三柴理「自分の中の音楽をピアノで表現し続ける」半世紀の音楽人生の深み
INTERVIEW

三柴理「自分の中の音楽をピアノで表現し続ける」半世紀の音楽人生の深み


記者:平吉賢治

撮影:

掲載:19年06月29日

読了時間:約11分

 ピアニストの三柴理が26日、半世紀におよぶピアノ人生の集大成となるベストアルバム『BEST of PIANISM』をリリース。当初は3枚組という構想もあったという今作は、日本のロック、ポップスシーンに新しいピアノのあり方を問い続けた歴史を1枚のCDに集約。筋肉少女帯のピアニスト・エディこと三柴江戸蔵としてデビューして30周年を迎えるが、特撮のメンバーとしてピアニストとしてもTHE金鶴など様々なプロジェクトなどで活躍している。クラシック、現代音楽、ロックをはじめ様々なアプローチを刻み続ける意欲的な姿勢と音楽愛について、“自分の中の音楽”をピアノで表現し続ける三柴理に30周年という節目と合わせ、改めてその音楽人生について深く語ってもらった。【取材=平吉賢治】

新録、初出、挑戦の作品も含んだ意欲溢れるベスト

『BEST of PIANISM』ジャケ写

――今作ではクラシック、現代音楽、筋肉少女帯、THE金鶴、などなど、三柴さんの森羅万象が詰まっている作品ですね。「友のための音楽」(シルヴァノ・ブソッティ)の演奏は非常に印象的です。

 シルヴァノ・ブソッティはイタリアの現代音楽家で、絵も描かれる方なんです。ほとんどが図形楽譜なんですよ。「友のための音楽」は一応読める五線譜なんですけど独自の手法で書いてあって、説明もイタリア語なので全て訳すところから始めまして。クラシック音楽がどんどん進化し続けているのが現代音楽というジャンルですね。高校時代、夜中にNHKのFMをつけたら訳の分からない音楽をやっていて「怖いな夜中に!」と思って、調べたら…『現代の音楽』という時間で、現代音楽ばかりやっている番組だったんですよ。聴くだけで震え上がるほど怖いのもあって。

――現代音楽って突き抜けているというか、ガツンとくるものがありますよね。

 そうなんですよ。結局その番組にハマってしまい、現代音楽が大好きになって。18歳になるまでロックも、ポップスも歌謡曲もほとんど聴かなかった。4歳からピアノを始めてから50年弾き続けていますが、20世紀における現代音楽は僕の音楽的要素のひとつなんです。それを知ってほしいという意味でも「友のための音楽」を入れました。現代音楽って多くのジャンルに影響を与えているんです。たとえばテクノの人達にも。テクノってノリノリの音楽というよりも、一音一音もの凄くこだわって作るジャンルなんですね。バスドラの音一つとっても凄く時間をかけて作る。そういう人達もけっこう現代音楽を聴いていたりしますね。

――現代音楽とテクノやエレクトロミュージックは親和性が高いのでしょうか?

 現代音楽のひとたちは、作曲技法だけでなく、録音方法においても先進的なんですよ。電子楽器をいち早くとりいれた点でも。電子音楽スタジオというのが世界各地にあって、そういう所で現代音楽家が電子音楽を作っていた時代もあったんですよ。やがて電子楽器がコンパクトになって身近な存在になり、テクノというジャンルが生まれて。今作には、もうひとつ、現代音楽の「トリロジーソナタ」が入っているんですけど、作曲したフィリップ・グラスはミニマル・ミュージックで有名で、プログレッシブ・ロックの人達に影響を与えているんです。フィリップ・グラスとシルヴァノ・ブソッティの作品を収録したのは、僕の音楽のルーツにあるからなんですよ。今作は、これまでのソロ・アルバムの中からピックアップしてベストを出そうという話から始まり、「どうせベストを出すならリマスタリングするだけじゃつまらないね」ということになったので、過去のライブ録音からグラスやブソッティも収録することにしたんです。

選曲だけでなく、音質にもこだわりました。HQCD(ハイ・クオリティCD)はびっくりするほどリアルな音でした!ライブ録音ではお客さんの息づかいや衣擦れの音まで聴こえるほど。

――ショパンの「雨だれ(Prelude Op.28 No.15)」が収録されていますが、非常に斬新なバージョンで驚きました。ピアノだけではないですよね?

三柴理

 THE金鶴で編曲してシンセも入れたんです。以前「ショパンをロックやポップスの人達にやってもらったらどうなるんだろう?」という企画CD『JAMMIN' with CHOPIN』に参加したんです。それはスタジオで録音したんですが、今回入れたのはライブ録音です。

 THE金鶴は僕と佐々木TABO貴(ex.有頂天)とClaraの3人でやっているんですけど、佐々木TABO貴さんがいろんなおもしろい案を出してきて「『雨だれ』だったらベタに雨の音を入れようよ」って。「それって凄くダサいし、誰でも思いつくんだけど普通はやらないところをあえてやろう」ということになって、雨の音から始まるという(笑)。

――最初の雨の音から続くアレンジのさまざまなアプローチがとても新鮮です。

 ショパンが作曲したときの環境や心境などがわかるようにアレンジしようということで、鬱屈した感じの低い電子音を入れたりしました。音で風景がイメージしやすいように、補強する意味でシンセを入れたんです。ショパンがこの曲を作っているときにはマヨルカ島に滞在していたんですが、その雰囲気も入れたくて。雨の切れ間に少し晴れてきたときには、小鳥の声が聴こえてくるんじゃないかとか。『雨だれ』は以前スタジオ録音盤では、雨のしずくのイメージ音をギターで入れたんですが、今回のライブ音源ではシンセでそのギターの音をマネして入れています。THE金鶴は打ち込みをほとんどやらず、シンセサイザーなども全て手弾きなんです。「Burning Hell」もそうで。僕がやりたいのはテンポの揺れや音の強弱などを含めて人間的な音楽なんです。今の時代は打ち込みが主流になっていますし、ロックでもドンカマ(ガイドリズム)を聴きますよね?でも昔のロックはそれを聴いていなくて「せーの!」でやっている。だからサビだけ強調したければちょっとだけ遅くなったりするんですよ。

――それがグルーヴを生んで良かったりするんですよね。

 すっごい説得力があるんですよ!そういう方が僕も好きなので。

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