選択は正しかった Hilcrhyme、結成10年で向き合ったもう1つの世界
INTERVIEW

選択は正しかった Hilcrhyme、結成10年で向き合ったもう1つの世界


記者:村上順一

撮影:

掲載:16年06月29日

読了時間:約17分

もしも…。過去を振り返るきっかけとなった「パラレル・ワールド」

もしも…。過去を振り返るきっかけとなった「パラレル・ワールド」

 今年6月9日に結成10周年を迎えた新潟在住のラップユニットのHilcrhyme(ヒルクライム)が6月29日に、通算19枚目のシングルとなる「パラレル・ワールド」をリリースする。これまで「春夏秋冬」などの名曲を世に送り出してきた。結成10年周年を迎えるにあたり、TOCは「もしHilcrhymeでなかったら自分は何をしていたんだろう」と自問自答を重ねたという。そこから本作のテーマが生まれ、「パラレル・ワールド」が完成した。DJ KATSUも渡米先のロスで紆余曲折を経ながら楽曲を制作。そこで参加したプロジェクトが縁で、グラミー賞受賞経歴を持つジャスティン・トラグマンをプロデューサーに迎え、Hilcrhymeの新境地とも言えるサウンドに挑んだ。今回のインタビューでは今作の制作経緯やその過程、更には結成当時のエピソードや一貫しているこだわっている点などについて話を聞いた。

聴いた感じ「新しいね」と思えるものに仕上がっている

「パラレル・ワールド」初回盤

「パラレル・ワールド」初回盤

――結成10周年に先駆けて、4月15日に『Hilcrhyme 10th Anniversary LIVE「PARALLEL WORLD」』がおこなわれました。自身初の360度円形ステージでのライブとなりましたが、リハーサルはどのように進められたのでしょうか。

TOC 楽曲に関してはセットリスト通りに演奏していくという通常通りのリハでしたね。場あたりはやっぱり出来なくて、舞台監督さんにおおよそを聞いて進めていきました。円形ステージの大きさは数字上で聞いていたんですけど、当日、実際に見たら意外と小さかったんですよね。現場での動きは当日のリハで確認しました。

――本番でTOCさんとKATSUさんが背中合わせで演奏する円形ステージならではのシーンが印象的でした。バンドだと良く観る光景ですが、DJとおこなうのはあまりないですよね。あれはリハでもやられていなくて、ぶっつけ本番とのことを聞いたのですが、客観的に見てどう思いましたか。

TOC 不思議な感じはしましたね。

DJ KATSU ライブでああいう感じになることはないからね。「トラヴェルマシン」のMVでやったことはあったけど。

――このライブは3Dライブ映画になりますが、ライブの企画段階から決まっていたことなのですか。

TOC 決まってましたね。それもあったので、カメラに向かって手を伸ばしたりとかの指示は数カ所ありました。

――そういえばKATSUさんはライブに、世界に3台しかないと言われているDJブースを借りてきたんですよね。

DJ KATSU 実際に世界で3台かどうかはわからないんですけどね。あれはインディーズでMVを撮る時に、地元の車屋さんから借りたんですよ。その車屋さんは当時、「日本には2台しかない」と言ってましたけど(笑)。

――そのDJブースはアメリカ製ですか。

DJ KATSU 確かそうみたい。ただ15年くらい前の代物なので、ターンテーブルの大きさが今のものと合わないんですよ。今はCDJ(編注=CDのターンテーブル)でHilcrhymeのライブをずっとやっているんですけど、置き場とのサイズが合わないので、台を大工さんに作ってもらってその上に乗せてるので、手間は結構かかりましたね。借り物なので穴とか開けられないし(笑)。

――DJブースは材質は何で出来ているんですか。

DJ KATSU 外側はFRP(編注=繊維強化プラスチック)みたいな感じですね。

――では見た感じよりも結構軽いんですか。

DJ KATSU そこまでは重くないですね。中は空洞ですけど、支柱とかは鉄なので軽いというほどではないですね。空洞の部分に音がこもらないように吸音材が貼ってあったり、かなりしっかりした作りになってます。

――お値段も高そうですね。

DJ KATSU 具体的な値段は聞いてないんですけど、だいぶ高いみたいですよ。

――「PARALLEL WORLD」のライブの時に仰ってましたが、10年前に某ドーナツチェーン店で話し合い、結成されたんですよね。なんとなくお2人が行きそうにないイメージなのですが。

TOC あの時は良く行ってましたよ。今もたまに行きます。

――その時はどのようなお話をされて結成に至ったのでしょうか。

TOC 僕もKATSUも普通に仕事をしていて、就職して3カ月ぐらいたった頃なんですけど、働いていても楽しくないという感じだったんです。「やっぱり音楽で食べていきたい」とKATSUと話したら、そこで意気投合してHilcrhymeを始めることになったんですよ。

――音楽をやり始めたのは何歳ごろからですか。

TOC 僕は19歳頃からですね。

DJ KATSU DJセットを買って始めたのは僕も19歳ですね。まあ音楽活動かどうかというと微妙なんですけどね。単純に趣味でアナログレコードを集めていただけに近かったので。それをきっかけにクラブイベントを始めて、TOCと知り合ったんですよ。

――KATSUさんはピアノもやられていたんですよね?

DJ KATSU 小学校に入る前ぐらいからやっていましたね。母親がピアノ教室をやっていたので、ほぼ強制的にやらされていたんですよ。イヤイヤやっていたので、反抗期の時にやめてしまったんです。TOCと組むようになってからまた練習し始めたんですが、よ。ブランクがあったので、ほぼゼロの状態からのスタートでしたね。

――Hilcrhymeの音楽は、ピアノがフィーチャーされていますが、このスタイルになった経緯は?

DJ KATSU Hilcrhymeで曲を作るときは、基本的にキーボードでやっているというのと、DJで更にキーボードも弾くというスタイルは割と珍しいと思うんですよ。そこからこのスタイルになりましたね。4月のライブの時にはオケと同期した曲と、ピアノだけで演奏した2パターンあったのですが、もっと面白い使い方が出来るかなと思うんです。デジタルを突き詰めていきたいですね。

――基本的にはトラック(オケ)先行で曲を作っていくのでしょうか。

DJ KATSU だいたいトラック先行ですね。たまにTOCからという曲も数曲ありますね。

――新曲の「パラレル・ワールド」はトラックが先ですか。

DJ KATSU これはいつも通りトラックが先ですね。

――デモの段階でほぼ今の完成形に近かったのでしょうか。

DJ KATSU これはだいぶ変わりましたね。今回はロスに行ってジャスティン・トラグマンというプロデューサーと初めて海外で音を作るというプロジェクトがあって、まず日本で5曲ぐらいラフなデモを作っていったんです。ジャスティンはかなりヒップホップよりのプロデュースチームをやっているので、基本ループ(編注=短いセクションを繰り返す)ものという概念なんですよ。なので、日本の歌謡曲やJ-POPの曲の構成をロスに持って行ったら面白いんじゃないかと思ったんですよね。90年代後半や、2000年代前半が自分の青春時代で、その年代の物が好きなので、それを現代の音にしたらカッコいいんじゃないかなと。ピアノは元からあったものをロスで更にブラッシュアップして、ビートは完全に打ち込み直しました。

――ジャスティンとのコード感の違いから新境地に達したとのことなのですが、コード感の違いとは具体的にはどういったことなのでしょうか。

DJ KATSU 日本的なコード進行は「アメリカの人にはあまり理解できない」みたいなことを行く前に聞かされていたんです。なので、逆に日本的なコード進行で持って行ったわけですよ。そうしたらジャスティンが「こんなにコードがころころ変わったら混乱するじゃないか」と言われて、そこで結構揉めたんです(笑)。

――揉めたんですか。

DJ KATSU その時はもう一人、ギタリストがいて、その人が結構優しくて間を取り持ってくれたんですよ。でも、結局その日は収拾がつかなくて、次の日クールダウンしてやり直そうとなったんです。キーボーディストのイーライという人が「パラレル・ワールド」でも弾いてくれているんですけど、彼がまた優秀で、ジャスティンとのやり取りの中で適切にコードをチョイスしてくれて、日本的なニュアンスも残しつつ、良いバランスに落ち着きました。結局ロスで7曲ぐらい作って、スムーズにいきましたね。

――そのやりとりをされている時はTOCさんも参加されているのですか。

TOC 全くしてないですね。

DJ KATSU 自分だけロスに行って、経過報告だけしてました。

――TOCさんは出来上がったトラックを聴いた時はどう思われました?

TOC もう今までと全然違いましたね。やっぱり外部のトラックメイカーが入っているという印象です。特にビートがもろにUS(アメリカ)という感じでしたね。

――それによってそこに乗るライムやメロディは変わってきますよね。

TOC ライムもそうだし、フロウのデリバリーとか全体的に変わりますね。ただHilcrhyme節は残したかったので、テーマは相変わらずHilcrhymeっぽいものを選びました。でも聴いた感じ「新しいね」と思えるものに仕上がっていると思います。

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