ヒグチアイ、片平里菜、互いをリスペクト、惹かれる歌詞
――ヒグチアイさんの楽曲は日常を切り取っている感じですよね。
ヒグチアイ 日常が多いですね。日々ドラマがそんなにある訳ではないので。ドラマがあったらそのことを書けばいいんですけど、ずっと落ち着いた生活をしているので、その中をちゃんと切り取ってそこを歌に出来たらいっぱい曲が書けるなと思って。そういうのがもともと好きなので自分の性格に合っているんだと思います。
――アーティストのみなさんは会ったときに制作の話などはしないのでしょうか?
片平里菜 した気がする。
――手の内を見せ合うような感じになってしまう?
片平里菜 そんな敵対心はないです(笑)。
ヒグチアイ 今後出るかもしれないですけど(笑)。今はないですね。
――お互い似ている部分、似ていない部分は?
ヒグチアイ 似ている部分かわからないですけど、里菜ちゃんの凄く好きなところは、歌の時間軸が、一瞬とか、1分とか、5分くらいの話というか、時間がそんなに過ぎていないところを歌詞として凄く広げて歌える人だなと思って、私もそういうことをやりたいなと思っているので。
――ヒグチさんはそう話していますけど、片平さんは意識している?
片平里菜 物語の全体像を曲にするのも楽しいんですけど、確かに最近はどちらかというと映画の自分が好きなワンシーンを曲にすることが趣味というか。
――曲として現れている部分が一瞬だとしたら、見えない部分はどう落とし込む?
ヒグチアイ 里菜ちゃんはそれがめちゃくちゃ上手です。感情が書いてある訳ではなくても感情を凄く感じる。情景描写みたいなものだと思うんですけど。電話、夜中の…とかが凄く。
片平里菜 夜中に電話が出来ないよ、ウジウジって。
ヒグチアイ めちゃくちゃ短い話のところがこんなに膨らむんだなって。最初に言っていることと最後に言っていることは同じなのに、最後は聴こえ方が全く違ったりとか。それが魔法みたい。最初に聴いた言葉は平面だから前後がないかもしれないんですけど、その前後にはどういうものがあって、その言葉が発せられているのかというところにちゃんと戻ってくるような感じがして、そういうのが立体的になって最後に人物像まで見えちゃうような。凄いことだと思いました。
――サウンド的にはどうですか?
ヒグチアイ 凄く明るい曲もあれば、アングラというか、音楽が好きな人が好きみたいな、そういう音もあったりして。声がどれにも合っているから面白いなと思いました。
片平里菜 私は自分のギターだけでアレンジができないから、アレンジャーさんを迎えて色付けをしてもらってはいるけど、私はピアノの女の人が凄く好きなんです。鍵盤の上だけで景色を描けるじゃないですか? だからそこにプラスアルファの音が乗っかってて。まずそこで完結している、歌と言葉とピアノの音色だけで世界観が完成されている感じがして。「ヒグチアイ」ちゃんというジャンルがあって、でもたまにふざけている曲やお茶目な曲もあるじゃないですか? そのコントラストが大好きで。それで余計に好きになりました。感情表現とか、言葉のフレーズもはっとするものがいっぱいあって全部大好きです。
ヒグチアイ 今、全部歌詞を開いて「どこ?」って聞きたい!
――ヒグチさんの歌詞は凄くリズミカルですよね。工夫している点は?
ヒグチアイ 昔は歌詞先行でずっと書いていたんですけど、あまりそういう曲を書かなくなっているのもあると思います。メロディから書いて歌詞を乗せたりしたらそういう風になるのかなと思うんですけど。韻を踏むみたいなのはそんなにたくさんないんですけど、エイミー・ワインハウスのドキュメント映画を観たときに、韻を踏むのが当たり前なんだというところがあって。そんなこと聞いたことない、みたいな。
日本語ってそういうのあまり気にしないじゃないですか? だから意識したらリズムに乗りやすくなるのかなとか、聴きやすくなるのかなとか。そういうのは考えるようにはなりました。口が気持ちいいみたいな。例えば、「ビスケット」って「ビスケ」がちょっと上がっていってるじゃないですか? 歌っていたら普通になってきちゃうんですけど、最初に作ったときに、それがもし違っていたらいつも発音の仕方と違うなと思って。そうしたらメロディをその言葉に当ててあげたら口が気持ち良かったり聴きやすかったりするなと思って。そういうのは考えて作ったりします。
――言葉のイントネーション、アクセントを大事にしているような?
ヒグチアイ あるじゃないですか? 同じ言葉なのに意味が違う言葉って。そういうのは気にしていますね。
――メロディ先行だと言葉を当てはめていくのは大変?
ヒグチアイ 難しいところはあります。
――文章にすると1つのセンテンスは長いけど、聴いているとそんなに長いという感じはしますね。
ヒグチアイ 言葉数、多いですよね。
片平里菜 でも気持いい。ポンポン入ってくる。
ヒグチアイ 少し話したけど、ワンコーラスの中で言っていることを、広げて1曲に出来たらいいなと思っているんです。でも、それが凄く難しくて。だから里菜ちゃんが凄く羨ましい。もっと縦に厚くしたいんですよね。
――そうなってくると曲の作り方も変わってくる?
ヒグチアイ 変わるかもしれないですね。あとはもっと想像力とか妄想力とか。そういうのかなと思います。日々の鍛錬ですね。