以前、「縦長シングルでみる録音媒体の変化、聴くスタイルはどう変わったか」という記事を書いたこともあり、90年代後半までシングル形態の主流であった「8cmシングルCD」は、いまだに手元に何枚もある。

 プロデューサーの小室哲哉の報道が続く中、ふと彼が才気を振るったグループ・TM NETWORKの楽曲を聴こうと思い、パソコンのライブラリーを探すが、見つからなかった。

 所有するCD盤は全てパソコンに取り込み済みであるはずだったが、往年の名曲「Get Wild」が見つからない。当時、ラストシングルとして発表された「Nights of The Knife」も見つからない。衝動的に聴こうと思って見つからないとますます聴きたくなるのは音楽ファンの性であろう。

 かといってYouTube鑑賞で済ますのもどこか野暮だと思い、CD盤が並ぶ棚を探すと、埃がかぶっている「8cmシングルCD」コーナーにひっそりと佇んでいた。

 細長いジャケットを見ると、懐かしい気持ちと同時に、小、中学生の頃こづかいが足りなくてアルバムは買えず、縦長シングルでTM NETWORKの音源を買っていたことも思い出す。

 現在では配信や動画でシングル曲を鑑賞することは容易だが、当時は新譜のチェックは一大イベント。不思議なもので、足を使って手に入れた音源は、どのCDショップで買ったかという記憶までも鮮明に蘇る。

 何故、CD音源があるのに、パソコンのライブラリーにないのかと不思議に思った。良い機会なので当時のシングル音源もパソコンに全部取り込もうと行動に移したときに、理由が判明する。

 いつもCDを取り込むように、macbookの側面のCDドライブに「8cmシングルCD」を挿入したところ、ウンともスンとも言わないのである。おまけに取り出しボタンをいくら押そうが一切出てこない。

 不安になってネット検索したところ、「取り出せなくなります」「やめた方がいいです」「とりかえしがつかないことになる」「結論から言うと使えません」という絶望的なフレーズしか出てこない。

 ちょっとTMNの曲を聴こうと思っただけなのにパソコンを再起不能に追いやるという、何とも理不尽な行動を軽率にとったものだと猛省する。藁にもすがる思いでピンセットを用いてミニシングルの摘出を試みたところ、ことなきを得た。

 時代によって、音源媒体は変わる。ゆえに、再生機器も変わる。それに伴い、デバイスの機能も変化する。アナログプレーヤー、カセットプレイヤー、CDコンポ、MDプレイヤー、iPod、スマートフォン。様々あるが、それぞれに味があり、場合によっては、今回の体たらくのように痛みを伴うこともある。

 そういった、時代時代特有の能動的な行動が、セットで楽曲に思い出が染み付くというのも、音楽の楽しみ方のひとつではないだろうかと思った。そう前向きに捉えると、たった2曲に1000円も出したことも、レコード店へ走って買いにいったことも、色んなメディアで音楽を楽しんできた体験というのは、ずっと宝物なのだろうと感じた。【平吉賢治】

※なお、「8cmシングルCD」のPC取り込みには、外付けCDドライブ使用などの方法があります。

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