今の音楽と融合するジャズが伝われば、山中千尋 モンクを再解釈
INTERVIEW

今の音楽と融合するジャズが伝われば、山中千尋 モンクを再解釈


記者:小池直也

撮影:

掲載:17年06月20日

読了時間:約13分

『モンク・スタディーズ』をリリースする山中千尋

 ジャズピアニストの山中千尋が21日に、新作『モンク・スタディーズ』をリリースする。マイルス・デイヴィスやジョン・コルトレーンなどと並び、ジャズの歴史において偉大なジャズ・ピアニストのセロニアス・モンク生誕100周年を記念したオマージュ・アルバムで、オリジナル3曲も収録している意欲作。ジャズミュージックは初録音から100周年を向かえ、今また光が当たり始めている。新世代のミュージシャンたちがフレッシュでユニークでスタイリッシュな音楽を奏で始めたのだ。そして現在は、男性社会に思われがちなジャズプレイヤーの中にも女性奏者が多数台頭し始めている。米国を拠点に世界各地でジャズを演奏し、さらにエッセイスト、教育家としても活動している山中に新作『モンク・スタディーズ』について、さらには学生時代の思い出、米国のジャズ教育の今、そして人種を超えるジャズの魅力など、多岐に渡り話を聞いた。

新作について、ジャズの魅力

――新作のコンセプトからまずお伺いしたいと思います。

 セロニアス・モンクは個人的にとても好きなミュージシャンなので、いつかはトリビュートアルバムというか、彼の曲を取り上げたアルバムを作りたいと常々思っていました。今回は生誕100周年という事がまずひとつ。それから今アメリカは政権が変わったせいで、社会的な空気が窮屈な感じになっています。私、アメリカでは外国人なのですが、外国人や弱者を締め出すことを前面に出すアメリカの今の政策には疑問があります。モンクは「孤高の作曲家」と言われているのですが、その独特な表現の背後には、自由さが入ってこられるオープンな雰囲気があります。息苦しい時代だからこそ、彼の音楽で自由を表現できればなと思って取り上げました。

 モンクの音楽はすごくゴツゴツしていて、決して演奏的にも超絶じゃないのですが、1回ピアノを聴いたら絶対忘れない強烈な存在感があるのです。ジャズの歴史の中にでも唯一無二と言われる程の個性の持ち主。装いもスタイリッシュですし、バンドの演奏している間に踊りまわってしまう様なフリークさ、変わった部分もあります。でもその音楽に触れると病みつきになるのですよ。ジャズミュージシャンからの尊敬も絶大で、今ではアメリカに『セロニアス・モンク・インスティテュート・オブ・ジャズ』という超一流のジャズ学校もあるくらいです。それくらい歴史に名を残したピアニストだと思います。

――ジャズは今年初録音から100周年です。そもそも、山中さんはなぜ芳醇な歴史を持つジャズを始められたのですか?

 元々クラシックを演奏していたのです。クラシックは譜面に書いてある事を演奏する音楽で、ピアノと自分の間に作曲家を挟んで音楽に接する形が多いです。もちろん、それでも幅広い表現ができるのです。でも、私の場合は直接的に自分の表現をする時にピアノとの間に何のフィルタもなく、直に音楽に接したいという想いがあって。いつもモーツァルトやベートーヴェンがいないと表現をできないよりは、自分を表現できる様な音楽を探している時にジャズに出会いました。

 ジャズに出会ったのは比較的早かったのですが、実際に演奏を始めるのは遅くて、大学に入ってからです。私は日本のクラシックの音大である桐朋学園大学を卒業しているのですが、その時は本当に聴く事に徹底していました。実際に演奏を始めたのは米国に行ってからです。普通、音大に行っていたら練習がメインなのですが。私にとっては色々な音楽を聴いて、見て、「何を表現したいのか」という事を探す期間だったと思います。ジャズにはプレイヤーの数だけスタイルがあります。全員が本当に違うというか。音の並び方から何から全部違うという事もあります。同じ曲を演奏しても全く別の音楽になっていくことが面白いです。

 あとジャズはもちろん「聴く」とか、「弾く」とか、そういう音楽を直接楽しめるという事ももちろんなのですが、目で「見る」という事もできます。私は文学も好きなのですが、そういう物にも近いと思います。さらに聴いた事を「語る」という面白さもありますね。ジャズ自体が持っている文化的なバックグラウンドというものも魅力なのです。例えばアートワークも、昔のブルーノート(老舗ジャズレーベル)などのジャケットを見るとジャズ独特なスタイリッシュさがあります。そういうところにも憧れましたね。

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