンは日本ではほとんど売れなかったですよね。

村井康司 JMTっていうドイツのレコード会社で、日本とドイツくらいしか出てなくてアメリカで手に入れるのは難しかったって話もあります。

柳樂光隆 ウィンター&ウィンターの社長とは2年くらい前にお茶する機会があって。元々ポール・モチアンが大好きなジャズ好きで、プレイヤーとしてクラシックをやってた人らしくて。彼がスティーヴ・コールマンを初めて聴いたとき、これはすぐに契約すべきだと思って“当てはあるのか?って聞いたら、まったくないっていうからすぐに契約できた”って話をしてましたね。

村井康司 JMTっていうのとマイナー・ミュージックっていう2つのレーベルを持って、どういう使い分けをしてるのかは分からないんですけど、自分のレコード・レーベルにマイナー・ミュージックってつけるのは凄いなと。(笑)

柳樂光隆 スティーブ・コールマンの評価はすごく上がってますね。弟子筋のスティーヴ・リーマンっていうサックス奏者とか、マット・ミッチェルっていうピアニストとかモロに継承してる感じはありますね。でも、さっきみたいなポリリズムを自由に駆使して音楽を作るということでは、スティーブ・コールマン門下かどうか関係なく、今ではほとんどのジャズ・ミュージシャンが影響を受けてるとも言えるんじゃないかと。そのくらい影響力があると思います。

村井康司 なるほど。

後藤雅洋 ヴィジェイは?

柳樂光隆 ヴィジェイ・アイヤーはスティーブ・コールマンの直系で編成を少なくしてコンパクトにした音楽って感じ。で、ウィントン・マルサリスとスティーヴ・コールマンを足したところにロバート・グラスパーがいる感じかもしれないですね。じゃ"Double Booked"から、「Think Of One」を聴きましょうか。モンクの曲なんですけど、ドラムがクリス・デイヴっていうヒップホップ系のドラマーでジャズもできる人で、ウィントンが"Standard Time Vol.1"でやってたようなリズムがどんどん変わって行く感じとかも入っていて、ポリリズムもあって。

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