INTERVIEW

瀧本美織

自分に素直に正直に。
『HOKUSAI』北斎の妻・コト役


記者:鴇田 崇

写真:鴇田 崇

掲載:21年06月15日

読了時間:約6分

 柳楽優弥と田中泯が今なお愛され続ける世界的アーティスト、葛飾北斎を演じる映画『HOKUSAI』が公開中だ。19世紀にヨーロッパでジャポニズムブームを巻き起こした北斎は、ゴッホ、モネ、ドガなど数々のアーティストに影響を与え、西洋近代絵画の源流となった世界でもっとも有名な日本人だ。その知られざる青年期を柳楽が、老年期の北斎を田中が演じ分け、壮大なスケールで偉大な絵師の生涯を描く。

 その注目作で、女優の瀧本美織が北斎の妻・コトを好演している。コトは夫である北斎を支え献身的な妻である一方で、繊細な北斎を気遣い、「この人はわたしが守ってあげなくちゃいけないんだという気持ちに自然とさせられました。ふたりのシーンでは、少し男女が逆転するように感じるシーンもありました」と、強い一面も持ち合わしていると瀧本は受け止めている。本人に話を聞いた。【取材・撮影=鴇田崇】

(C)2020 HOKUSAI MOVIE

ガラスのような繊細さ

――妻コトは夫である葛飾北斎を支える女性でしたが、演じてみていかがでしたか?

 わたしも世話好きなほうだと思うので、小さい子もすごく好きですし、どちらかと言うと母性を感じたり、コトの要素は持っているほうかもしれないですね。なのでコトには共感しやすかったので、撮影も入りやすかったです。

――この夫婦を見ていると、どちらかが欠けてもあの作品たちは生まれなかったような気がして、そういう関係性も感じました。

 普段北斎が仕事をしている時はそっと下から支え、夫婦の時間ではコトのほうがリードしていたかもしれませんね。実際、柳楽さんが演じている北斎は普段は荒々しかったり、絵を描いている時は顔がすごく真剣で、とてもじゃないけれど入っていけるような空気感ではないのですが、夫婦だけのシーンでは、押したら壊れてしまいそうなガラスのような繊細さを感じて。この人はわたしが守ってあげなくちゃいけないんだという気持ちに自然とさせられました。ふたりのシーンでは、少し男女が逆転するように感じるシーンもありましたね。

いまだに不思議

――自身のやりたいことを追求する北斎の姿は、芸能の仕事をしている人にも通じるものがあると思いますが、そういう意味でこの作品に関わって思うことはありますか?

 北斎のように仕事をしている人は、もしかしたら少ないのかもしれません。わたし自身はどちらかというと、自分のやりたいことをしながら進んできたというよりは、人に勧めていただいたことをきっかけに、このお仕事と出会い自然と突き動かされてきたところはあると思うんです。なのでこの映画の北斎の姿を観て、自分の人生を賭けて、これをやらなければ死ねないほど打ち込めるものがある、自分で見つけることができることは、素晴らしいことだと思いました。わたし自身もそうありたいなと思ったので、観ている人にも刺激を感じてもらえるのではないかと思います。

――「そうありたい」と思われたということは、今は意識が変わったのですか?

 大きく変わったということではなくて、ひとつひとついただいたお仕事を一生懸命やり、でもそこで楽しさをいつも見出してきたので、改めて思うことはあります。わたしは人が好きですし、この仕事が好きだなと感じるので、環境にも人にも感謝しています。自分がこの仕事をしていることがいまだに不思議ではあるのですが、人に喜んでもらうことに自分も喜びを感じるので、何か自分が表現したことによって人生が良い方向に変わったり、少しでも良い影響を与えられたらうれしいなと思いますし、とても意義を見出しています。

瀧本美織

わたしらしさ

――時代の流れとして多様化も求められていますが、そういう中で北斎のように自分らしさみたいなものはどう表現していきますか?

 わたし自身、人に合わせることは苦じゃなく、割と周りの影響も受けて入れていくタイプなのですが、誰に対しても変わらない自分でいられることがわたしらしさなのかなと、今ちょっと思いました(笑)。人によって自分を変えるのではなくて、いつもフラットな自分で人の言うことも柔軟に受け止められるし、自分の中でわからないと思ったことでも消化しようと努力しますし、それはいつも変わらない自分でいられているからなのかなと思っています。

――今感じている課題はありますか?

 なので、もっと意見を言ったり、反発していいのでは?とは言われます(笑)。自分ではそういうつもりはないのですが、自分自身をもっと発信して表現していきたいですね(笑)。

 映画・ドラマ・舞台と、いろいろなことに挑戦させてもらっていますが、逆に表現することという意味では歌やダンスもわたしの中では全部同じものなんです。表現という意味では同じもので変わらないですね。

音楽活動は今に繋がっている

――ファンとしては音楽活動もまた見たいところではあります。

 そうですね。また歌いたいですね。歌やダンスで表現することが芸能活動としては最初だったので、わたしの中では今しているお仕事まで、全部つながっているんです。わたしの中では別々のものではなくて、歌をやることによってお芝居にもいかされましたし、お芝居をやることによって、その表現力も出せるようになったと思います。どちらにもいきていると思います。

――音楽は、日常的な存在だったりしますか?

 朝起きてからずっと聞いていますね。移動中もテンションを上げてくれるものですし、音楽は大好きです。いろいろなジャンルを聴いています、最近はジブリのクラシック、ジャズバージョンにはまっていて、それをメイク中も聴いていたりするのですが、ジャジーな雰囲気なんです。かわいい歌もジャズチックになっていて、大人な感じでゆったりと聞けます。テンションを上げたい時はB'zさんなどを聴いています。

瀧本美織

反応がモチベーション

――仕事に対する今のモチベーションは何でしょうか?

 観てくださる方の反応ですね。たとえばいろいろと人生に悩んでいたけれども、わたしが出ている作品を観て、こう思いました、夢をあきらめないでいってみようと思いました、など、誰かの背中を押すことができたり、その人の人生に少し良い影響を自分が与えられてた時、やっていてよかったなと思います。

――それは仕事を始めた当初から思っていたことですか?

 そうですね。元々中学生ぐらいから人のために役に立つ仕事をしたいと漠然と思っていたので、とにかく人に喜んでもらうことが好きなんだということは、ずっと思っていたことなんです。それが少しでも今できているということは自分自身の励みにもなりますし、この仕事をやっていてよかったなと思います。

――それもらしさですよね。

 そうだといいですね(笑)。わたしは何でも楽しめる性格ではあるので、新しいことも好きです。今後は人がやったことがないことにもチャレンジしたいと思います。

長時間ライブをしたい

――具体的に何かありますか?

 ファンの皆さんを集めて長時間ライブをしてみたいですね。音楽だけじゃなく、いろいろと織り交ぜたイベントをいつかやってみたいです。ライブ活動の経験はあるのですが、12時間くらいやれたら面白いなと思います。

――長いですね(笑)

 長時間やることに興味があるんですよね(笑)。それだけ、その先に何かがあるような気がするというか、限界なんてないと思いたいというか、何かを超えたい願望があるんです(笑)。

――最後になりますが、映画を待っているみなさんにメッセージをお願いします。

 自分の信念を生涯、ここまで貫き通す北斎の姿に、きっと感じていただくことがたくさんあると思います。みなさんもぜひ自分の人生と重ねながら、自分に素直に正直に生きてみてほしいなと思いますし、わたしもそうしたいです。年齢によっても感想が違うだろうなと思うので、いろいろと聞いてみたいなと思います。

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