若き天才ピアニスト反田恭平、銘器でリストをどう表現したのか
INTERVIEW

若き天才ピアニスト反田恭平、銘器でリストをどう表現したのか


記者:木村武雄

撮影:

掲載:15年12月15日

読了時間:約18分

アイドルの起源はリスト?

「ニューヨーク・スタインウェイ」《CD75》の魅力を解説する反田恭平

「ニューヨーク・スタインウェイ」《CD75》の魅力を解説する反田恭平

――今回の作品では、偉大な音楽家であるフランツ・リストの楽曲を演奏されています。リストを選んだ理由は何でしょうか

 僕は幼少期、あまり真剣にピアノを練習していなくて。ただ、中学生の頃になると手も発達してきて、鍵盤も届く範囲が広がり、先生にも「好きな曲を持ってきなさい」と言われてリストの楽曲を演奏しようと思いました。リストは、作曲家であり、音楽家であり、ピアニストであり、色んな事を可能にした人間で、彼がピアニストというジャンルを確立させたと言っても過言ではないと思います。彼は作曲家兼ピアニストという存在だったので「どうやったら、どういう曲を書けば聴衆は喜ぶか」という事を考えていたと思うんです。彼の手は達者に回っていたらしいですし、残念ながら今では絵でしかホールの情景はうかがえませんが、女性ファンからステージに薔薇を投げ入れられたり、アイドルの様な存在でした。

 僕は常々、どうしたら聴衆が喜んでくれるのかと前々から思っていたので、リストに最初にチャレンジしました。そうしたこともあるのか、リストの曲は凄く身体にフィットするんです。「どう弾いたら良いのか」という気持ちはリストの楽曲に敏感に反応していたので気付いたらリストの楽曲は一番レパートリーが多くなっていて。CDは、やはり馴染み深い作曲家でもあるし、好きな曲も多い、クラシック音楽をあまり聴かない方々も知っている楽曲という事を踏まえて「リストの中でも自分の好きな曲」というのを選んでいきました。CDとはいえ、一つのコンサートとして聴いてもらいたかったので、そうした順番を考えた作品にしました。

――リストは、その時に感じたものや情景を楽曲で表現しています。新ロマン派の中心人物で、音楽を軸とした総合芸術(文化と音楽の相互関係)を高めていました

 例えば、曲の題名が特に分かりやすいのですが、トラック8「水の上を歩くパラオの聖フランチェスコ」のようにタイトルに「水」という自然が入っています。こちらとしても聴く側としてもイメージしやすいんです。リスト以降、もっと印象派に入っていくのですが、リストはその先駆者と言っても過言ではないですよね。情景を表す「森のささやき」とか、そういうタイトルは上手いアピールの仕方だと思います。

――トラック6と7の「超絶技巧練習曲」について教えてください

 「超絶技巧練習曲」というのは、指を動かす練習なんでしょうけど、リストは、ただの指の練習のための曲を作りたかった訳ではなく、第一番から第十二番までを一つの音楽として捉えていたと思うんです。何調から始まって何調で次の曲が始まるとか、そういうのも色々考えて…やっぱり凄いですね、リストは。「スペイン狂詩曲」(トラック3)や「タランテラ」(トラック5)にしてもそうですが、毒蜘蛛に噛まれた人の踊り、というものもありますからね。タイトルを付けるのも天才だと思います。

来年1月にサントリーホールでデビューリサイタルを行う反田恭平

来年1月にサントリーホールでデビューリサイタルを行う反田恭平

――リストが楽曲にした当時の情景や心情。それを何百年経った現代、どのように演奏して表現するのかが面白い点でもあります

 我々は作曲者が書いたもの(楽譜)を見て読み取って想像するものであって、それを一人ずつ感性でどう弾くかは会場に来てみないと分かりません。やっぱり素晴らしい分野だと僕は思います。

――今回はそれをどの様なイメージで弾かれたのでしょうか。《CD75》はタッチが軽いとの事ですが、その分自分の意志が伝わりやすいという点はありますか

 そうですね。軽いと弾き易いですし、指の小回りもききやすいですね。

――ピアノとご自身が一体となったベストの状態であの楽曲たちをどのように表現されたのでしょうか

 やはり「何を伝えたいか」というのが大事ですね。例えば、記者さんは文を書かれている訳ですよね。文を読んで何も感じなかった、となったらつまらない、没になる訳です。我々も一緒で、楽譜から読み取って「何を伝えたいか」それを一個ずつアナリーゼ(分析)して、作曲家の意図も汲みとりつつ、僕の「こうやりたい、こう弾きたい」というリストへの反感というか「俺はこうやりたいんだ!」というのも踏まえて弾きました。

――リストは女性からモテて、いろんな女性と恋に落ちました。その時の心情も楽曲にされているわけです

 そうですね!(笑) テレビで観たんですけど、今はAKB48などアイドルグループのCDを買うと握手券が付いてくるというような特典があります。リストの場合はコンサートに来たファンに「僕の汗をあげる」という事を言っていたそうです。そういう特典的な売り出し方を最初にやったのはリストらしいんですよ。試験管のような入れ物に自分の汗を取ってコルクで絞めて…ファンはそれを大事に保管していた。そのようなくらい人気者だったらしいです!

 他の音楽家もそうだと思いますが、「何か」の出来事があって成長するのだと思います。自分自身の喜怒哀楽という感情と向き合って音楽に繋がる、リストもそういう事だったのではないかと思うんですね。女性に深く恋をしたり、失恋したらそういう曲を書いたり。リストに限らず色んな作曲家がそうだったと思います。1800年代に書かれた曲のその年表を見ていると「あ、ここで失恋したんだ」とか、肉親が亡くなったりとかそういう心情や感情を曲に変えていたりするので。

 その気持ちは(現実としての体験でないので)なかなか味わえない。でも、そういう時は小説やロシア文学を読んだり、なるべく近くより添えるようにしたいと思っています。もっと色んな視野を広めてもっといろんなジャンルへの見識を広めていかないといけないなと思います。勉強しなきゃ…。

――リストは魅せる事が出来た方でもあり、自己プロデュースが出来た方なんですね

 そうですね。リストに関しては確かに。あと演奏は「今こう弾いた」というのはその時点で既に過去の出来事になっているんです。そうやって過去を考える訳ですよ。弾いているときに「練習とは違った」と思っても、戻れませんからね。「こう弾いたならばこう弾かなければ」という事を常に考えなければいけない。常に「過去と現在と未来」を把握していないと弾けないんですよ。

――もはや哲学ですね

反田恭平 いいですね。ちょっと哲学キャラも作っていってみようかと(笑)

――時系列で物事を考えていると?

反田恭平 音楽に関してはそうですね。同じ演奏は2度と無いですし。

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