堀込泰行「実りの多いものになった」共同プロデュースで見せる新たな挑戦
INTERVIEW

堀込泰行

「実りの多いものになった」共同プロデュースで見せる新たな挑戦


記者:村上順一

撮影:

掲載:21年04月22日

読了時間:約9分

 シンガーソングライターの堀込泰行が21日、約2年半ぶりとなるオリジナルフルアルバム『FRUITFUL』をリリース。今作は共同プロデューサーとして冨田謙(キーボーディスト)、八橋義幸(ギタリスト)、柏井日向(サウンドエンジニア)を迎え、レコーディングメンバーには共同プロデューサーに加えて沖山優司(bass)、千ヶ崎学(bass)、伊藤大地(drums)、坂田学(drums)、松井泉(Percussion)、永井隆太郎(Horn)が参加し、収録曲の「光線」には作詞でシンガーソングライターの阿部芙蓉美も参加。インタビューでは、実りのあるものとなったと話す今作の制作背景についてや、楽しかったと語るマスタリング作業についてなど、話を聞いた。【取材=村上順一】

共同プロデュースの意図

『FRUITFUL』CDジャケ写

――2年半ぶりとなるオリジナルフルアルバムですが、制作はいつ頃からスタートしたのでしょうか。

 昨年リリースしたEP『GOOD VIBRATIONS 2』は若手アーティストとのコラボで、僕とは違うタイプのミュージシャンですし、感性も年齢が若く今の音を鳴らすので、その部分で刺激を受けて、その勢いで次の作品を作りたいというのがありました。本格的にコロナ禍になり、やろうと思っていたワンマンライブが中止になったり、取材をリモートでやったり、ラジオのコメント録りも自分でやったりしてました。そのコメント録りは間違えたら編集してというのをやっていたんですけど、それがまたけっこう大変で。そのままアルバム制作に突入出来るかと思ったんですけど、世間の空気的にも、自分の活動としても音楽制作が一旦分断されました。そこから仕切り直して、ストックしていた曲を整理したり、新しく曲を作り始めました。

――今回どんなアルバム作品にしようと曲を制作されたのでしょうか。

 僕はあまりコンセプトというのは考えないんですけど、コンセプトは立てた方が良いなとも思ってはいて...。色んな曲が出来てしまうので、例えば30曲くらい作って、その中からある程度コンセプトを纏めたものをアルバムにしようというのは可能なんですけど、それをやるには僕の場合時間が掛かってしまうんです。なので15曲くらいを丁寧に作ってその中から10曲を選ぶというやり方が僕は多いです。色んな雰囲気の曲があるので曲調としてのコンセプトは立てられないけど、今回は今まで以上にアルバムらしいものにしたいと思っていました。最初はプロデューサー1人にお願いするのもアリだと思ったんですけど、そうするとハマる曲とハマらない曲が出てきてしまうんです。

――一長一短があって。

 かといって、この曲はこのプロデューサーで、この曲はセルフプロデュースでとやってしまうとアルバムとしての纏まりが薄くなるという懸念がありました。それで気心の知れたミュージシャンと共同プロデュースという形でチームを組んで。その人選として僕の作る色んなタイプの曲に対応できる人、微妙なニュアンスを共有出来る人、新しいもの、古いものを知っているというところで選んだメンバーなんです。よく知っているメンバーではあるんですが一緒に制作というのは初めてで、僕が持ってない部分を補ってもらうということ、プラスアルファとしてその人のテイストを入れてもらうということは期待してました。

――なんでもマスタリングが今回すごく楽しかったとお聞きしていますが、今までと何が違ったんですか。

 まずマスタリングというのは、24ビットで作業していたものを16ビットに下げる、音の振り幅をCDに入れるために落とす作業で、結果的に音が圧縮されたものになるんです。それでいかに圧縮されたことを感じさせない音にできるか、というのがマスタリングエンジニアのテクニックなんです。そこで音圧を上げて派手にする人もいますし、あまり派手にせず元の音に忠実にやるエンジニアもいます。ただ音圧を出さないと世の中に流れている音楽と比べてラジオなどで掛かった時に他の曲よりも音量が小さくなってしまうこともあるので、ある程度の音量と音圧を稼ぎながら調整します。でも、あまり音量を突っ込みすぎると奥行きのない音になってしまうんです。

――すごくシビアなんですね。

 それで大抵はマスタリングスタジオに行って、ミックスダウンした音源を持って行って確認します。普段聴いているリスニング環境とは違うところで判断しているので、よっぽど耳が良い人か、エンジニアレベルの方でないと判断が難しい。それもあって僕の中でマスタリングは苦手な部分もあり、自分の中では不安なところが多いんです。家に帰って聴いてやっと良くなってる、あのエンジニアさん流石だなとなることが多くて。

――現場で確信が持てなかった時もあったんですね。

 でも、今回は共同プロデューサーである柏井(日向)くんのスタジオでマスタリングした音をリモートで確認することが出来ました。いつも使っているスタジオだったのでわかりやすかったというのがあります。マスタリングはZETTONさんという方にやってもらったのですが、柏井くんの話だとミックスの印象をそのままに音圧を良い感じで上げてくれるエンジニアだと大絶賛していました。実際マスタリングが終わってみると僕たちがミックスの時に良かったと思っていたまま音圧もしっかり上がっていて、世の中に流れている楽曲とも負けないものになっていました。いつもの環境で聴けたという安心感と、上がってきたサウンドが変なお化粧をせずに仕上がったことにすごくワクワクして楽しかったんです。

5月の生命力が好き

――1曲目の「Stars」はラストに「Stars(reprise)」としてアップテンポになって締めくくられますけど、普通だったら逆の曲順になるのではと思ったのですが、これにはどんな意図があったんですか。

 最初は「Stars(reprise)」のロックンロールバージョンが先にできていました。 その後テンポを落としてゴスペル調、R&B みたいにしたらどうかなと思ったんです。 そのパターンもすごくいいなと思い、違うパターンが同じアルバムに入ってるというのも面白いんじゃないかなと思って2曲収録しようとなりました。 確かに「Stars(reprise)」の方が1曲目に来そうな感じはあるんですけど、特に考えたわけではないのですが、ゆったりとしたバージョンで、イントロもなく歌とピアノだけで始まったらちょっとびっくりするかなと思った部分はあります。それと今までのアルバムとは違うというのを提示したかったのと、最後は軽快に終わるというのもいいなと思って。曲順はデモの段階で並べた時からこの感じで間にインタールード的な曲「Sunday Driver」が入ってアナログ盤のA面とB面のブリッジになるというものはイメージしていました。

――「Stars」はタイトルからもわかるように星がテーマとなっていますが、どんなきっかけからこのテーマが生まれたのでしょうか。

 この曲はソウルフルなものにしたいと思っていました。 その中で星というものに注目した時に、僕らが目にしている星の光というのは何光年、何万光年と先にある光で、それがすごくロマンチックだなと思いました。星を見ると人はどこか希望を抱いたり、落胆した時に空を見上げると星がきらめいていたりとか。でもその光というのは実はすごく遠くから届いていてというところとソウルフルなものを表現したいということと合致した部分があります。 逆に言うと星をテーマにして曲をかけばソウルフルなものになるんじゃないかなと思ったんです。 細かいディティールというよりも広がりのある内容として聞き手に受け取ってほしかったので、星のテーマに結びついたんじゃないかなとも思います。

――「光線」は阿部芙蓉美さんが作詞されていますが、どのような経緯があったのでしょうか。

 全て自分で作詞はしなくてもいいかなと思っていて、自分が好きな歌詞を書く人にお願いしたほうがアルバムの世界観の広がりも出るだろうなと思っていました。それで今回、阿部芙蓉美さんにお願いしました。阿部さんの歌詞は繊細だけどじめじめしていない、ユーモラスでちょっと人を煙に巻くような所があるんです。その感じもすごく好きで是非お願いしたいなと思い、候補曲を選ぶときにこの「光線」が阿部さんのテイストに合いそうだなと。今回お願いする時に「チャーミングなラブソングお願いします」とお話しさせていただいて、割とシンプルなリクエストの中で書いてもらいました。

――歌詞にある<アイ・オブ・ザ・ストームか、君のそのスマイルは>というのはすごく個性的だなと感じました。

 良い歌詞を書く人はたくさんいると思うんですけど、 アーティストらしいと言いますか職業作家さんではなかなか出てこないものが阿部さんから出てくるというのがいいなと思っています。

――リード曲の「5月のシンフォニー」は書き下ろしですか。

 この曲はずっと温めていた楽曲でした。 今回アルバムを作るにあたってもう一度トライしてみようと思ったんです。レコーディングに向けてプリプロ作業をしているうちに、共同プロデューサーであるギタリストの八橋さんが、「サビで転調したい」というアイデアが出て、それでサビで転調してみたらすごくいい曲になったんです。というのも僕の中でサビでもっと盛り上げたいなと思っていたんですけど、なかなかうまくいかなくて。

――堀込さんにとって5月というのはどんなイメージなんですか。

  春ではあるんですが3月や4月と違って生命力が夏に向かって溢れてしまっているというイメージです。僕の中では5月になると緑の色も濃くなりすぎて、もう爽やかではなくなってきているんですよね。 木々たちも自分たちの生命力を抱えきれなくなってきていて大気に放出しまっているようなイメージがあって、その生命力みたいなものが僕はすごく好きなんです。

 子供の頃に住んでいた近所に河原があるんですけど、その季節になると土手沿いを歩いたり自転車に乗ったりしていたんです。なのでこの季節になると子供の時に見た原風景みたいなものが自分の中にあって、それを求めて今東京で暮らしていると、東京は意外と緑が多いのでその中を自転車に乗ったり、緑が多い公園に行ってその溢れんばかりの生命力を浴びにいくという習慣もあって。好きな季節ということで、その気持ちを曲に閉じ込めた感じなんです。僕が受けたものをアウトプットしたいという思いはありました。

尖りすぎなんじゃないかと感じたアレンジ

――8曲目の「涙をふいて」の制作はどん感じで進んだのでしょうか。今の堀込さんのモードが出ている曲だなと感じました。

 この曲はアルバムを作るにあたって新しく書き下ろした曲です。 割とオーソドックスな曲調が僕はよく出てくるので、現代っぽいものを作りたいと思いました。僕が思う今っぽいというのはコード進行がワンループ、そこに印象的なフレーズがいくつかあって、その出入りで構築されていて、3分前後で終わるというイメージなんです。

――特に海外はその傾向が強いですよね。

 なので僕はワンループで展開しない形で面白いものを作ろうと思ってデモを作ったんですけど、八橋さんからサビでコードを展開させたいという話になって。僕は「意図的に展開していないんです」という話をしたんですけど、一応八橋さんが提案してくれた展開するパターンを作ってみました。でもワンループでベースがちょっと移動するぐらいの変化で止めておこうと思って、最低限の変化というところで今のサビになりました。それで元のバージョンと聴き比べてみたら「展開するものもいいね」ということになって。

  そこから共同プロデューサーの冨田さんがアレンジに手を加えてくれました。この曲にはチリチリとしたノイズのようなシンセが散りばめられているんですけど、冨田さんから夜中に「すごいものができたかもしれない」とLINEが来て、アレンジしたものを聴いてみたらそのシンセに効果音みたいなものが混じっていて、最初僕はそれは尖りすぎなんじゃないかなと思ったんですけど、何回か聴いているうちに「これはかっこいいな」と思って冨田さんのモードに引き寄せられ、これは面白くなるかもと思いました。あとは現在の音楽ではよくやるんですけど、サビに“スーパーロー”と呼ばれる超低域のシンセベースを重ねています。なのである程度大きいスピーカーで聴くと下半身に響いてくるような低音が鳴っているんです。

――最後に『FRUITFUL』という言葉にはどんな思いが込められているんですか。

 このアルバムを象徴するような言葉を色々探していたんですけど、今回4人で共同プロデュースというのは初めての形で。この初めての試みというのも不安はあったのですけど、作り終わってみたらすごく実りの多いものになりました。そこで、アルバムのタイトルになりそうな言葉をネットとかで探していたらこの『FRUITFUL』という言葉がピッタリだなと思いました。 フルーツという言葉も入っていてフルーツ=ポップなものが凝縮されているようなイメージもあって、字面から訴えてくるものがありました。なので、このアルバムを聴いて、皆さんも実りのある時間を過ごしてくれたら幸いです。

(おわり)

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