INTERVIEW

柳楽優弥

器のでかい男になりたい。
『HOKUSAI』北斎の青年期役


記者:鴇田 崇

写真:鴇田 崇

掲載:21年06月15日

読了時間:約7分

 俳優・柳楽優弥が今なお愛され続ける世界的アーティスト、葛飾北斎その人を演じる映画『HOKUSAI』が公開中だ。19世紀にヨーロッパでジャポニズムブームを巻き起こした北斎は、ゴッホ、モネ、ドガなど数々のアーティストに影響を与え、西洋近代絵画の源流となった世界でもっとも有名な日本人だ。その知られざる青年期を柳楽が、老年期の北斎を田中泯が演じ分け、壮大なスケールで偉大な絵師の生涯を描く。

 柳楽自身は日頃、茶道や下駄での生活など日本文化に触れているが、北斎の描く浮世絵については初めて本格的に接したという。しかし、そのおかげで北斎のアーティストとしての側面の理解も深まった。北斎の人生を「右肩上がりのサクセスストーリー」だと語りつつ、「世界的に有名な絵師となるまで、さまざまな葛藤もあったと思うのですが、何があっても諦めず、自分自身の信念を貫き通して突き進んでいったということがうらやましくもあり、素晴らしいことだと思いでます」と北斎像について語った。【取材・撮影=鴇田崇】

(C)2020 HOKUSAI MOVIE

天才アーティストの葛藤

――老年期の葛飾北斎は田中泯さんが演じられているわけですが、改めて映画を観た感想はいかがですか?

 泯さんが演じられた北斎はとても説得力があって、「まさにこれが北斎だ!」と思うほどでした。北斎は本当にああいう人だったのかもしれないという感じがしましたし、老年期のシーンではとても印象に残っているシーンが多数あり、特に、絵の具をかけるシーンは、とてもかっこよかったです。泯さんが演じられた葛飾北斎の青年期を演じさせていただくことができてよかったなと思っています。

――二人の人間が一人の人物を演じているわけですが、その連続性が自然だったことも印象深かったです。

 青年期と青老年期がここまでしっかりと描かれている作品は他にあまりないと思うので、今回の映画の魅力だと思いました。つながりに関してはあまり意識しなくていいと監督から言っていただいたので、撮影中は、意識しすぎせず、ただ泯さんが演じられていたときの仕草などを少し真似してみたりもしました。そういうところで繋がっているように見えるのではないかとっています。

――印象に残っているシーンはありますか?

 海のシーンです。天才アーティストと呼ばれる人たちは、作品を制作していく過程の中で、自分自身への追い込み方の次元が違うのだろうとというイメージがあります。あれだけ世界的に有名な絵を描く人なので本人の中で相当な葛藤があった上での境地なのか、人生を諦めるぐらいのことがあったのだろうと、監督とも話し合いました。北斎にとっては相当大きい出来事だったのではないかと思うんです。

――と言いますと?

 監督とどういう気持ちであったのか、ということについて共有していたことは、自分に絶望してしまっているというか、アーティストは自己肯定できないことが続くと辛いのかなということです。作品が批判されることで自己批判も始まるので、それがアーティストの難しいところじゃないか、それをより海のシーンで感じるのではないかという話をしました。でもそれでも北斎はやり抜くわけです。そういう境地だからこそ見つかるものがあるのではないかという話もしましたね。

柳楽優弥

ずっと続けることが出来たことに羨ましさも

――そのやり抜くというアーティストのスタンスにつて、同じ表現者として北斎のことをどう見ましたか?

 青年期から老年期までずっと同じことを続けていくことができたということはうらやましく思います。今はコロナ禍で、仕事の予定が延期になることもあり、困難な状況が続いているので、そういった意味では、現代にも共通することもあるのではないかと思います。時代は違えど、そういう困難な中でも諦めずに辛抱強くやっていて、それだけをやり続けるというのはすごいモチベーションですよね。そして、晩年には、世界的に有名なアーティストへと登り詰めていく。右肩上がりのサクセスストーリーだなと思いますし、そこにたどり着くまでにはものすごい葛藤もあったと思うのですが、一番は絵を描くことをずっと続けることができたということがうらやましいです。

――北斎を演じることで自分自身にプラスの効果も感じましたか?

 田中泯さんをはじめ、阿部寛さんや玉木宏さんなど、これだけの豪華キャストのみなさんと撮影させていただくことができたことは勉強になりました。最初から最後までひとつの役を通して作品に向き合っていくことの難しさを感じましたし、今回、ご出演いただいたキャストのみなさんは、主役を演じられる方たちばかりなので、現場での様子などを、こっそり見て勉強させて頂きました。

――普段、茶道をされたり下駄を履かれたり日本文化に触れているそうですが、浮世絵については今まで興味を抱かれたりは?

 美術館でたまに見たりするくらいでした。クライマックスで僕と泯さんが二人で絵を描くシーンがあるのですが、その絵は芸大生のみなさんに描いていただいたたものです。パワーを感じましたし、圧倒されました。今回の北斎を通して絵の良さにだんだんと気づいていく感じはありました。バンクシーのニュースとかもチェックしています(笑)。

――絵のどこが面白いですか?

 家に飾っていると明るくなりますし、いいものを観ていると目が肥えてくるといいますか、そういう効果もあるのではかと思っています。版画の先生が描いてくださった茅ヶ崎の波の絵に北斎・柳楽優弥と名前を入れてくださったので、家に飾って、毎日見ています。

柳楽優弥

成り上がる男が好き、音楽の接点

――いいものに触れるという意味で、音楽が生活の中にあったりしますか?

 僕はヒップホップが大好きなのですが、サカナクションなどのJ-POPや、昔の曲も含めて、好きなものを色々と聴いています。

――ヒップホップはどこに魅力を感じていますか?

 僕は“成り上がる男”がけっこう好きなんです。夢があるという意味でも北斎と似ていてる部分があるなと思います。北斎は、ヒップホップアーティストのようなところがあるというか、右肩上がりに成功していく、そういう人が好きなんですよね。

――北斎が何のために絵を描くかと問われたように、柳楽さん自身も何のために俳優をしているか考えることはありますか?

 僕は名言集が好きで、矢沢永吉さん、イチロー選手、坂本龍一さん、北野武さんなどの名言を読んでいます。仕事に対し、子どもの頃のように楽しい感覚を思い出したいのですが、実際には大変なことのほうが多いわけです。たとえばイチローさんはそのことを肯定されていて、「プロの世界は楽しいだけなわけがない。失敗もつきものだ」という名言を残されていて、なるほどと思いました。僕は10代でいろいろな映画祭に出て賞をいただいたこともあり、ずっとそれを超えたいという気持ちが高強かった。一つ一つの作品で自分が成長していたかどうかよりも、自分の過去から抜け出したいために頑張っているところもあります。

――俳優は芸事が必要とされる仕事ですが、今マスターしたいものはありますか?

 ピアノですね。先日『浅草キッド』の撮影でタップダンスの練習を約6カ月間、撮影込みで練習していたので、タップの次はピアノだろうと思い立って今練習しています。ピアノが仕事に繋がるかもしれないということは大前提としてあるのですが、子どもの時に習う良さだけではなく意外と大人になって習うことのほうが、効率がいいんですよ。仕事に生かされる可能性があるからという思いがどこかにあるからなのかもしれないのですが、やらされているわけではないということなんですよね。そういう意味では、習得が少し早いような気もします。小学生って学校に行った後に習いごとをしているので、けっこうストイックだなあと思います。それに比べれば(笑)。

――北斎のように自分らしさを突き通すことは、どの時代でも難しいと思うのですが、ご自身ではそのテーマについて考えることもありますか?

 僕らしさは、今はよくわからないですね。ただ、いろいろなことをやらせていただいているので、いずれ40代に入った時に自分にもっといろいろな技があればいいなと思います。護身術を10年ぐらいやっていて、次の審査に受かると黒帯になるんです。

 あとは自分を鍛えたいですね。精神的にも成熟したい。いつでもかっこいい大人を見ていたいんですよね。そういう目標となる人を見ていると、自分も頑張ろうと思えるんです。北斎は、自分を貫いているのでみんなに勇気を与えられる存在なんじゃないかと思います。

 中学校時代から頼りがいのある人が好きなんです。そういう人になりたいという思いからかもしれません。器のでかい男になりたい。40代、50代で“かっこいい”と思える大人になるために、今習いごとをやっている感じ(笑)、今は習得する時期なのかなと思っています。

(おわり)

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鴇田 崇

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