『MOTHER マザー』で鮮烈デビューを果たし、日本アカデミー賞など4冠を達成した奥平大兼が、ドラマ『ネメシス』『レンアイ漫画家』に立て続けに出演する。デビュー2作目でドラマ初出演となった『恋する母たち』では引きこもる青年を演じたが、今回の2作ともにこれまでとは全く異なる役柄だ。4冠を達成し顔つきも凛々しくなってきたが、あくまでも「恵まれています」と謙虚さは変わらず。奥平はどのように演じるのか。【取材=木村武雄】
アカデミー賞「また戻ってきたい」
映画『MOTHER マザー』で新人賞を受賞した奥平大兼は『第44回日本アカデミー賞』のスピーチで「また戻って来られるように頑張りたい」と誓った。
「素直に出てきた気持ちです。作品以外の方々とお会いして刺激を受けましたし、ああいう場に行けたことが嬉しくて。もちろん賞を頂くために仕事をしているわけではないですが、また戻ってきたいという思いでした」
岡田健史、永瀬廉、服部樹咲、蒔田彩珠、森七菜と共に受賞した。
「始まる前まで実感がなかったんですけど、松坂桃李さんの言葉を聞き『本当に受賞できたんだ』という思いが湧いてきました。レッドカーペットは岡田さんと永瀬さんと歩きましたが、裏では他愛もない話をしていたんですよ(笑)。多少は緊張していたんですけど、ガチガチというわけではなくて。でも俳優という仕事は面白いなと思いました」
奥平の受賞スピーチを、『MOTHER マザー』で母親役を演じた長澤まさみは微笑むように聞いているようだった。奥平も「一緒にこの場にいられることが嬉しい」と話していた。その長澤は同作で最優秀主演女優賞を受賞した。
「同じ場にいること自体が嬉しいのに、長澤さんが受賞されて本当に自分のことのように嬉しくて。僕にとってはこの作品はホームの様なもので、勝手に長澤さんをこの業界のお母さんだと思っています。この業界のことや演技のことを教えてもらった生みの親みたいな」
その『MOTHER マザー』は、芝居の楽しさを実感した大切な作品だ。
「本当にいろんな事に気づくことができました。僕の中では大きな作品です」
ドラマを学んだ『恋する母たち』
デビュー2作目は、TBSドラマ『恋する母たち』。奥平にとってはドラマ初出演作となった。
「最初はペースを掴むことができなくて。でも、ドラマの撮り方やペース、監督とのコミュニケーションなど学ばせて頂き、良い体験になりました。もちろん、オンエアを見て反省するところはありますが、大失敗はなかったと思います(笑)」
このドラマでは、木村佳乃・吉田羊・仲里依紗が演じる3人の母の息子を、宮世琉弥、藤原大祐とともに演じた。奥平は林優子(吉田羊)の息子・大介役。成績優秀だが長らく引きこもり生活を送る、ある秘密を抱えた役どころだった。「僕との共通点は全くないです」と語っていたが、見事に演じ切った。
その奥平が次に、地上波連続ドラマに挑んでいるのが、日本テレビドラマ『ネメシス』とフジテレビ系ドラマ『レンアイ漫画家』だ。どれもこれまで演じてきたものと異なる役どころだ。
「今回のドラマも僕の性格とは違いますし、これまで演じてきたものとも正反対なので、もう正反対という言葉の意味すら分からなくなってきますね」と笑う。
ネメシス
『ネメシス』は、広瀬すず演じる天才助手・美神アンナと、櫻井翔演じるポンコツ探偵・風真尚希の凸凹バディが、探偵事務所ネメシスに舞い込む難事件を次々と解決していくミステリー。奥平は、天才A開発者・姫川蒸位を演じる。
姫川は、15歳にして“世界を変える50人”に選出された天才高校生で、頭が良くてナルシスト。事件の現場となる学院の生徒たちも美しい姫川にためいきをつくようなキャラクターだ。
「セリフ量が多くて、それを早口で言うのが大変でした。最終的には形になったと思いますが、何回もミスをして」と頭をかく。
この現場もまた多くの学びがあった。広瀬すずや櫻井翔をはじめ多くのキャストが同じ場所で一堂に会する撮影だ。
「大人数のなかで芝居することがこれまでありませんでしたので貴重な体験になりました。先輩に囲まれて芝居をするので、初めは緊張で弱気になるところもありましたが、弱気では務まらない役なので、途中から気持ちを切り替えて臨みました。皆さん優しいのでミスしても『大丈夫』と言って下さって、気持ちを楽にして出来ました」
レンアイ漫画家
そして、『レンアイ漫画家』。鈴木亮平演じる漫画一筋で恋愛が超苦手な少女漫画家・刈部清一郎と、吉岡里帆演じるダメ男ホイホイと呼ばれる崖っぷち女子・久遠あいこの不器用な2人が繰り広げるコミック・ラブストーリー。奥平は、あいこの初恋相手、刈部純(白石隼也)の若い頃を演じる。
学生時代の純は、クラスの人気者でいつも人の中心にいて、周囲を自然と明るくするようなキャラクター。清一郎と正反対の性格だが一番の理解者でもある。そして、超が付くほどの女好きで、どこか憎むことのできない愛されキャラだ。
「これまで演じてきた役は、自分に自信がなくて前に出るような人物ではありませんでした。僕自身も初対面の人と話すのは得意ではなくて。でも純はそうではないので、現場に入る前から初対面の方と積極的にお話するようにしました」
しかし、この若い頃の純の女性関係が、物語の展開を大きく揺るがす。なかでも第7話では、純の衝撃の過去が明らかになる。純にとっても、物語の展開にとっても重要な回といえる。果たしてどのような過去が明らかになるのか。
事前準備
『ネメシス』の姫川も、『レンアイ漫画家』の純もタイプは異なるが「気が強いところが共通点だと思います」と分析する奥平だが、どれも自分自身にはない性格で、それをどう役に落とし込んだのか。
『恋する母たち』も「共通点がない」と話していたが、その共通点がないものを探り、手繰り寄せるなかで、監督にすぐに答えを求めることはせず、まずは自身自身で考えることを大事にしている。今回も同様に「事前準備」をしっかり行った。
その上で役になれた瞬間、いわば手応えを感じる瞬間というものがあるという。それはクランクインしたとき。
「衣装合わせでその役の服装や監督のイメージを知ることができますので大まかなイメージはできますが、確信までは持てなくて。実際にクランクインして演技をしたときに、想像と違うことが結構あります。自分なりに色々と考えて現場に行きますが、実際に演じてみないと分からないので、現場に立った時に役に入れたという感じはあります」
変わらないもの「自分を忘れたくない」
『MOTHER マザー』での鮮烈デビュー以降、話題作への出演が続く。同作で、アカデミー賞など新人賞4冠を達成した。どこか顔つきが変わったようにも感じるが、何か変わったかと聞けば「前より老けたと思います」と笑って返す。気を取り直してこう語る。
「17歳でこれだけの経験や大人に囲まれて仕事をする機会はなかなかないと思いますので、少しずつ大人な考えになっているのかなと思うことはあります。だからと言って周りの人と違う特殊な人間になりたいとは思わないですし、周りよりも秀でたいとも思わないです」
受賞歴や出演作品、実力をみれば、スターダムの階段を着実に上がっている。本人は気づいていなくても自然と顔つきに表れている。その一方で変わっていない所もある。それは飾らないピュアさと謙虚さだ。
「僕は恵まれていると思いますし、楽しいからやれています。この先も『自分』というのを忘れたくないです」
まだ17歳。その未来は明るい。
(おわり)