丸の内コットンクラブで公演をおこなった、山中千尋

 ジャズピアニストの山中千尋が8月25日、丸の内コットンクラブで『山中千尋エレクトリック・トリオ「モンク・スタディーズ」スペシャル・ライヴ 2017』をおこなった。この公演は彼女が6月にリリースした新作『モンク・スタディーズ』のリリースを記念した国内9カ所を巡るツアーの東京公演。この日は1stセットと2ndセットの2部構成のステージをおこなった。生誕100年を迎えたジャズ界の伝説的ピアニスト、セロニアス・モンクを電化楽器を用い解釈したこのアルバムをライブでどう彼女が再現するのか、が見どころ。インガ・アイヒラー(Ba)の変幻自在なベースと大学時代からの盟友、カレン・テパーバーグ(Dr)との息の合った演奏で観客を魅了。1stセットの模様をレポートする。

モンクに敬意を込めた演奏

山中千尋エレクトリック・トリオ

 ワンショルダーの黒いドレスの山中、同じく黒いドレスを着たベースのインガ・アイヒラー、対照的にTシャツ姿でカジュアルなドラムスのカレン・テパーバーグが拍手に迎えられ入場。そして静かに持ち場につく。

 ビアノイントロからボサノヴァ調の「ビバリー」が始まった。髪を揺らしながら、山中は優雅に弾いていく。この日の山中はグランドピアノ、フェンダーローズ、そしてシンセサイザーの3台を使用。繊細なライドシンバルを刻むカレン。さらにインガはテーマメロディ後、いきなりのベースソロを悠然と聴かせた。山中のソロターンではドラムに刺激され、細かい音符を並べていくシーンも。スリリングに展開した。静かにテーマに戻ると会場から歓声。

 フェンダーローズの前に移った山中からメロウながら、グルーヴィな7/8拍子のリフが提示される2曲目は、「ハートブレイク・ヒル」。主導権はエレキベースに換装したインガ、さらに山中という順番にリレーされる。山中はここでも細か目の音で饒舌。カレンは音量を控えながらもロックな勢いのあるドラミングで、アンサンブルをコントロール。演奏が進むに連れてギアを上げていった。

 ここで山中が「皆さんこんばんは。ようこそコットンクラブへお越しくださいました」と挨拶、メンバーを紹介した。インガ・アイヒラーは英・ロンドンのロイヤル・アカデミー・オブ・ミュージック卒で、英国を中心に活動するベーシスト。カレン・テパーバーグはイスラエル出身のドラマーで、米・バークリー音楽院在学中に山中と出会ったそうだ。

 続いて「モンクの生誕100年なのでモンクの曲から演奏したいと思います」と告げて、「クリス・クロス」が始まった。ローズでイントロを弾いてから、シンセで主旋を弾く山中。テーマは同じながら、オリジナルとはコード進行もリズムもアレンジされている。3人はベースとドラムで編まれるファンク/ヒップホップ風なビートでモンクに敬意を捧げた。

 ラテン調の演奏による「ハッケンサック」ではオルガンの音色で演奏していく山中。ソロになると、ここでもベースが先行した。

大学時代の思い出も回想

山中千尋エレクトリック・トリオ

 そして、山中は「暑い日が続くので」と前置きして「サマータイム」を繋げた。うっとりする様な山中のイントロから、けだるいタッチで曲がスタート。最高気温が都内で35度を記録したこの日にぴったりな演奏だ。その後、3人は休符を活かしたバッキングが効いたベースソロ、山中節がびしびし決まるピアノソロと繋げる。進行しながら3段階にBPM(テンポ)が加速し、エンディングでは元の速さに戻る仕掛けも。

 さらに、山中は「大学時代からずっと一緒に演奏しているんです。バスケットボールの応援をするバイトも一緒にやっていました。試合が早すぎるから、わからなくなってしまって、いつの間にか相手チームの応援をしていたんですよ(笑)。後で怒られました」とカレンとの大学時代のエピソードを披露。

 そこから可愛いメロディを持つ、モンクの「パノニカ」を7/8拍子で。顔を見合せながら演奏する山中とカレンが楽しげだ。山中のローズの音が涼しさを感じさせるが、それと反対にカレンのドラミングが熱を帯びていくのが好対照。最後のテーマに至るまで、カレンはメロディを担当する山中をリズム的に刺激していた。

山中千尋

 そして、セットリスト最後は、米・ピアニストのスコット・ジョプリンの「ジ・エンターテイナー」のカバー。ラグタイムでお馴染みのこの楽曲も、山中は7/8拍子にアレンジして披露、と思いきや6/8拍子に変わり、さらに4/4拍子へと変形してオーディエンスを驚かせる。その後、演奏はピアノだけに。山中はセクシーにボブの髪を耳にかける仕草を見せて独奏していく。

 その後バンドが復帰し、演奏は3拍子と4拍子が混ざり合うポリリズムへ。それを起点に一体感のある演奏を披露していき、最終的にスウィンギーな4ビートでゴールした。

 山中が「皆さんありがとうございました。山中千尋でした。またお会いしましょう」と言い残して、3人は退場。

 アンコール。「リビングタイム・イベントⅤ」。テンポ早めのファンキーチューン。長めのユニゾンでは3人がビシッと合わさる。ファンキーではあるが、安易に熱い感じにせずクールに徹した質感だった。ところどころに入る、カレンのセンスの良いドラミングが冴えた。

 最後に3人は、おじぎをして退場。会場からは大きな拍手が送られた。【取材=小池直也】

セットリスト

『山中千尋エレクトリック・トリオ「モンク・スタディーズ」スペシャル・ライヴ 2017』1stセット
2017年8月25日 丸の内コットンクラブ

01.ビバリー
02.ハートブレイク・ヒル
03.クリス・クロス
04.ハッケンサック
05.サマータイム
06.パノニカ
07.ジ・エンターテイナー
アンコール
En.リビングタイム・イベントⅤ

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