全国ツアー『阿部真央らいぶNo.7』のファイナル公演をおこなった阿部真央

 シンガーソングライターの阿部真央が4月23日に、東京国際フォーラム・ホールAで、全国ツアー『阿部真央らいぶNo.7』のファイナル公演をおこなった。通算7枚目となるアルバム『Babe.』(2月15日発売)を引っ提げ、2月25日、出身地の大分を皮切りに、全16公演を展開。この日は全27曲を約2時間半に渡り、終始高いポテンシャルのままに歌いあげた。なおこの日の模様は6月24日午後11時からWOWOWで放送予定。

独白するように満員のファンたちへ伝えてきた

ライブのもよう

 観客で埋め尽くされた場内。阿部真央は、2015年春におこなった全国ツアー以来、約2年間、ライブから遠ざかっていた。この間、大きな喜びでもある出産を経験。産後しばらく経ってから活動を再開。昨年はシングル「Don’t let me down」を、今年2月には2年ぶりとなるアルバム『Babe.』をそれぞれリリースした。

 この日のMCでも語っていたが彼女自身、この期間のブランクによって「ファンが離れていないか」、「ライブを完璧におこなえるだけのコンディションを整えることができるのか」をとても心配していた。

 その心配は、今回のツアーで吹き飛ぶ。全16カ所におよぶ全国ツアーはどこも大盛況。ファイナルとなった東京国際フォーラム・ホールAでの公演も、全27曲、2時間半強に渡り、彼女は終始高いポテンシャルのままに歌いあげた。何よりも場内を観客が埋め尽くしていた。彼女の帰りを心待ちにしていればこそ、直接会いに行くはず。その思いは誰もが抱いていただろう。それが満員の会場に表れていた。

アルバム収録曲の通りの幕開け

ライブのもよう

 ライブは、アルバム『Babe.』のトラックリストと同様に、1曲目に収録の「愛みたいなもの」で幕を開けた。込み上げる感情のままに歌声を届けてゆく。それに寄り添うピアノの調べ。いつしかバンド演奏も重なっていた。沸き上がる想いを歌に乗せ、阿部真央は独白するように満員のファンたちへ伝えてゆく。

 「逝きそうなヒーローと糠に釘男」が流れると同時に、阿部真央は凛々しく、何より力強い歌声を響かせた。続く「Don‘t let me down」でも観客の熱い手拍子に触発されるまま、突き上がる情熱をパワフルな歌に変え、胸に刺していった。場内の空気は、どんどん熱を帯びてゆく。そこへ、活動初期から熱狂を作り続けてきた「ふりぃ」が解き放たれた。昂る高揚、いつしか場内は、その場で飛び跳ね、はしゃぐ人たちの姿で埋め尽くされていた。

 ストレンジな音色の上で雄大に歌いあげた「You Said Goodbye」。自分のいる意味や生きる理由を問いかけた「君を想った唄」。心へ光射すように沸き上がる高揚を覚えた「わかるの」という躍動的な楽曲で攻めれば、ピアノの音色を背景に、心壊れそうな想いのまま阿部真央はしっとりと「Don't leave me」を心に染み込ませていった。

 次のブロックでは、前ツアーの時にもおこなった「座って歌うコーナー」を設置。もともと妊娠中の身体を気づかう目的で設置されたコーナーだったが、着座して聴くスタイルはじっくりと歌に浸ることができ心地良いと好評だったがめ、今回もそれを取り入れ、歌を届けた。

 2本のアコギを伴奏に歌唱。自身が母親になったことで、母親としての気持ちや目線で「母である為に」を歌い捧げた。彼女はこの曲で、一人息子への想いを語りかけた。

 優しい温もりを持った歌声で、触れた人たちの心を抱きしめた「いつの日も」。アコギの弾き語りスタイルで、“好き”な気持ちを囁くように歌った「背中」。側にいて欲しい感情を独白するように、終わりを告げた想いへ別れを告げられず嘆くように、切なく胸に染み込んだ「側にいて」。とてもシンプルなスタイルを取ることで、歌詞に綴った想いがとても生々しく胸に染み込んできた。だからこそ、その歌をしっかり心で受け止めていた。

私の歌が、みんなの日常の中へ寄り添っていけたら

ライブのもよう

 表情は、一変。最新アルバム『Babe。』に収録され、ゴージャスでハッピーなロックンロールナンバー「バイバイ」が飛び出した。演奏へ飛び乗り、はしゃぎだす観客。その熱気を膨らまそうと「Hello, Brand New Days」を披露。さらに、力強いアコギのストロークから「この時を幸せと呼ぼう」へ。いずれの楽曲も、阿部真央はおおらかに歌いあげていた。

 アルバム『Babe.』ナンバーは、まだまだ続く。アグレッシブな演奏の上で凛々しく歌った「gasp」。激烈なロックナンバー「POSE」で阿部真央は、刺すような歌声を突きつけた。さらに彼女は「Believe in yourself」と、光を包み込むように歌いあげていった。

 ライブも終盤戦へ。心へ翼を授けるように「ロンリー」へ。彼女の歌や演奏に身を預け、会場中の人たちが満面の笑顔で弾む。その熱狂をさらに爆発させようと、デビュー曲の「伝えたいこと」を歌唱。誰もが狂喜した表情で熱気の中へ飛び込んでいく。これぞ、最高のライブパーティじゃないか。興奮した気持ちに拍車をかけるように届けた「モットー。」に突入。会場中の人たちが阿部真央と想いを分かちながら、嬉しく興奮に溺れていた。

 「私の歌が、みんなの日常の中へ寄り添っていけたら。明日へ進む力になれたら」。そう想いを伝えながら、阿部真央は最後に「それぞれ歩き出そう」を歌いだした。その歌が、触れた人たちの明日へ進む力となるように願いながら。誰もがこの歌を、阿部真央の楽曲を未来へ歩みうえでの人生のパートナーとして側に寄り添え、身体を弾ませる歌に心地好く揺られていた。

阿部真央はブルゾンちえみに成りきってのネタも披露。

ブルゾンちえみになりきる阿部真央

 アンコールではセクシーなポーズも振りまきながら、トランシーでガーリーなダンスポップナンバー「モンロー」を届け、会場中の人たちを阿部真央は艶かしく煽っていた。場内は、「モンロー」に刺激されクラブのような様相も呈していた。その熱狂をさらにヒートアップさせるように「I wanna see you」が飛び出した。阿部真央の歌に合わせ、みんなが一斉に飛び跳ねてゆく。まさに理屈や理性をぶっ壊したパーティ空間が、そこには広がっていた。

 アンコールの衣装は、産休前に身につけていたOL風の衣装。その姿は、最近流行りのお笑い芸人、ブルゾンちえみに似ていることから、阿部真央はブルゾンちえみに成りきってのネタも披露。さらに彼女は、女性特有の凛々しさを歌にした「女たち」を力強く歌いながら、観客たちを熱狂の虜にしていった。

母親になった阿部真央が、実の母親へ向けての歌を唄う。

 2回目のアンコールは弾き語りスタイルで実施。アルバム『Babe.』の通常盤にのみ収録していたシークレットトラック「かしこみかしこみ」を、まずは披露。“かしこみ”とは神様へのお願いのこと。その“かしこみ”と、お腹が痛くなる“さしこみ”の言葉の響きが似ているという理由から、二つの言葉をミックス。デート前に急にお腹が痛くなり、神様に早く直って欲しいと願うコミカルな「かしこみかしこみ」を、阿部真央は凛々しく、たくましい歌声で届けてくれた。

 最後は、阿部真央のデビューのきっかけとなった歌であり、ライブを締め括る定番ナンバーの「母の唄」を弾き語りで披露。母親になった阿部真央が、実の母親へ向けての歌を唄う形ながら、この日も、娘として母親へ向けた唄を、愛おしさ満載で届けてくれた。なんて気持ちに刺さる歌だ。阿部真央の歌はどれも、心に熱い揺さぶりをかけてゆく。それはきっと彼女の歌に、人がたくましく生きてくうえでの力が宿っているからに他ならない。

 阿部真央は、MCで「この2年間いろいろありました。みんなから祝福していただいたのに、それを裏切る形になってしまって」とも語っていた。実は彼女、結婚や出産を経験しながら、すでに昨年離婚も経験。阿部真央自身の育った家庭環境と同じように、シングルマザーとして今、子供ともども未来を見据え人生を歩んでいる。だからこそ、アルバム『Babe.』が生まれたように、みずからの歩みを阿部真央は、人生を映し出す音楽の中へしっかり投影し続けている。その意志を、この日のライブでも感じられたことが何よりも嬉しかった。

(取材=長澤智典)

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