シンガーソングライターの阿部真央が8日、東京・TSUTAYA O-EASTで『阿部真央弾き語りらいぶ2019』をおこなった。このライブは、彼女のデビュー10周年の集大成となる全国弾き語りツアーの東京公演。今年ベストアルバム『阿部真央ベスト』のリリース、ワンマンライブ「阿部真央らいぶ夏の陣〜2019〜」などを経て節目を様々なライブで彩ってきた阿部だが、本公演でもこの10年の成長と感謝をオーディエンスに届けた。たったひとりの弾き語りはシンガーソングライターとしての原点回帰でもあるだろう。阿部真央のこれまでを締めくくりとも言える、このライブの模様を以下にレポートする。【取材=小池直也】

阿部真央(撮影=笹森健一)

 可愛く走って阿部がたったひとりステージに登場した。今日の衣装は全体的にモノトーン、そしてロングスカートが主役。「みなさん、こんばんは。阿部真央です。本当はファイナルだった東京にお越しくださってありがとうございます。最近やってたバンドさんとのライブとは違うんですけど、楽しんでください!」

 開幕の1曲目は「ロンリー」。手拍子と合唱が自然発生する。ひとりぼっちのステージではあるが、とても温かい雰囲気だ。続く「ふりぃ」でも、まるでバンドセットの様な盛り上がりを見せる。

 3曲目の「逢いに行く」はサビのキーが高く、以前はライブ演奏できなかったという。跳ねたリズムで始まり、低いAメロ、確かにサビはハイトーンだ。しかし太い裏声でメロディを処理して力強く聴かせていた。マイナーコードを一発鳴らしてから始まった「デッドライン」はメランコリックに。ピックを落とすシーンもあったが、阿部は動じない。このタフネスも彼女が10年で得てきたものだろう。

 7拍子と6拍子を往復するトリッキーなAメロが特徴的な「マージナルマン」をはさんでMC。「楽しんでますか?気分が悪くなったりしてないですか?」とオーディエンスを気遣いながら、軽妙な話で楽しませる。

 「めちゃくちゃ一杯やってきた曲をやりたいと思います。高校2年生のときに作りました。これで多くの人が阿部真央を知ってくれたと思うのでボツにしなくて本当によかった」と前置きして「貴方の恋人になりたいのです」。タイトルコールで歓声が上がってから、阿部は白い照明に照らされながら歌いあげた。

 続いて、彼女は本格的に音楽活動を始めた高校時代を回想する。「ライブを始めた頃は筆の進みが遅くて、持ち曲が5曲しかなかったんです。地元のライブハウスでは、この5曲だけで回してました。だから思い入れが強いんです。そのうちの4曲は1stアルバム『ふりぃ』に収録しました。でも初期の曲って段々やらなくなるじゃないですか。だから今日はその4曲をやりたいなと。10年たった阿部真央がどう歌うか、聴いてもらいたいです」

 そこから「キレイな唄」、「人見知りの唄〜共感してもらえたら嬉しいって話です〜」、「MY BABY」、「コトバ」とつなげていく。特に人生で最初に作曲したという「MY BABY」は部分的な転調など自由な構成でみずみずしさがありながら、カッティングからは成長した大人のグルーヴを感じさせて味わい深かかった。

阿部真央(撮影=笹森健一)

 「この愛は救われない」は優しく爪弾くギター。声は徹底してコントロールされ、先ほどまでとは対照的に胸であまり鳴らさない。シームレスに裏声と地声を行き来していく。「morning」のサビでは感情を炸裂させた。ギターをミュートする瞬間、音の落差に思わず息を飲む。

 セットリストは終盤戦へ。「阿部真央はこうあるべきみたいなものができていた」という阿部だが、それを破った曲が次の「どうしますかあなたなら」だったという。左右にステップし、ポニーテールを揺らしながら歌う姿は先ほどまでのシリアスな雰囲気をも打ち破っていた。観客をコール&レスポンスで煽ってから「モットー。」。「行きまーす!」とオフマイクで叫んでから間奏に突入する姿に心を揺さぶられた。本編最後の「I wanna see you」を歌い終え、ステージを後にした。

 ほどなくして、フロアからアンコールの掛け声が。それに応え、再登場した阿部は「27歳の私と出がらし男」、「ストーカーの唄〜3丁目、貴方の家〜」を披露する。

 「初期の曲から最新曲まで、機会がなかったらこういう見せ方はできませんでした。10年間みんなに育ててもらったからこそ自信を持って披露できています。10年前は必死でみなさんを楽しませるパフォーマンスはできてなかったと思う。今も100パーセントでできていない時もあるかもしれませんが、少しはそういうライブができている気がします」

 「まだまだ長く歌いたいし、良い曲も書きたいし、もっと歌も上手くて良いパフォーマンスができるアーティストになりたいです。10周年イヤーが終わっても阿部真央をよろしくお願いします。10年間ありがとう!」

 フィニッシュは初期の作品にも収録されていない、最初の5曲のうちの残り1曲である「母の唄」。ギターのボディを叩く音が4つ打ちのキックの様に響き、ひとりきりの演奏でも踊れる質感である。これを最後まで歌いきると、大きな拍手に見送られて彼女はステージを後にした。デビュー10周年を経て、演奏も人間的にも成長し続けることを予感させる夜となった。

セットリスト

01.ロンリー
02.ふりぃ
03.逢いに行く
04.デッドライン
05.マージナルマン
06.貴方の恋人になりたいのです
07.キレイな唄
08.人見知りの唄〜共感してもらえたら嬉しいって話です〜
09.MY BABY
10.コトバ
11.この愛は救われない
12.morning
13.どうしますか、あなたなら
14.モットー。
15.I wanna see you

EN1.27歳の私と出がらし男
EN2.ストーカーの唄〜3丁目、貴方の家〜
EN3.母の唄

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