リスナーの人生に寄り添う音楽を、Hilcrhyme 節目に改めて決意
INTERVIEW

リスナーの人生に寄り添う音楽を、Hilcrhyme 節目に改めて決意


記者:平吉賢治

撮影:

掲載:16年12月18日

読了時間:約9分

結成10年にして最高傑作が出来たと自信をのぞかせるHilcrhyme

 結成10周年を迎えたラップユニットのHilcrhyme(ヒルクライム)がアルバム『SIDE BY SIDE』(12月7日)をリリースした。前作から1年9カ月ぶりのアルバムは「結成10年にしてできた最高傑作」の自信作。リスナーの人生に並んで歩いていく「寄り添う」という思いをタイトルに込めた。米ロサンゼルスに渡り、現地のコンポーザーとのソングライティングキャンプを皮切りに制作はスタート。本作にかけた想いとは。「現在のHilcrhymeのリアル」に迫った。

人生のすべてをHilcrhymeに捧げた10年

――全国ツアー『Hilcrhyme 10th Anniversary TOUR 2016 BEST10』を振り返っていかがですか。

TOC 楽曲の人気投票をおこない、上位10曲を演奏するという趣旨のツアーですが、僕たちにとっても驚きの結果でした。各地の反応が面白くてとても楽しんでいます。

DJ KATSU 「ファンはライブを待ちわびている」という事を感じました。

――この10年間で印象深い公演は?

TOC 2010年に地元・新潟の万代シティという場所でフリーライブをしたのですが、そこに1万人もの人が集まって下さって。Hilcrhymeが世に広まっていっていると実感したライブでした。

DJ KATSU 私も2010年の地元・万代シテイでのフリーライブです。小さい頃から見慣れてる大広場に、隙間がないくらいの人で埋め尽くされた場景は圧巻でした。

――結成10周年を迎えデビュー当初と大きく変わった点はありますか。

TOC 人生のすべてをHilcrhymeに捧げた10年でした。人生を賭けて臨んだ博打でもあった。なんとか勝てているのかな。変わった事はもちろん人生が変わったという事です。音楽一本で食べていけているという事を今もまだ驚いている自分がいます。

DJ KATSU 変わった事は、制作環境や周りのスタッフです。狭い部屋でヘッドフォンをかけて作業して、何から何まで2人でやっていた頃が懐かしいですね。

――逆に変わっても良さそうなのに変わらなかった事は?

TOC 変わっていない部分は「音楽が好き」という気持ちですね。

DJ KATSU 変わってないのは新潟在住を貫いている事です。

リスナーの人生に“寄り添う”

Hilcrhyme「SIDE BY SIDE」初回盤

――12月7日発売の7th Albumアルバム『SIDE BY SIDE』の作品コンセプトは?

TOC 『SIDE BY SIDE』は、リスナーの人生に並んで歩いていく「寄り添う」という意味合いでタイトルとしました。制作は今年の頭から始まっていて、まずは相方がロサンゼルスに行き、向こうの作家とソングライティングキャンプ(編注=スタジオセッションして作曲していく事)に参加した事がスタートでした。そして、KATSUからオケが上がってきて僕がそれに詞を書いていきました。

DJ KATSU 今年1月にLAに行って。現地のアーティスト達とトラック制作してきました。10日程滞在してほぼ毎日スタジオに入って7つのトラックを作りましたが、このアルバムにはその中の4つのトラックが使用されてます。

――表題曲「Side By Side」に込めた想いは?

TOC Hilcrhymeの曲を聴いてくれている人、ライブに足を運んでくれている人、それは、同じ感性や考えや痛みとか、何かしらを共有している人だと思うんです。そういう人の人生に寄り添うような作品をこれからも創っていきたい。結成10年という節目に改めてそう思いました。

試行錯誤したサンプリング

――『SIDE BY SIDE』の収録曲で今の心境がより強く反映された楽曲は?

TOC どの曲も今の心境や環境や状況が反映されています。作詞においては「今」が全てなので。

DJ KATSU トラック制作には歌詞がないので心境の反映というのは表現しづらいんですが、LAに行って以来、トロピカルハウスというジャンルにハマっていて、インスト曲の「Dendrobium」にはそれが強く反映されてます。

――「WARAE ~In The Mood~」ではジャズのスタンダードナンバー「In The Mood」を使用されていますが、これをトラックに使用した経緯は?

DJ KATSU とあるタイアップの企画がきっかけで、In The Moodのカバーをやる事になりました。オリジナル曲が老若男女に知れ渡る親しみのある曲なので、軽快なホーンサウンドの良さをそのまま生かして踊れるビートを合わせました。とは言え、元がジャズなので普通の8ビートでは噛み合わなくて。この形が出来るまではかなり試行錯誤しました。ポイントは主張し過ぎない程良いデジタルサウンドです。

――ジャズは良く聴かれるのでしょうか。

TOC そんなに得意な分野ではないけど、ジャズヒップホップは一時ハマったのでサンプリングネタを聴いてたりはしました。

DJ KATSU ジャズは好きなのでたまに聴きます。特に好きなのは、Bill Evansの「Autumn Leaves」です。最近はジャズをテーマに書いてるマンガ「Blue Giant」も大好きです。

――「クサイセリフ」に掛けてお二人の人生の中で一番の「クサイセリフ」は?

TOC R指定が入るので言えません(笑)

DJ KATSU 全く思い当たらないので、クサイセリフをあまり言ってこなかったんだと思います。

リミックスはダンスナンバーだけじゃない

――「Dendrobium」とは花の「蘭」の事だと思われますがこのインストに込めたは思いは?

DJ KATSU 先ほども「ロピカルハウス」にハマったとお話しましたが、この曲は、LAに行ってハマったトロピカルハウスをテーマに作りました。「もし花が歌いだしたらこんな感じ」というSFチックなイメージです。

――数ある楽曲の中から「鼓動」や「Little Samba」をリミックスで収録しようと思った意図は?

DJ KATSU 前作『REVIVAL』に収録した「トラヴェルマシン」のリミックスが評判良くて、ライブでも盛り上がる曲になったので今回のアルバムにもリミックスを入れようという事になりました。リミックスはダンスナンバーだけじゃないという事も表現したかったので、聴き入るような曲もリミックスしたいと思っていました。

 そして、8曲目の「ドレス」が出来た時に「『鼓動』だ!」となりました。「Little Samba ~情熱の金曜日~」を選んだのはトロピカルな雰囲気な曲なので、今の気分にピッタリだったからです。あえてサビでビートを抜いて、その後に踊るパートを作るというのはLAのアーティスト達との会話から学んだことです。

――「Side By Side」の前に「LUCIFER -Interlude-」が挿入されています。ここでInterlude(編注=曲と曲の間に演奏する曲)を入れたのにはどのような意図が?

DJ KATSU アルバムにInterlude(インタールード)を入れたのは初めてですが、これは4月にディファ有明でおこなったライブ『パラレルワールド』のオープニング音源をアレンジして使いたかったからです。「LUCIFER」というタイトルをつけたのは、アルバム1曲目の「VESPER」に宵の明星という意味がある事から、明けの明星を指す「LUCIFER」と名付けました。

――『SIDE BY SIDE』ベストトラックを教えて下さい。

TOC お気に入りはやはり「Side By Side」ですね。本当に上手く書けたと思います。サビのメロディと歌詞が特に気に入っています。ガラスを用いた表現が我ながらよくできました。

DJ KATSU 個人的には「HINOTORI」ですね。プリプロが出来てからTOCからもう少しテンポを上げたいという提案があって、それが見事にハマってお気に入りの1曲になりました。結成10周年にして更に勢いを増すような疾走感。リスナーの心も奮い立たせるくらいのパワーを持ってると思います。

語感、語呂、一番良いのは両方がバチっとハマった時

Hilcrhyme「SIDE BY SIDE」通常盤

――TOCさんは今作でリリックを書かれる際、チャレンジしたことはありますか?

TOC 「WARAE ~In The Mood~」は自分の中で新しい感じがします。まず笑う事をテーマにした事が初めてだし、これでもかってくらい明るい曲なので“闇”が一切ない。新鮮でした。

――リリックには前向きな情念の中に叙情的な光景を感じます。文学作品はよく読まれますか?

TOC 文学作品は子供の頃はたくさん読みましたが、最近はあまり読んでいません。ツアーが終わりひと段落したら久しぶりにそういうモードにしてみようかなと思います。

――ラップやメロディに言葉を乗せる時は「語感」と「言葉の意味」のどちらを主軸にしていますか。

TOC 語感、語呂を大事にする時もあるし言葉の意味を大事にする時もある。ケースバイケースですね。一番良いのは両方がバチっとハマった時です。

――DJ KATSUさんは今作で新しく使用した機材や楽器はありますか?

DJ KATSU ハード面では全く変わってませんが、オーディオプラグインソフトで新しい物をいくつか導入しました。特に気に入ってるが「Valhalla Room」というリバーブです。LAでの制作時にプロデューサーのジャスティンが使っていたのがキッカケです。

結成10年にして完成した最高傑作

――『SIDE BY SIDE』のレコーディングで難航した点は?

DJ KATSU 今までやってきた中で一番スムーズでスピーディに進行したと思います。

――『SIDE BY SIDE』が完成した時、どういった方々にこの音楽をより聴いて欲しいと思いましたか?

DJ KATSU このアルバムには「万人に共感を得る」というコンセプトの元でHilcrhymeならではの要素が詰まっているので、老若男女どんな人が聴いても伝わると思ってます。実際にHilcrhymeのライブには様々な年齢層のファンが集まります。まだHilcrhymeを知らない方にも届いてほしいと思います。

2人 結成10年にして最高傑作ができました。今までで一番創っていて楽しかったし、完成した時の満足感が高かった。多くの方の心に届いてほしいと思います。

――最後にこの10年で日本のHIP HOPシーンはどのように変化したと感じますか?

TOC シーンが変化したというよりは日本のHIP HOPそのものが変化しているような気がします。それがHIP HOPと言われてしまえばそれまでですが。

DJ KATSU 個人的に最近はHIP HOPシーンとの関わりは少なかったんですが、テレビ番組の「フリースタイルダンジョン」は大きな影響があったように感じます。

(取材・平吉賢治)

作品情報

ニューアルバム「SIDE BY SIDE」
2016年12月7日(水)発売
初回限定盤(CD+DVD)、通常盤(CD)
4Seasons会員限定盤(1CD+2DVD)(3DISCS)
※スペシャルパッケージ仕様 ※DVD+4Seasons会員限定盤 特典DVD付 ※完全受注生産盤

▽収録内容
<CD>(初回限定盤、通常盤、4Seasons会員限定盤共通)収録曲
1.VESPER
2.パラレル・ワールド  映画『Hilcrhyme 10th Anniversary FILM「PARALLEL WORLD」3D』主題歌
3.HINOTORI
4.言えない 言えない  TVアニメ「実は私は」エンディングテーマ
5.クサイセリフ
6.WARAE ~In The Mood~  11月16日発売 最新シングル
7.DENDROBIUM -Instrumental-
8.ドレス
9.鼓動 -Magnificent Remix-
10.ソノママ
11.Little Samba 〜情熱のRemix〜
12.LUCIFER -Interlude-
13.Side By Side

この記事の写真

記事タグ 

コメントを書く(ユーザー登録不要)

関連する記事