鼎談の場をジャズ喫茶に移す、白熱した「100年のジャズを聴く」
INTERVIEW

鼎談の場をジャズ喫茶に移す、白熱した「100年のジャズを聴く」


記者:編集部

撮影:

掲載:18年02月16日

読了時間:約37分

 『100年のジャズを聴く』刊行記念トークイベントが先月13日、東京・新宿のジャズ喫茶「いーぐる」でおこなわれ、本書の中核となる鼎談をおこなった後藤雅洋さん、村井康司さん、柳樂光隆さんが、関連音源を聴きながらトークを展開した。以下は、シンコーミュージック・エンタテイメントから提供を受けたレポート。=写真=左から村井康司さん、後藤雅洋さん、柳樂光隆さん

村井康司 今日はお集まりいただきありがとうございます。ここにいらっしゃる後藤雅洋さん、柳樂光隆さんと、私村井康司が鼎談を行ったものを書籍にした「100年のジャズを聴く」を昨年出しました。今日後藤さんのお店、ホーム・グラウンドの「いーぐる」で、いい音でなるべくたくさん曲を聴きつつ話していきたいと思います。というわけで後藤雅洋さん、柳樂光隆さん、私、村井康司です。(店内拍手)

 最初に村井さんから、この本を作ったきっかけが説明された。昨年2017年がジャズの初録音から100年ということで、その節目として、今のジャズまで100年のジャズを語ろうという企画で始まり、3人の共通認識として<現在のジャズが凄く面白い>ということがあった。それを受けて後藤さんの話が始まった。

後藤雅洋 私、この「いーぐる」というジャズ喫茶をやっていまして、昔はレコード、今はCDをお聴かせするのが商売。ですから60年代から話題になった新譜はだいたい聴いて来ましたが、こちらにおられる柳樂光隆さんと4〜5年前から親しくさせていただいて、“ハードバップもいいけど、最近のジャズも面白いですよ”とお誘いを受け、カマシ・ワシントン、ゴーゴー・ペンギン、スナーキー・パピー、カート・ローゼンウィンケルなどいろいろ教えていただき、ライヴも最近よく行くようになりました。で、とりわけここ数年新人のライヴが面白いんで今ジャズ・シーンが活況を呈しているという強い実感を持っています。

村井康司 では後藤さんが観て面白かったアーティストの曲を1曲。

後藤雅洋 カート・ローゼンウィンケルは前から知っていましたが、以前はさほど面白いとは思ってなかったんです、それが柳樂さんのtwitterでこれがいいと書いてあった『Caipi』を聴いたんです。表面上はブラジルのミナスの音楽なんですけど、単にブラジリアン・ティストのジャズというんでなく明らかにオリジナリティがある。去年のカイピ・バンドでの来日公演も観ているんですが、先日新しいバンドを聴いたらこれがそれとは全然違う、それはそれで面白かったのですが、その話は後ということで、まず『Caipi』から「Hold On」を。

<1>Hold On  Kurt Rosenwinkel “Caipi”

柳樂光隆 このアルバムはカートはほとんどの楽器を自分で演奏して重ねてます。

村井康司 ライヴはブラジリアン・オールスターズみたいな凄いメンバーで。

柳樂光隆 20歳くらい違う若手ですね。

村井康司 CDよりもライヴの方が好きだったかな、後藤さんどうでした?

後藤雅洋 まったく同感で、CDもよかったけど、ライヴが予想以上に良かったんで驚きました。

村井康司 ブラジルの音楽と、それ以外のロック的なポップ・ミュージックとジャズが混じって。ここにいる3人ともたまたまコットン・クラブにカート・ローゼンウィンケルの新しいバンドBANDIT 65を観て。柳樂さんはどうでした?

柳樂光隆 昨日(12日)観ました。毎回(3日間で6公演)を観た人から聞いたら、ステージごとに全く違う感じらしいですね。決めごとがまったくなくて、ライヴの前とかもメンバー(3人)は自由に行動してて、“じゃあやろうか”っていう感じで始めて全員で即興演奏をする。

村井康司 ギターが2台とドラムという不思議なトリオで、大量の50台くらいのエフェクターが積んであって。

柳樂光隆 カートって結構エフェクターを使うタイプで、フュージョンやプログレで活躍したアラン・ホールズワースに感化された人。ただ。ときどき珍しくエフェクターを通さない裸の音も出してましたね。そういう意味ではごく珍しいカートを聴けたライヴだったと思います。

村井康司 曲といっていいのか分からないけど、一曲が長くて40分くらいずっと通して演奏してた。でも即興だけどフリー・インプロヴィゼイションじゃないんだよね。

柳樂光隆 全員、せ〜の!で始めて思いついたフレーズを弾き始めて、それがだんだん曲っぽくなっていき、それがまたどこかで崩れて、また曲っぽくなっていくのがず〜っと続いていく。

村井康司 この「100年のジャズを聴く」でジョシュア・レッドマンの『Compass』ってアルバムの「Uncharted」って曲に触れてるんだけど、これも全員何も決めずに始めたのに、凄い美しい曲になっちゃってる。カートのもちょっとそういう所がありますね。

柳樂光隆 それ聴いてみますか。僕はカートのインタビューを2回やって、ライヴの後の打ち上げとかで雑談とかもしたことがあるんですけど、ハーモニーの話をしてたら、“ハーモニーっていうのはメロディの間に埋まっているものだ、だからそれを考古学みたいに掘り起こすのが我々のやるべきことで、ハーモニーは付けるもんじゃない”って。それを聞くと、昨日のライヴでやってた感じって、もう一人のギタリストが何かを弾いてると、それに合わせて何らかのハーモニーやカウンターのメロディを弾いたり、ベース・ラインを弾いたりというのはその考古学そのもの。それは何かジム・ホールっぽかったとも言えますね。

村井康司 なるほどね。

柳樂光隆 パット・メセニーっぽいっていうのかもしれないですけど。

村井康司 即興でやるんだけどいわゆるフリー・ジャズじゃなくて、最終的には非常に美しいものができてくるところが最近のジャズはあるなって。

柳樂光隆 そうですね、それの凄く分かりやすい形を観たって感じでした。

村井康司 じゃ、ジョシュア・レッドマンの『Compass』ってアルバムの「Uncharted」って曲を聴いてみたいと思います。

<2>Uncharted  Joshua Redman "Compass"

村井康司 Unchartedっていうのは、楽譜がないっていう意味ですが、多分完全に即興演奏で、奇麗なトラックだと思います。

柳樂光隆 こういう感じってジョシュア・レッドマン以降増えたような感じがしますね。

村井康司 「100年のジャズを聴く」というこの本はいろいろなテーマがあるんだけど、現代のジャズというのはどういった物に影響を受けて、どういう流れがあって──という話をしていて、一つは今まであまり注目されてこなかった50年、60年前のミュージシャンたちが、今のミュージシャンたちによって掘り起こされていることと、80年代から30年くらいの流れの帰結として今のジャズがあること。この辺りを柳樂さんにお願いしたいので、何か聴いてみますか。

柳樂光隆 本の中で後藤さんが“つまらないつまらない”と言っていたウィントン・マルサリスから。

村井康司 (笑)じゃ、スタンダードで「April In Paris」を、1987年かな。

柳樂光隆 店にあるのはCDじゃなくてレコードなんです。後藤さん、どれだけ興味がなくて買ってないかが非常によく分かる(笑)。

後藤雅洋 それは違うでしょう、レコードで持ってるってのは新譜で買ってるてことですよ。それはさておき、ジャズ喫茶って営利企業ですから(笑)、当然コスト・パフォーマンスも考えています。つまらないCDを買ってその代金をお客さんから徴収するとなると、お客さんも不幸になるし、店もつぶれる。そうやってつぶれちゃった店ってもの凄く多いんですよね。うち(いーぐる)が50年生き残って来られたのは、そういうビジネスの常識も考えているというのもご理解いただきたい。ウィントンが全部つまらないって言ってるんじゃないですよ、もちろんおもしろいのもある。

<3>April In Paris  Wynton Marsalis “Standard Time Vol.1”

村井康司 当時買って、未だによく聴く唯一のウィントンのアルバムです。

柳樂光隆 スティングの『Bring On The Night』とかとほぼ同じ時期。

村井康司 ほぼ一緒くらいですね。ブランフォード・マルサリスがスティングと一緒にやって。

柳樂光隆 ウィントンがこれをやって──。前に富田ラボさんと<リスナーがリズムに対する感じとり方が変わったなと思った瞬間が、スティングのライヴを観たときで、オマー・ハキムだかヴィニー・カリウタだかがいきなりリズムを落としたり拍子を変えたりした瞬間にスティングが歌うよりも大きい歓声が沸いた>って話をしていて。

村井康司 この「April In Paris 」も曲の途中でどんどん速さが変わっていって、全員が同じタイミングで加速したかと思うと遅くなったり。半分とか倍とかじゃない非常に計算された、不思議なメトリックモジュレーションという技法を、初めてじゃないにせよ皆に広く伝えたという、そういう意味では歴史的な作品で。

後藤雅洋 僕なんかが聴くと、これはいかにも頭で作った音楽っていう気がするのね。決して悪いとは思わないけど、それがどうした?って感じで。

村井康司 でも、これはウィントンの中では大傑作だと思う。

後藤雅洋 いや、じゃ、もっといいの聴きましょうよ。ブルース・アレイのライヴ盤かけて。

村井康司 同じ時期で同じメンバー。

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