若き天才ピアニスト反田恭平、銘器でリストをどう表現したのか
INTERVIEW

若き天才ピアニスト反田恭平、銘器でリストをどう表現したのか


記者:木村武雄

撮影:

掲載:15年12月15日

読了時間:約18分

クラシックの楽しみ方

若き天才と讃えられる反田恭平

若き天才と讃えられる反田恭平

――ピアノを始めたのは4歳の頃でしたね

 そうですね。でもその頃はピアニストになれるとは思っていなくて、サッカー選手になりたかった! どちらかというと、サッカーに力を入れ、ピアノはほどほど。ピアニストという職業を意識してピアノを始めたのが12歳の時。怪我をしてサッカー選手を諦めたのですが、サッカーは無駄じゃなかった。サッカーで培ったある程度の動体視力や筋力、体幹は鍛えられたので、それらは役立っていますね。音楽でも体幹やある程度の筋力は必要ですし。

 一番役に立ったのは、中学頃、1年間だけ剣道部だったんです。その頃はある程度弾ける様になっていて本番も何回かやっていたのですが、メンタル面を整える「瞑想」をしたくて剣道部に入りました。座禅を組んでみたいな。思った通りに役に立ちましたね。目を閉じて全ての指を使って集中して…凄く神経が敏感になるんです。生きている事全てを勉強に活用にしたいというのがあります。

――指一本一本に神経を行き届かせるイメージトレーニングをされていた?

 どんな時も。今もですが、やっていない時間がないくらい。ただ弾く、というのが自分はあんまり好きではないので。ピアニストが何をしているのかというと、言ってしまえば鍵盤88鍵を前にした指揮者なんですよね。ピアノが楽器の王様と言われている由縁として、下はコントラバスとか上はピッコロとか、色んな楽器の音の域が出せる。指はその奏者でもあり、楽器でもあるんです。

――視線はその時々に指先に向いていくものですか

 基本的には動かないですね。僕の場合は中心を見ていてあとは雰囲気、感覚としか言いようがないですね。あと、どう弾いたら聴衆は喜ぶかというパフォーマンス、それは人一倍考えますね。同じ音量で同じふうに弾いても、モーションの違いで見方としては絶対に違うと思いますし、モーションによる聴衆の心理現象も起きます。それはとても大事だと思うんです。リストはそれが出来た人だったんだと思います。

インタビューに応えた反田恭平

インタビューに応えた反田恭平

――根本的な質問ですが、クラシックの楽しみ方とは?

 やはり演奏会に来て欲しいですね。奏者と聴衆が一体になって拍手をしたり受けたり。でも、それまでが大変なんですよね。コンサートに行くまでの過程が。例えば、「CMで聴いた曲は何だったんだろう」という好奇心を少しでも持っていただけたら是非生で聴いてみていただきたい。そうしてさらに好奇心が湧いたら出来れば少し上級ですが楽譜を買って見てほしいですね。CDを流しながら楽譜を見るとまた違う見方や聴き方もあります。楽譜が読めなくてもいいんです。記号としてとらえるだけでも面白いですよ。

――クラッシックは高貴なものとうイメージがありますが

 ありますね、敷居が高いという感じ。それは何年経っても覆せないと思います。でも、ある程度の次元まで下げる事は可能だと思います。親しみやすくさせる事は。僕がもっと有名になって色んな事を具現化できる人間になればもう少し。僕のほうから聴衆の皆さんに歩み寄っていきます!僕一人でこのクラシックの高貴なイメージを壊す事は出来ませんが、僕にできることはあると思います。難しい事ですね。

――今回のアルバムはそのイメージを崩したと私は考えますが

 探り探りですが、ちょっとずつクラシックのファンを増やしていきたいという思いがありますので、何かインパクトを与えなくてはと。もの凄い爆音で弾いたり、もの凄い小さな音で弾いたり、そういう事を心掛けて、なおかつ作曲家の意図も汲み取って。僕らのちょっと上の世代、25歳~30歳くらいの世代の方々が一番クラシックに取っつきにくいのかなと思います。

 僕の周りだと「お前が?」みたいな感じの奴のスマートフォンの中にクラシックの曲がいっぱい入っていたりします。「お前のお蔭で~」とか言ってくれたりするんですけど、演奏会にも来てくれたり「誰々のコンサート行って来た」という友達が結構いて、この世代はまだ可能性があると思うんですね。僕よりちょっと上の方々が難しいかと。

 でも、更にその上だと子ども娘の為に聴かせたりとかしているので、そうでもなかったり。何か良い印象が残せるプロモーションをして、「こいつの演奏会なら行きたい!」と言ってもらえる様にしたいですね。チケットの値段を下げたり、CDをたくさん出したり、色んな曲を演奏したり、親しみ易く。0歳の子でも会場に入れてあげたり、これまでやってない事もしたいですね。

――クラシックに興味を持ってもらうきっかけとしてこのアルバムは斬新な切り口だったと思います

 嬉しいですね。やろうと思ってやった訳では無く、その状況下、環境下の中でだんだん「こうしたい」というのが増えてきて気付いたらこうなった、というのもあります。まあピアニストにも色んな方が居ますよね。クラシックがあって、その中に僕が居る、という逆転しないくらいが丁度良いのだと思います。

――クラシックは高貴なものという印象が強いのに、リストは女ったらしでも有名だったそうですね。不倫の果てに失恋したことも楽曲にしている。そのギャップがまた面白いですね

 アーティストでもありアクターでもありますからね。その曲を弾く時にその作曲家の心理状況に入らなければいけなくて、ドラマみたいなものですよ。リストがそういう女ったらしの時に書いた曲であれば、僕もそういう風に鍵盤と接しますし。逆に、怒っていたりすればそういう態度を自分が失われない程度に表現する。大事な事だと思います。

――ところで、反田さんにとって転機は

反 ピアノを習うにあたって先生が何人かつく訳なのですが、僕の場合は4、5人。その度に転機が訪れますね。高校三年生の時にコンクールで1位を取ったことが第一の転機でした。学生でありながらプロとして生きていくというのがその日から始まりました。観衆は、日本一というタイトルを持っているピアニストを観に、コンサートに来られる。上手くて当たり前。ちょっと失敗すれば「何だこの程度か」と。上手く弾いたとしても「まあ、当たり前だよな」と。褒められる事が少なくなってしまった世界。心の葛藤はありました。でも幸い、その8~9カ月後にロシアに行くという決断をする時期がきまして。その年にコンクールで賞を取った契機で「ロシアに来ないか」と言ってもらえて。ロシアに行って世界観も変わりましたし、ある程度夢も具体化してきました。留学して少しは大人になったなと思いました。心は小学三年のままですけど(笑)

――ロシアでの経験は音楽にも反映されていますか

 もちろんありますね。音楽はテクニックも大事ですが、内面がより大切だと思っています僕は、内面的な感情表現がある曲の方が実は好きでして。留学してから余計に内面的な曲が好きになって。一個一個の音に集中しなければいけません。まあ自己満足ですよね。演奏家ってエゴの塊ですからね。自分大好きですからね(笑) 自分を好きにならなければ人に音楽は伝えられません。

――最後に、1月にデビューリサイタルがあります。意気込みを

 来年1月23日にサントリーホールにてデビューを記念したリサイタルを開催します。とにかくこのリサイタルは若い人から年配の方までたくさんの人に見に来て欲しいですね。当日は”聴く”だけでなく、お客さんに五感をフルに使わせるよな、楽しめるコンサートを目指してます。気持ち的なところでも、デビューを記念した一生に一度のコンサートということで、「これが反田だ」というようなアピールも込めて精一杯演奏したいと思います。

(終わり)

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