筋肉少女帯の超絶演奏と文学的歌詞。バンド内にもある「音」と「歌」の対極が唯一無二の世界観を作り出している

筋肉少女帯の超絶演奏と文学的歌詞。バンド内にもある「音」と「歌」の対極が唯一無二の世界観を作り出している

 筋肉少女帯が10月26日にニューシングル「人から箱男(筋少×カラオケDAMコラボ曲)」と、再結成10周年記念ベストアルバム『再結成10周年パーフェクトベスト+2』をリリースする。1984年にインディーズデビュー。1987年発売の『高木ブー伝説』では斬新な曲構成が話題を呼び、注目を集めた。その後も画期的な作品を発表し続けるも1999年に活動を凍結。7年の時を経て2006年に再結成を果たし今年10周年を迎える。超絶演奏の上で優雅に踊る文学的歌詞、そして大槻ケンヂの歌唱スタイル。これらが絶妙に均衡し、唯一無二の世界観を作り出している。凍結期間を挟んでメジャーデビューより28年となるが今も変わらずに高い支持を集める。その理由には流行り廃りに影響されない、彼らそのものがジャンル化されていることが挙げられる。

真意を勘繰りたくなる歌詞

 今回、同時発売される作品のうちニューシングル「人から箱男(筋少×カラオケDAMコラボ曲)」は、カラオケ大手・第一興商のDAMとのコラボ曲。この「箱男」という言葉を耳に触れて思い出すのは、昭和四八年三月に新潮社から刊行された安部公房氏の同名長編小説だ。市民社会から離脱した男が段ボールのなかで覗き見た社会の様子を描いた作品。二癖も三癖もある大槻ケンヂだ。同曲にある「箱男」を単なるカラオケボックスに見立てただけではないだろう。何かしらの伏線となる社会風刺やメッセージが隠されているのではないかと勘繰りたくなる。すんなりと聴けば良いものをどうしてもそう思ってしまうのは、今回の再結成10周年ベスト盤『再結成10周年パーフェクトベスト+2』に理由がある。

 筋肉少女帯は、ざっくり言えばハードロックという超絶演奏と、独特の世界観を持つ歌詞、いわばパンクの要素で成り立つ。優れた演奏技術にメロディセンスが光る。これを作り出しているのは、ベースの内田雄一郎、ギターの本城聡章と橘高文彦だ。卓越したギターソロにユニゾン。縦横無尽に駆け巡る本城と橘高のギターサウンドの合間を縫う、これまた鯔背(いなせ)なベース。ロックとしては心地良い安定感抜群のサウンドだ。

 その一方で大槻ケンヂのボーカルは、アンチテーゼとも取れるパンク要素を感じさせる。文学的センスの光る歌詞だが、大槻の歌唱スタイルからはそれを感じさせない。文学的歌詞を綺麗に歌うのではなく、斜に構えながらも力強く歌う。時としてそれが水木一郎や串田アキラが歌う特撮やアニメソングのようにも聴こえる。しかしどうだろう。歌詞を活字として読んでいると頓知が効いて面白いことに気づく。歌詞においては、真正面から向き合ったもののするりと交わされるような感覚だ。

次々と湧き出る疑問、なぜ「箱男」

言葉の頓智が面白い、筋肉少女帯「人から箱男」

言葉の頓智が面白い、筋肉少女帯「人から箱男(筋少×カラオケDAMコラボ曲)」

 まず「人から箱男」だ。なぜ、「箱男」なのか。カラオケボックスだからか。筋肉少女帯の歴史を紐解けば、忘れてはならないのは『高木ブー伝説』だ。高木ブーが所属するザ・ドリフターズ。志村けんが加入する前に荒井注がいた。その荒井注は、副業として早くからカラオケボックスに目を付け、導入を試みた。しかし、カラオケの機械が大きすぎで部屋に入らなかった。まるでコントの様な話だが当時、この様子がテレビで放映され話題になった。「箱男」はそこに掛けているのかとも考えたくなる。

 歌詞にある<振り切る不条理♪>や<空回りする愛情♪>―。これらの言葉は社会に対するものなのか。しかし、どうも当時の荒井注の渋い顔が浮かんでならない。そしてなぜ<人から箱男♪>なのか。<最後に紡ぐ人は人♪>。このフレーズがどうも気になる。意図は何か。荒井注にごまかされていないか、伏線があるのではないかと。

 そう考えを巡らせる。歌詞を書いた本人に話を聞くのが一番早いが、答えが出てしまってはツマラナイ。かつて大槻ケンヂ本人もとある媒体で以下の趣旨の内容を語っている。ギターを習い始めて「音楽は数学」であることを知って愕然とした。コードという数式の上に成り立つ音楽。創造性あふれるものだと思っていた音楽は実は答えが事前に用意されていた。そこに限界を覚えた――。答えのない答えを探し求めるのは自問自答にも似ている。昭和中期、こうした行動は知識人の間では普通だった。格を探す作業は今、ネットの普及によりなくなろうとしている。

ベスト盤は筋肉少女帯ワールドの入り口

 脱線した話を元に戻す。疑問が次々と沸き立つ筋肉少女帯、大槻ケンヂの歌詞。しかし、そう思わせるようになったのは、前期のベスト盤だ。今回のベスト盤を一聴し、その後、歌詞だけを読むと、歌詞や楽曲の奥深さ、ここで言うところの疑問に触れることができる。そうなった時点で筋肉少女帯の世界観から抜け出すことはできない。自然と彼らの楽曲をあらゆる角度から見ようとする自分がいることに気がつく。

 筋肉少女帯は、技巧とヴィジュアルを兼ね備えた、いわゆるヴィジュアル系ロックシーンが活況を迎える前夜の80年代後半。『高木ブー伝説』という異彩の作品を世に送り出し、注目を集めた。<俺は高木ブーだ!♪>とハードロックサウンド上で連呼する“様式”は衝撃的だった。しかし、これにはしっかりとテーマがある。「失恋男の憂い・無念という重くありがちなテーマを、ドリフのコントにおける高木の役割に喩えて制作した」のだ。

 ロック界において、技巧派を追求したハードロックに反骨するように、グラムロックが生まれた。そして、その後にパンクへと引き継ぐ。ハードロックのアンチテーゼだ。それらはやがて社会への反骨と結びつき、若年層に支持されて一大ムーブメントになった。化粧や髪をおったてる姿は特徴的だ。そして、日本においては80年代にそれが入り込み、その後のヴィジュアル系ロックシーンへと繋がっていく。

 筋肉少女帯の第一期は、BOOWYやX JAPAN、ブルーハーツ、バービーボーイズのメイン通りに対するサブカル的な要素が強かった。彼らの多くは格好良い言葉を紡いでいたが、井出立ちや演奏力は同じであっても言葉は異なっていた。そして、前記の通りに筋肉少女帯の言葉は当時の中高生の心を突き刺した。人とは異なるものを追求したい歳頃だ。筋肉少女帯の音楽性は彼らの趣向にぴったりはまった。

 80年代に流行ったこれらは、90年代では渋谷系に影響を受けた世代へと引き継ぐ。筋肉少女帯も時代変遷のなかで、楽曲を作り続ける。一度は活動を凍結するも2006年に再開。第二期目も人気は衰えない。それは流行り廃りに左右されない彼ら独自のジャンルを構築しているからだ。

 そして、前記の『高木ブー伝説』が生まれた80年代後半は、カラオケが普及して、身近な娯楽として楽しめる環境になりつつあった。放課後にカラオケに良く行き、X JAPANやBOOWYなどの楽曲の合間に<俺は高木ブーだ!>と叫んだ。

言葉の頓知

改めて彼らの魅力に触れた、筋肉少女帯『再結成10周年パーフェクトベスト+2』

改めて彼らの魅力に触れた、筋肉少女帯『再結成10周年パーフェクトベスト+2』

 前記の通り、サウンドはハードロックを踏襲する。80年代のロックに愛着を持つファンならたまらないギターのリフだ。その心地良さはアクの強い文学的な歌詞の世界観を和らげている。しかし、活字としてこう対峙してみるとなんとも面白い。頓知や社会風刺やら。例えば、ベスト盤に収録の「仲直りのテーマ」。メンバー間でひと悶着があって“雪解け”した当時の想いを包み隠さずにストレートに表現している。ここまでくると痛快だ。それに対するかのように橘高が歌う「おわかりいただけただろうか」。

 更に「枕投げ営業」。これは大槻が作詞、本城聡章が作曲を手掛けたものだが、この歌詞もまた面白い。「枕営業」ならぬ「枕投げ営業」。頓智の利いたすり替え話は落語の一端さえもうかがえる。力任せに真正面からぶつかってくるヘビー級レスラーを巧みにかわすようだ。その一方で「労働讃歌」の様に社会風刺を、柔らかい表現で示しているものもある。アルバム『おまけのいちにち(闘いの日々)』に収録され、今回のベスト盤にも入った「混ぜるな危険」もそうだ。

 再結成後の2007年9月に発売した13thアルバム『新人』から、セルフカバーアルバム『公式セルフカバーベスト 4半世紀』を含め、6枚のアルバムをリリースし、収録総数は78曲。そのうちの20曲を、新曲2曲とともに収録している。そして、どの楽曲もそうした内面がのぞく。

 難しいこと、奥深い事をサラッとやってみせる―。これが彼らのアンチテーゼとも言える。変わらぬスタイルだが、言葉は巡り替わる。サウンドに紛れて本来の意味が捕らえにくくなる言葉、しかも大槻の歌唱法はそれを更に覆い隠す。しかし、技巧派サウンドの余韻に浸りながら改めて彼らの言葉に耳を傾けるとこうした社会風刺の頓智が多く散りばめられていることに気づく。頓智で隠された本来の意味。それには振れずに聞き流すことだってできる。それだけ演奏力が優れていることなのだが、言葉の裏を読み取ることに気づいた場合、それが中毒性となり、彼らの音楽にハマるきっかけとなる。

バンド内の対立軸こそが唯一無二の世界観を作り出す

 そして、アンチテーゼはバント内にもある。北欧メタルの雰囲気を醸しだしながらも、演奏は超絶技術の上に映える日本屈指のハードロック。それに対する大槻の言葉のコミカルさ、ユニークさ。クラシックにおける古典音楽とロマン派。前者が楽器隊であるならば、ロマン派は歌にある。バンド内にあるこの対立軸こそが彼らの唯一無二のジャンルへと昇華させている。

 ベスト盤は改めて彼らの奥深さを知るきっかけとなり、シングルの「人から箱男(筋少×カラオケDAMコラボ曲)」では答えのない迷路に彷徨うようなもので、聴けば聴くほど歌詞への疑問が残っていく。歌の最後にある<同化せよ♪>。これは歌を指しているのか、それともカラオケボックスとなのか、はたまた筋肉少女帯となのか―。その答えを求めにライブへと足を運ぶ。自然発生的に生まれるこうした動機付けも彼らの音楽の面白味である。(文・木村陽仁)

参考資料

<シングル>
▽人から箱男(筋少×カラオケDAMコラボ曲)
初回限定盤(CDMS+DVD)TKCA-74401/2,750円+税
通常盤(CDMS)TKCA-74402/1,200円+税

CD収録内容※限定・通常共通
1. 人から箱男 (筋少×カラオケDAMコラボ曲)
2. 週替わりの奇跡の神話 (’16 Live Version)
3. マタンゴ (’16 Live Version)
4. 人から箱男 (筋少×カラオケDAMコラボ曲)[Short Version]
5. 人から箱男 (筋少×カラオケDAMコラボ曲)[Original Karaoke]
6. 人から箱男 (筋少×カラオケDAMコラボ曲)[Instrumental]
※Track-2,3 Live Version:2016年4月23日 LIQUIDROOM 公演より

DVD収録内容※限定盤のみ
1. 人から箱男(筋少×カラオケDAMコラボ曲)(MUSIC VIDEO)
2016年4月23日 LIQUIDROOM 公演より[Track-2〜11]
2. モコモコボンボン (Vo.内田)
3. LIVE HOUSE (Vo. 本城)
4. スラッシュ禅問答 (Vo.橘高)
5. 日本印度化計画 (Vo.ナカジマノブ)
6. 球体関節人形の夜 (Vo.野水いおり)
7. イワンのばか (Vo.二井原実)
8. 日本の米 (Vo.橘高,本城,内田)
9. 航海の日
10. 地獄のアロハ (Vo.橘高,本城,内田)
11. 釈迦 (Vo.大槻,二井原実,ナカジマノブ,野水いおり)

<ベストアルバム>
▽再結成10周年 パーフェクトベスト+2
初回限定盤(2CD+DVD)TKCA-74428/4,480円+税
通常盤(2CD)TKCA-74429/2,980円+税

2CD※限定盤・通常盤共通
DISC1. CD
1.めでてえな? (バンド再結成10周年の歌) [新曲]
2.仲直りのテーマ from ALBUM「新人」
3.トリフィドの日が来ても二人だけは生き抜く from ALBUM「新人」
4.ワインライダー・フォーエバー (筋少Ver.) from ALBUM「蔦からまるQの惑星」
5.枕投げ営業 from ALBUM「おまけのいちにち(闘いの日々)」
6. おわかりいただけただろうか (Vo.橘高 Ver.)
from ALBUM「おまけのいちにち(闘いの日々)」(初回限定盤付属ランダム封入CD)
7. 孤島の鬼 from ALBUM「公式セルフカバーベスト 4半世紀」
8.ムツオさんfrom ALBUM「THE SHOW MUST GO ON」
9.週替わりの奇跡の神話from SINGLE「週替わりの奇跡の神話」
10.ゾロ目 from ALBUM「THE SHOW MUST GO ON」
11.ツアーファイナル from ALBUM「シーズン2」

DISC.2 CD
1.パノラマ島失敗談 [新曲]
2.釈迦 from ALBUM「公式セルフカバーベスト 4半世紀」
3.アウェー イン ザ ライフ from ALBUM「蔦からまるQの惑星」
4.機械 from ALBUM「公式セルフカバーベスト 4半世紀」
5.混ぜるな危険 from ALBUM「おまけのいちにち(闘いの日々)」
6.労働讃歌 from ALBUM「THE SHOW MUST GO ON」
7.蓮華畑 from ALBUM「シーズン2」
8.恋の蜜蜂飛行 from ALBUM「THE SHOW MUST GO ON」
9.地獄のアロハ from SINGLE「地獄のアロハ」[筋肉少女帯人間椅子]
10.中2病の神ドロシー ~筋肉少女帯メジャーデビュー25th記念曲
from ALBUM「公式セルフカバーベスト 4半世紀」
11.新人バンドのテーマ from ALBUM「新人」
【限定盤付属DVD】
・再結成10周年
Anniversary Movie

<ライブ情報>
▽筋肉少女帯「再結成10周年 パーフェクトベストTOUR」
10月27日(木)東京 渋谷 WWW X
11月2日(水)東京 新宿 BLAZE
11月12日(土)愛知 名古屋 CLUB QUATTRO
11月19日(土)大阪 梅田 CLUB QUATTRO
11月26日(土)東京 EX THEATER ROPPONGI

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