とある若者がパンクに目覚めた。そして、「最近俺はセックス・ピストルズを聴いてブッ飛んだ。こういうの他にもない?」と、パンク好きの知人に聞くなりして「じゃあ、クラッシュとかダムドはどうよ?」というやりとりをする。

 一昔前は、これが第一選択肢だった。しかし、現代ではスマホで検索をかける方が圧倒的に早く、かつ客観的だ。「ロンドンパンク」で検索すればバズコックスだってザ・ジャムだって出てくるし、デトロイト・パンクもNYパンクも引っかかる。

 好きな音楽の幅を広げるとき、一昔前はインターネットサービスに身を委ねることができなかったため、人に教えを乞うか店頭や音楽雑誌などで、ピンポイントに情報を集めることが主流だった。

 YouTubeで好きなMVなどを閲覧していると、次から次へと関連動画やおすすめ動画が「次の再生候補」として押し流れてくる。正直、YouTubeでひとつ好きなMVを観て、なすがままに「次の動画」を観続けていれば、自分の好みはだいたいわかってしまう。

 そこでセックス・ピストルズを聴いたら、恐らく「ロンドンパンク」や「70年代パンク」などとタグ付けされた一種のアルゴリズムによって計上された情報が出され、比較的短距離で近しいアーティストに辿り着ける。非常に便利かつ合理的にプレイリストが出来上がる。

 「自分の好みの音楽に辿り着くのに、無駄が省ける」ということは、正直最高だ。“ハズレ”に出会う確率が極めて低くなる。しかし、音楽ファンとしては、“ハズレ”に出会ったときの畳を掻きむしるような鬱積は、案外一興なところもある気がする。

 凶暴なパンクの音源を探していたのに、いざCDを買って聴いてみたらキラッキラの80’sのドリーミーなポップスだったときの悔しさといったら喩えようがない。だが、そこからニューエイジやシューゲイザーとパンクやポスト・ロックの繋がりを見いだすなど、寄り道から得られる「点と線」があったりして、音楽的知識の深みが増すことが多い。

 YouTubeなど無料で閲覧するコンテンツで“ハズレ”に出会ったときは、ただちに動画を停止させ、「全然違う」の一言で終わらせることができる。逆に、足を使って現金を払うなりして出会った“ハズレ”は精神的ダメージを伴うため、「なんとか元をとりたい」という心理がはたらき、ある程度は真剣に聴いたり背景を知ったりする。

 そうなってくると、知らない間に、聴く(受け入れられる)音楽のジャンルが増えてきて、案外豊かなリスナーライフが送れたりするのだ。受動的な「おすすめ」は割と的を得ているので直線的に幅が広がるが、能動的な発掘は痛みも伴うがフレキシブルに幅が広がる、といったところだろうか。

 音楽の好みの幅は、レコメンドが自主的か受け身かで大きく変わってくるように思える。ストリーミングや動画の連続閲覧は、「受動的と能動的」をミックスした位置づけにある。そしてそれぞれを選べるという利点もある。

 それらを楽しみつつ、たまには体と金を張って、無鉄砲に好きなジャンルの新規開拓を濃いめにするというのも一興かもしれない。好きな音楽発掘は、“ハズレ”に出会って痛がったことが自身の音楽の幅を広げてくれた、ということもあるものだから何とも奥深い。【平吉賢治】

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