「音楽の聴き方は年齢によって変化する」。それは、20代の半ばによく聴いていたアルバムを数枚、懐かしみながら聴いていて感じたことだ。

 20代でよく聴いたそのアルバムは、オアシスやビョーク、レディオヘッドやステレオフォニックス、ベックやソニックユースと、そのあたりの洋楽ロックだった。それらには、レコード店のいちジャンルコーナーに収まりそうな一貫性があった。J-POPより洋楽、HIP HOPよりもオルタナティブロック、という“好み”である。

 30代で聴いている音楽はというと、完全にジャンルレスで、J-POPも好んで聴くし、ブラックミュージックも楽しみ、ノイズミュージックの世界に耽ることもあり、演歌が心に染みることもある。20代特有の“尖ったこだわり”が薄くなったためだろうか。

 40代では、ジャズやクラシック、ワールドミュージックに“ハマろう”という願望がある。どこか教養に繋がるような気がする種類の音楽を嗜んでおこうという、教養欲に近いのかもしれない。

 10代の頃はというと、何も考えずに、耳にして気に入った音楽を聴いていた。メディアから一方的に流れる音楽を“聴かされ、気に入らされていた”のかもしれない。

 そう考えると、20代、人によっては10代、その頃は「リスナー人格」のようなアイディンティティが色濃く形成される時期なのではないだろうかと感じた。その頃にフェイバリットとなったミュージシャンの解散や逮捕、引退や病気、などのよかならぬニュースが飛び込むと、膝から崩れ落ちそうになるショックを受けるほどだ。

 「そんなの聴いているのか。センスがないな」と、面と向かって言ったり言われたりすることができるのは、 きっと20代の頃までかと思われる。もちろん人によってその時期は異なるであろうが、きっと音楽ファンにとってのその時期は、特別繊細で、最もエキサイティングなリスナー期である気がする。

 10代、20代の頃に聴いた全てのミュージシャンが、40代、50代、それ以降でも定期的に聴く、ということはさほど多くはないだろう。

 「私はビートルズを一生聴いていくだろう」「俺にとってカートコバーンは永遠のヒーローだ」「スティービーワンダーは自分にとっての師と仰いでいる」というように、色々あると思われる。そして、その対象のミュージシャンは、きっと20代か10代に出会うことが多いだろう。

 そこで、「20代の頃、どんな音楽を聴いていましたか?」という質問は、相手のパーソナリティの深い部分を知るちょっとした鍵であるような気もする。音楽の聴き方は、年齢によって変化するが、一生涯好きでいられるミュージシャンというのは貴重な財産だ。【平吉賢治】

この記事の写真

ありません

記事タグ 


コメントを書く(ユーザー登録不要)