悪性のエンターテイメント

Fly or Die

Fly or Die

 そんな頭を撃たれたような感覚のまま、5曲目の「あいしてみやがれ」へ突入。曲中の「愛させてください」と合掌する振り付けをフロア全員で確認してから始まった。ローズたちのパフォーマンスを先導するのは、ステージ上で振付を担当するパフォーマーのキャンタマコ。メンバーにこそクレジットされていないが、キレキレのパフォーマンスでローズたちを先導、扇動していく。FODのライヴに一体感もたらす重要なピースの1つは彼女であることは間違いない。

 また、軽妙なMCを挟んでから「ヴァージンマリー」へ。どことなく懐かしいロックチューン。間奏のギターソロも冴え渡る。各メンバーの高いスキルはライヴ全編を通してところどころで見られるが、嫌味は全くないから不思議だ。エンディングはビートが2倍に早なるアレンジで曲中のピークを迎える。

 続いてSMAPの「世界にひとつだけの花」のカヴァーが始まったかと思いきや、「調子にのるんじゃないよ」と中断。「頭ふれんのか? 本気を出せ。じゃなかったら君たちは世界中どこにでもある花だ」とファンを叱ってから、本編最後の「世界中にある花」へ。フロアからはもう笑いが止まらない。

 パンクっぽい雰囲気で演奏が始まった。まったく引き出しが多いバンドだ。サビでは「世界にひとつだけの花」と同じメロディが現れるがただの替え歌でなく、違うコード進行の上にそのメロディが乗っていてニクい。これは大変知的な変奏行為である意味ではジャズだとも言えるのだが、鼻につかないのは笑いが先行するからなのだろう。ただただエンターテイメントである。それも悪性の。

許されるユーモアな様式美

清竜人25Fly or Die

清竜人25Fly or Die

 曲間のブレイクとともに早口なダーさまの煽りでどっと大盛り上がってから、そのままギターソロが炸裂。その後サビに帰還してから曲が収束していった。

 熱気を残したままメンバーが去る。大きな拍手と「ダーさま」コールが響く。まだまだ満足しない手拍子とともにアンコールとアルコール、スパンコールなどと色々な掛け声が混ざっている。こんなユーモアな様式美が許される空間は珍しい。

 照明がつくと歓声が湧いた。黒いバンドTシャツに着替えたメンバーが再登場する。「諸君たちは人であるか?」とまたダークネスの楽しいMC。その後のひとつひとつの演出(物販の宣伝に至るまで)もヴィジュアル系の文脈を引用しながら崩してあるのだが、どれもとても良くできている。

 新曲をやると予告し、少しシリアスに「ダークスター誕生」とつぶやいた後に始まったのは軽快なモータウン風のドラムがイントロ。また笑いを誘う。マイナー調の曲を想起させるタイトルに爽やかな曲調、というミスマッチを笑いに転化するところも計算済だろう。

 ミディアムなテンポでけだるく歌うAメロ、サビは食い込んだリズムでコードチェンジが連続していくのが気持ち良い。ニコニコ笑うキャンタマコに誘われアウトロでクラップするオーディエンス。柵に上って叫ぶダークネス。皆でジャンプしてエンディングに着地した。

 「この悪性のエンターテイメント仕上げるぞ」とMCして、本日最後のメニューはディスコ調ポップな「矛と盾」。イントロのご機嫌なギターに誰もが左右に手を振る。緩いテンポにシンプルでキャッチーなサビのメロディ。そのまま「踊れるかー?」というダークネスの声とともに、テンポを上げたスカのリズムでサビがリフレインされる。

恐るべしFly or Die

 更にどんどんテンポが速くなっていきバンドは遂にノイズにまで到達する。シャウトを辞めないダークネス。さらに遅め重めな8ビートに演奏が変化しても終わらないリフレイン。歪んだギターが叫び声を上げる。ローズたちが皆両手を上げているので視界が無くなってしまった。彼らの満足度が高そうな様子が伝わってくる。それでもなお、ローズたちを煽り続けるダークネス。

 エンディングを迎えた。その轟音をミュートせず鳴らしたまま楽器をステージに置いてメンバーは退場。フロアからは大きな拍手が起きた。

 この夜は良質なイベントであったことは間違いない。特にFODの批評的、分析的な音楽がV系の様式美と笑いでエンターテイメントに仕上げられていたに驚かされてしまった。

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