中川翔子、歌は魔法であり心――心が折れ辞めたいと思った事も 支えてくれた愛猫の存在
INTERVIEW

中川翔子、歌は魔法であり心――心が折れ辞めたいと思った事も 支えてくれた愛猫の存在


記者:村上順一

撮影:

掲載:18年11月20日

読了時間:約14分

ライブに対して怖いものがなくなった10年前

――7月には10年ぶりとなる米・ロサンゼルスでのライブ『Anisong World Matsuri at Anime Expo 2018 - Japan Kawaii Live -』に出演されていますが、いかがでしたか。

 10年前は「続く世界」という曲をリリースした時に、ステージに立たせていただいたんですけど、持ち歌も3曲ぐらいしかなくて、たった一人でのマイケル・ジャクソンさんも立った、ノキアシアターのステージはものすごく緊張したのを覚えています。でも、そこからライブに対して怖いものがなくなって楽しいという気持ちが芽生えました。言葉の壁とか国境とかアニソンだったらみんな幸せな思いが出来るんだということも、あの時に体感しました。ライブを続けて行きたいという夢の始まりにもなったステージでした。

 今回は緊張は無かったです、この10年でライブ経験も楽曲もすごく増えたので。10年前のアメリカは曲でペンライトを振るという文化がなくて、皆さんがガラケーを振っていたのを覚えています。今はペンライトを振ってくれているんですけど、日本とは違う振り方、独自の進化をしていて凄く嬉しかったです。

――どんどん変わってきているわけですよね。

 また、ロスで歌いたいという思いも生まれましたし、11月には『Anisong World Matsuri at Anime NYC 2018』というイベントで、ニューヨークで歌えるというのも凄く嬉しいです。同じステージに、大好きな影山ヒロノブさんとモーニング娘。の飯窪春菜ちゃんが一緒ということもあって凄く楽しみなんです。

――ファンの方も駆けつけてくれますよね。

 そうなんです。もう既に「ニューヨークに行くよ」と言ってくれている方もいて、旅行感覚で楽しんでくれているのも嬉しいです。おそらく現地の人たちも、ファンの方が盛り上がってくれているのをみて、自分も盛り上がろうと感じて応援してくれる方もいるので。本当に感謝ですね。10年前もロスに来て、今回も来ていただいた方には感慨深いと仰ってもらえて。

――海外に行くというのも皆さん元気という証ですしね。

 “貪欲”という私の好きな言葉を体現してくれているなと思います。好きだから行こうというポジティブな行動力は凄く格好良いなと思います。

――パワフルですよね。さて、新曲「blue moon」が完成しました。自身のシングルとしては「ドリドリ」以来3年9カ月振りということで。

 この3年9カ月、コラボとかで歌わせて頂いてはいたんですけど、個人名義で久々にCDリリースさせて頂いてめちゃくちゃ嬉しいです。30代に入ってから舞台やお芝居、ドラマも始めましたけど、どの瞬間も歌に繋がっているんだなとも思いました。「blue moon」も今までがあったから生まれた曲だなとも感じています。

 人生って嬉しいこともあれば、悲しいこともあると思うんです。だけど、びっくりするくらいの奇跡も起きますし、夢も叶うんです。でも、信じられないくらい悲しい別れが訪れる時もあります。すべてを含めてそれが人生で、沢山の方に出会っての今の自分なんです。決して1人では歩いてこれなかったし、心が折れそうになって辞めてしまいたくなった時も、見守ってくれる存在があったからだと思っています。この曲を聴いてくれる人にとっても大切な人を思い浮かべて聴いて欲しいです。自分なりの愛と感謝の気持ちを歌にしました。

――心が折れそうになって辞めようと思ったのは、歌をですか。

 お仕事全てですね。どんなお仕事もそうなんですけど、心も体も健康じゃないと出来なくて…。全てが悪い方に向かってしまう時ってあると思うんです。4年前に尾骨を骨折した時も、これって「もう辞めろ」ということなのかなと思いました。でも、その時に側にいてくれたのが飼い猫たちなんですけど、ずっとそばに居てくれて…。

 「blue moon」の歌詞にもあるんですけど、<光の粒の雨の中を 今日も僕は走り続ける>とは、次から次へ起こる出来事の中を、がむしゃらに走っていくしかなかったというイメージなんです。家にいるより外にいるほうが長い時もあって、飼い猫はそんな時も待っていてくれました。どの人にとっても今の自分を支えてくれた、思っていてくれたから今の自分がいると思える存在っているんじゃないかなと思うんです。

 私もコンサートの時とか「どうか幸せになってね」と自然と願っています。笑顔でいて欲しいとか、長生きして欲しいと思う気持ちって幸せだなと思えました。いつもライブの終わりに「次会うまで怪我するなよ! 風邪引くなよ! 死ぬなよ!」と投げかけるんです(笑)。

――思われる方も嬉しいですよね。

 この“moon”には“月”とラッキーの“ツキ”が掛かっています。みんなにとってのラッキーソングにもなって欲しいなと思っています。意味は後から知ったんですけど、「blue moon」には“ありえないほどの奇跡”という意味があって、歌詞を書いている段階でタイトルは決めてはいたんですけど、その意味を知って、もうこれしかないなと思いました。あと、アニメにも寄り添いたかったので、アニメ『ゾイドワイルド』に登場するワイルドライガーのブルーもイメージにはありました。

 アニメソングは懐かしい気持ち、すごく尊くって宝物だなと思っていて。懐かしいと思ったということは大人への第一歩だと思いますし、アニメソングはその時の食卓の景色とセットになって残ってくれるし、大人になって懐かしいと思って聴いてくれた時に、こんな意味もあったのかと発見もあったら素敵な未来だなと思いました。大人になったから出てきた歌だと思っています。

――子どもの時に聴いていたアニメソングを、大人になって聴くと確かに発見がありますね。

 そうなんです。あと、月っていつも同じ方向を向いて見守ってくれています。満ち欠けしたり、月食やスーパームーン、雲に隠れて見えなくなってしまう時もありますけど、どんなときも月は必ずそこにいて見守ってくれています。私にとっての大切な存在は肉体的に会えなくなっても、ずっと一緒に生きていてくれると思っています。私が妄想するのは孫に対してなんですけど、いつか自分も誰かに対して無償の愛で愛せるようになりたい。それって素敵なことだなと思います。それは強さがないと出来ないことで。それをどれだけの沢山の方にして頂いたかなと考えると、一人ひとり皆さん幸せになって欲しいなと思います。

――感謝の気持ちが詰まっているわけですね。今作の歌詞はmeg rockさんとの共作なのですが、どのようなやりとりをされたのでしょうか。

 世界観やタイトル、サビはほとんど私が考えさせて頂いた中で、megちゃんがそれをブラッシュアップしてくれました。最初サビが月側視点だったのですが、でもmegちゃんから主観は絶対自分の方が良いとアドバイスを頂きました。君がしてくれたみたいに、僕も誰かにとってそんな存在になりたいって成長していけるから、それが『ゾイドワイルド』の主人公アラシとも重なるためには、その方が良いよと言って頂けて。やっぱりプロの方の言葉は違うなと思いました。間をつなぐ言葉も流石といった感じで、私の言葉を残しながらも仕上げて頂きました。

――最初は視点が逆だったんですね。歌うにあたって気をつけたことはありましたか。

 月というモチーフもありますし、優しく見守るようなリラックスした感じにしたいなと思いました。曲が流れた時に耳に優しい感じになったら良いなと。でも、意外とメロディと言葉が詰まっていて早口だったりするので、そこで慌てた感じにならないようにと意識して。

――「blue moon」のMV撮影はいかがでしたか。

 私のリップシンクのシーンと、監督さんが曲から感じた解釈の物語で出来ています。私が歌う日や大事な日は大抵雨なんです。野外ライブだと私の出番だけ雨が降っていたりとか。MV撮影の日は台風が来ていたんですけど、なんと雨が降らなかったんです! 雲の感じも水彩画みたいに綺麗で、ジャケット写真は色調整しなくても良いぐらい素敵な空になって。夜は流石に雨が降るだろうなと思っていたんですけど、降らないで月が出てくれて、私としてはありえない奇跡が起きた撮影でした。

 この撮影から何かが変わって、今、発売記念イベント『ラッキームーンツアー』というのを全国でおこなっているんですけど、なぜかほとんど晴れていて(笑)。新しい未来へ向けてラッキーな道が始まっているのかも、と思えるような日々になっています。

――何かが変わり始めていますね。 MVの物語部分で学生さんがラジカセにCDを入れて聴いているシーンがあって、今ではなかなか見ない光景だなと感慨深かったのですが、中川さんもそういった経験されてますよね。

 私はCDももちろん聴いていたんですけど、どちらかというとMD世代で、MDを編集しては友達に聴かせたりしてました。特撮系とカンフー映画音楽を混ぜた感じのMDだったので困惑されましたけど(笑)。

――MD懐かしいですね。初めて買ったCDは覚えていますか。

 川本真琴さんの「1/2」でした。初めてのモノってずっと記憶に残りますよね。

――「blue moon」が初めて購入したCDという方も出てくるかも知れませんね。

 そうだったらすごく嬉しいです。『ラッキームーンツアー』では佐賀県とか兵庫県の加古川だったりもまわらせて頂いて、初めての場所で久々のリリイベだから誰もいなかったらどうしようとドキドキしながら行った場所にも、沢山の方が観に来て下さって。初めて観に来てくれた方や、久しぶりに来てくれた方、親戚まで連れてきてくれた方までいて。その中で、ある女の子が私のCDを初めて買ったのが小学生で、「大人になって自分で稼いだお金でCDを買えるのが凄く嬉しい」と言ってくれて、それはもうめちゃくちゃ嬉しかったです。

「blue moon」通常盤ジャケ写

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