若き天才ピアニスト反田恭平、銘器でリストをどう表現したのか
INTERVIEW

若き天才ピアニスト反田恭平、銘器でリストをどう表現したのか


記者:木村武雄

撮影:

掲載:15年12月15日

読了時間:約18分

反田は超絶技巧でリストの名曲をどのような思いで弾いたのか

反田は超絶技巧でリストの名曲をどのような思いで弾いたのか

 【インタビュー】ピアニストの反田恭平(21)が7月発売のアルバム『リスト』でデビューした。一人の青年と一台の楽器。優れた録音環境の中で響き渡る音は、荒々しくもとても繊細だ。何百年と続くクラシック音楽の歴史に敬意を示しながらも、決して臆することなく自身の心に宿す情熱を、ピアノに“ぶつけた”。

 狂気と至芸、恐れを知らない大胆さと自在さ――。こう称えられる青年の名は反田恭平。彼が奏でる音を一句聴いただけでそれが頷ける。期待された新星は凄まじい演奏技巧をもって、クラシック界の至宝、フランツ・リスト(1811年―1886年)の楽曲を弾いた。

 新ロマン派の流行を作ったリストは、他に一線を画す超絶な演奏技巧を有していた。かの有名な作曲家、フェリックス・メンデルスゾーン(1809年―1847年)の協奏曲を初見で簡単に弾いたそうだ。その才はピアニストだけに留まらず、指揮者や作曲家、評論家としても発揮した。

 一方、今でいうアイドル的な存在でもあった。彼の演奏を聴いた女性ファンの失神者は続出したそうだ。そして、多くの女性とも恋に落ちた。彼はその時々の情景や感情を楽曲にした。恋愛で湧いた感情や旅先で見たものを、古典音楽という概念に縛られずに自由な形式の交響詩をかいていった。

 そのリストの楽曲は死後何百年経った現在も多くのピアニストによって旋律を踏んでいる。音によって当時の情景が浮かびあがる。そして、彼の楽曲は演奏者によって色彩を変える。リストの楽曲をこよなく愛する21歳の青年はデビューアルバムで、世界的ピアニスト、ウラディミール・ホロヴィッツ(1903年―1989年)が愛奏した1912年製のピアノ「ニューヨーク・スタインウェイ」《CD75》をもってリストの楽曲を弾いた。

 このスタインウェイは「カーレース用の特別調整がされたF1マシン」とも称されるほど、優れた音色を放つ。しかし、人を選ぶ名馬の素質を持った暴れ馬の様に扱いは繊細で、弾くのは難しい。鍵盤は驚くほどに軽く、通常の楽器とはあまりにもタッチは異なる。戸惑うピアニストも多いとか。しかし彼はこの名馬、F1マシンを乗りこなす。

 青年はリストの楽曲に身を寄せながら奏でるも、時には反発した。リストとスタインウェイ。この一流の音楽を反田はどのような思いで弾いたのか。来年1月23日に、サントリーホールでデビューを記念したリサイタルも控える。ロシア留学中の反田が日本公演のために帰国していた初秋の頃、話を聞いた。(取材・木村陽仁)

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