堀込泰行、過去と現在のコントラストが鮮明に 感情豊かに描く音
ライブのもよう(撮影・立脇卓)
元キリンジで、シンガーソングライターの堀込泰行が12月12日に、東京・渋谷TSUTAYA O-EASTで、東阪ライブ『堀込泰行LIVE2016』の東京公演をおこなった。10月19日にリリースした、堀込泰行名義初のソロアルバム『One』を記念してのライブ。「エイリアンズ」などキリンジ時代の楽曲も随所に織り交ぜ、約2時間半、アンコール含め全21曲を熱演した。2017年には『One』を引っ提げて全国ツアーも開催する。それに先駆けておこなわれた東京公演の模様を以下にレポートする。
変化球「エイリアンズ」をお届け
定刻を少々過ぎたところで暗転すると、『One』に収録されているインストナンバー「Buffalo」とオーディエンスの歓声をBGMに、サポートメンバーの後からゆっくりと堀込がステージに登場した。ギターを手にし、北山ゆう子(Dr)の軽快なカウントとリズムから「Wah Wah Wah」を届ける。
幕開けを飾る「Wah Wah Wah」は、堀込のFenderのテレキャスターとアンプによって乾いたアメリカンサウンドがO-EASTに響き渡る。<ワワワワワー ワワワー♪>とリズミックで心地の良い堀込の叫びにも似た言葉が会場の隅々まで突き抜けていく。
「張り切ってやりたいと思いますので宜しくお願いします」と短いMCを挟み、「Jubilee」へ。サポートメンバーのコーラスに包まれながら伸び伸びと歌い上げた。続いて「涙にあきたら」を披露。松江潤(Gt)のエレクトリックシタールが神秘的なサウンドによって、サイケデリックで白昼夢を見ているかのようだった。
Steely Danを彷彿とさせるAOR風イントロが印象的だった「New Day」。堀込はセミアコのギターで指弾き、繊細なタッチで楽曲を彩った。そして、ポップユニットの口ロロ(クチロロ)とのコラボソング「バース・コーラス」を披露。頭上で回るミラーボールがシャンパンゴールドに輝き、会場を照らした。バンドが作り出すゆったりとしたグルーヴは聴くものをレイドバックさせる、何とも心地良い優しい空間を作り出した。
そして、キリンジの代表曲でもある「エイリアンズ」をリアレンジして届けた。天井からは更に大小様々なミラーボールが登場、惑星のような存在感にステージ上は小宇宙と化していた。楽曲はオリジナルとは一味違う世界観で聴かせた。「アメリカン・クラッカー」では、堀込の持つ絶妙な音のバランス感覚を堪能し、新作に収録の「Shiny」、そしてキリンジの「カメレオンガール」と新旧織り交ぜた楽曲構成で過去、現在、そしてまた過去と時間軸を移動していく。
堀込は「エイリアンズ」のアレンジについて「ライブでやり込んでいけば、どんどん面白くなってくるアレンジなのかなと。たまにはこういう変化球もやっていこうかなと思っています」と期待感が高まるコメントに、オーディエンスも拍手で喜びを表した。
MCでは最近インスタグラムを始めたことを話した。「なかなか伸び悩んでおります」とフォロワー数への苦悩と難しさを語る。やっていて「若者の気持ちがわかった」と報告し、年内は頑張ることを約束。「来年は(更新が)月一になるかも」と弱音を吐きながらも、まだまだSNSにも挑戦していくことを語った。
そして、「Round and Round」「クモと蝶」「サイレンの歌」と堀込の持つダウナー感が強く表れた3曲で、世界観をガラりと変えて魅せていく。この幅広い音楽性がフックとなってライブは生き物だということを実感させた。「クモと蝶」という天敵2者による絶望感を強調させるサウンドや、「サイレンの歌」のように短い歌詞の中にもメッセージが見え隠れするナンバーと、堀込ワールドを堪能できたセクションだった。
4月にリリースされた洋楽カバーアルバム『“Choice” by 堀込泰行』からの選曲で「Oh,Pretty Woman」を披露。イントロの有名なフレーズをハーフテンポで重めに表現し、Bセクションで軽快なニュアンスを出してくるなど、一曲のなかにこれでもかと思わせる展開を盛り込んだ一筋縄ではいかないアレンジで高揚感を煽っていく。間奏の松江のアバンギャルドなギターソロも見せ場となった。このソロを観た堀込が「自分もあれぐらい弾けたら…」とそのギタープレイに嫉妬する場面も。
ラストは「銀砂子のピンボール」
ライブは終盤戦に差し掛かり、タイトルとは裏腹な曲調の「クレイジー・サマー」をしっとりと歌い上げ、沖山優司(Ba)のベースラインがグイグイと引っ張っていく、軽快な8ビートのポップソング「最後の週末」で爽やかにスプラッシュしそうな躍動感をオーディエンスに与えた。
コントラストをつけた流れから、「ブランニュー・ソング」へ。歌詞にもあるように<新しい季節と踊ろう♪>と踊りだしたくなるような、次の一歩を踏み出したくなる歌とビートで我々を楽しませてくれる。エンディングでは堀込によるロングギターソロで会場を沸かせた。
そして、6/8拍子の「僕らのかたち」を届ける。青く染まるステージ。どこか甘酸っぱい青春時代を彷彿とさせたラブソングだ。本編ラストは2005年にソロプロジェクト「馬の骨」名義でリリースされた「季節の最後に」を披露。伊藤隆博(Key)の奏でるオルガンと、松江のワウペダルを使用したギターカッティングの絡み、堀込の陽のテイストが程よく出たナンバーで、オーディエンスを包み込み本編を終了した。
アンコールの手拍子に再びステージに堀込とサポートメンバーが登場。堀込は「こんなに自由で良いのだろうかと反省点も踏まえつつ、今日はお付き合いくださいまして重ね重ねお礼を申し上げたいと思います」と集まったオーディエンスに感謝を述べた。
アンコール1曲目は『One』のリードトラック「Waltz」を演奏。情景が見えてくるような趣のあるサウンドに、オーディエンスも静かに耳を傾けていた。そして、「懐かしい曲でお別れです」と告げ、キリンジ2枚目のアルバム『47’45”』から「銀砂子のピンボール」を披露。エンディングでは堀込と松江によるギターソロ合戦でオーディエンスを盛り上げていった。これから訪れるクリスマスに向けて、ウキウキさせてくれるような演奏でライブの幕は閉じた。
過去と現在の楽曲のコントラストがハッキリと出たライブであった。陰と陽、喜怒哀楽、と現代でおざなりにされがちな様々な感情が盛り込まれていた。新たなスタートを切った堀込泰行のワールドワイドな世界観を存分に堪能できた。来年には『One』を引っ提げて全国を回る堀込。また東京に戻ってきた時は、今作の曲たちはどのような表情を見せてくれるのだろうか。(取材・村上順一)
セットリスト
堀込泰行LIVE 2016 12月12日(月)東京・渋谷TSUTAYA O-EAST 01.Wah Wah Wah |