INTERVIEW

松本穂香

「根っこのようにあり続けるもの」、今の「私」につながる青春時代


記者:鴇田 崇

写真:

掲載:20年08月06日

読了時間:約6分

 主演作が途切れず、今の日本映画界に確かな存在感で光輝く実力派女優の松本穂香が、昨年の注目作『おいしい家族』(19)に続いてふくだももこ監督とタッグを組み、それとはまた味わいが異なる『君が世界のはじまり』という青春映画の新たなマスターピースをスクリーンに届ける。ふくだももこ監督の原点とも称せる2本の短編小説「えん」「ブルーハーツを聴いた夜、君とキスしてさようなら」を再構築した本作は、大阪のとある街を舞台に退屈な時間を過ごす高校生たちの青春の日々を、殺人事件というセンセーショナルな出来事で変化していく様を独特の緊張感で描いていく。

 主演を務めた松本は、“えん”という複雑な想いを抱く女子高生を静かに演じ、誰もが甘くほろ苦く思い出す過ぎ去りし日の青春を、キャラクターとして見事に表現している。「お芝居は、その人が出てしまうところもあり、素敵なお芝居をされる方はご本人が素敵だったりするんですよね。経験を増やしていくことでしか俳優は成長できないのかなと思うので、いろいろと挑戦したいなと思っています」と語った松本は、最近では事務所のYouTubeやナレーター、声優など、活躍のフィールドが多岐に渡っているが、人気女優はいま何を感じ、仕事に向き合っているのか。話を聞いた【取材・撮影=鴇田崇】

すべてをひっくるめて、青春

――主人公を軸にはしていますが、登場人物全員の人生ドラマがバランスよく描かれていて、非常に見応え十分の映画だと思いました。完成した映画を観て、率直にいかがでしたか?

 ふくだももこ監督の原作、2作が元になっていて、まずそれが面白いと思いました。軸が2個あって、それが最後交わっていく構成がすごく面白いですよね。そしてひとりひとりのドラマが濃く描かれていて、主人公の彼女がメインだから深堀りするのではなくて、個々のエピソードがしっかり描かれているので、読んでいてすごく面白かったですね。完成した映画を観て、それはもっと強く感じました。脚本の時以上に、見応えのある作品になっていたので、それは面白いなと思いました。

――松本さんご自身は今回のこの映画を通して、何を一番に感じましたか?

 この映画の舞台が学生時代、高校時代なのですが、撮影している最中は自分の学生時代などを思い出したりしていました。あの時期は本当に一瞬に過ぎ去ってしまいますが、自分の中でずっと根っこのようにあり続けるものなので、誰の心にもある時間なのかなって思いました。

――個人的には作風につられて10代の頃の、ぼんやりしたネガティブな記憶もよみがえりましたが、松本さんはどういうことを思い出しましたか?

 わたしの場合、お芝居で学生服を着る機会がいまだに何回かあるので、わたしの中ではつい最近のことのような記憶なんです(笑)。当時はネガティブに捉えていたことでも、実際はそれほどネガティブではなかったといいますか、そういう経験があったからこそ今の自分がある。結果的に今につながっていることがあると思うので、悪い思い出がないわけではないのですが、悪いものとしては残っていない。そういうことすべてをひっくるめて、青春だったのかなと思っています。

2回目だからこその距離感

――ふくだももこ監督とは2回目のお仕事になりますよね。前回ではなかったような共同作業の要素はありましたか?

 2回目だったので一度目以上に信頼関係も強くなっていましたし、ふくだ監督もわたしのことを信頼してくださるからこそ、台本やセリフの相談をしてくださりました。前回は全然そういう作業がなかったのですが、そういう時間が今回はたくさんありました。2回目だからこその距離感は、わたし自身初めてのことだったので、とても新鮮でした。こういう作り方をしたのが初めてだったので、楽しかったです。一緒の方向に向かっていいものを作りたい、そういう気持ちを共有して前に進めていたと思います。

 監督は、みんなのことが大好きなんだなって想いがすごく伝わってきて、スタッフ、キャスト、撮影現場に関わる全ての方たちを愛している。それがベースにあるので、監督の気持ちが全部画面に出ているところが、ふくだ監督の作品だなと思いました。撮り方もそうですし、好きという気持ちがあふれている。『おいしい家族』を観た人で、わたしのことを監督が好きなんだろうなという気持ちが伝わってきたと、いろいろな方に言われたので、それはすごいことだなと思いました。

――昔の日本映画みたいですよね。名監督と主演のコンビはよくありましたが、監督の想いにはどう応えていくのですか?

 これは毎回ですが、自分ができうる限りのことをやれたらいいなと思っています。一緒に少しずつ成長していけたらと言うとおこがましいですが、そういう気持ちではいます。

――そして、大阪のとある地区の話ではありますが、どこかの誰かが経験していそうな話でもあり、ありそうでないような状況でもあり、すごく惹かれる世界観ですよね。

 わたしたち自身が面白い作品になると思っていたので、みなさんにも面白いと思ってもらえるという想いはありました。6人がメインで登場しますが、ひとりひとり抱えているものが違うので、たくさんの方々に何かしら刺さっていくだろうなという自信はあります。

――主人公を演じるにあたり、撮影現場で感じることを採り入れていたそうですね。

 そうですね。それは毎回、そうしなければいけないことだと思っています。今回、えんを演じるなかでいろいろな方との会話をするシーンがあり、えんはこういう動作や会話はしないだろうというようなことを自分で決めずに、流れに身を任せるような工夫はしました。彼女の仕草、話し方などは、あえて意識はしなかったですね。自分と相当違う性格なら考えなくちゃいけないこともありますが、同じ人間が演じるので、そこまでの不安はなかったです。ちゃんとふくださんが見てくださっていますので。

芝居はその人が出る

――劇中にはザ・ブルーハーツの曲が流れますが、なじみはありましたか?

 わたしの学生時代はザ・ブルーハーツさんの楽曲に触れる機会はなかったのですが、ドラマの主題歌で聴いたことはありました。

――音楽は普段聴かれますか?

 最近はカネコアヤノさんの曲をよく聴いています。声も詞もメロディーも、すべてひっくるめて刺さるものがあります。音楽は好きなほうだと思いますが、カネコさんの音楽を聴く時は夜ひとりで歩いている時などに、聴いていますね。以前自分の映画の主題歌を歌って頂いたので、それが縁でよく聴いています。リラックスできます。

――ところで最近では事務所のYouTubeやナレーター、声優など、活躍のフィールドが多岐に渡っていますよね。

 事務所はYouTubeの企画を活発にやっていきたいらしく、実験的に始めていると思います(笑)。わたしとしてもお話があれば、何でもチャレンジしたいという気持ちではいます。楽しくやらせていただきましたので、いろいろ経験したいと思っています。経験が増えれば、人間力も上がったりするのかなと思うんです。お芝居は、その人が出てしまうところもあり、素敵なお芝居をされる方はご本人が素敵だったりするんですよね。経験を増やしていくことでしか俳優は成長できないのかなと思うので、いろいろと挑戦したいなと思っています。

――そういう考え方はデビューして、いくつかの経験を経て身につくものですよね。

 そうですね。デビューした頃は想像もしていないようなことばかりで、考え方が違う部分もたくさんあったとは思います。わたし自身はまだまだ足りていないことばかりだと思っているので、毎回毎回、必死になってやっているところです。ただ、まだまだ全然、いろいろな課題を乗り越えていっている感覚はないので、これからですね。

――最後になりますが、映画を楽しみに待っている方々へ一言お願いいたします。

 ふくだ監督とはどう観てもらいたい、どう観てほしいみたいな会話はしていなかったんです。どう感じてもらいたいかとかではなくて、観てもらう方々に委ねる、感じる隙間を大事にしていました。わかりやすい答えは出さない、ということは意識していました。ちょっとしたことで観る人の感じ方が変わってしまうので、そこはすごく気をつけた作品ですので、ラストシーンの解釈も観る人によって違っていいと思うんです。シンプルに、観れば楽しめる作品になっています。いま学生の方もそうじゃない方にも観てほしい映画です。

公開中
(C)2020『君が世界のはじまり』製作委員会
配給:バンダイナムコアーツ

この記事の写真

記事タグ 

コメントを書く(ユーザー登録不要)

関連する記事