今音楽家なのは、今の瞬間でしかない
――「君の夢を守りたい」はお子さんのちっち君のために書かれた楽曲とお聞きしました。
ちっちは今10歳なんですけど、生まれてからけっこうちっちに触発された曲がいっぱいあるんです。ちっちが歩き始めた頃に僕のまわりをスキップして喜んでいるだけでも曲が生まれたし、今作に入れたのも、ちっちがまだ小学5年生だから、「将来何になる?」と聞いたときに、何でも言ってくるんです。
高校生くらいになると、自分の能力のことを考えるから、無理なものは絶対に挙げてこないけど、小学生だとまだ宇宙飛行士だったり、恐竜博士だったり、カーレーサーだったり、ロックミュージシャンだったり、何でも言ってきます。
――そうですね。私が小学生の頃は天皇陛下になりたいと言う友達もいました。
そりゃ無理だ(笑)。でも子供ってそういう風に言いますよね? そういつまでも言わせてあげたいというのが僕の気持ちだから、そう考えていたところで「どれもいいね。何でもきっとなれるかもしれないよ」って言い続けたいと思って出来た曲です。
――それで「君の夢を守りたい」というタイトルなんですね。ということはタイトルから生まれた楽曲でしょうか?
いえ、子供と接していながら何となくメロディが生まれてきて、タイトルっていつもギリギリまで付けられないんです。出来上がった曲を自分で何度も聴いていて、何か気持ちがあるんですよ。夢を語っている子供を見た微笑ましい空気なんだけど、自分が心配しているところもあって……そういう空気なんだけど、それを言葉にすると何だろう? と考えているうちに、放っておくと「僕は子供の夢を守りたがっているんだ。じゃあそれにしよう」と、一番最後にタイトルが出来ました。
――それでは最後に、東儀さんが「やっていかなければいけない」と思うことは何でしょうか?
たぶん、このままで行ければいいなと思っています。このままというのは、雅楽を使った新しいことをやるわけですけど、それがアバンギャルドみたいに新しく「誰もやっていないことをやろう」とは思っていないんです。
だからこういう選曲で、みんなが知っている曲を優しくやっているだけで、変なアレンジにすることは僕は好きではなくて。でもそれが堂々と胸を張ってできるということは、古典にも自信があるからなんです。「古典をもうやらない」とか「古典はもう古くさい」なんて思うようでは、僕のやることは全部なし崩しになってしまうと思っています。
だから今のこのスタンスが永遠に続けられるといいと思っています。ただそれと同時に、僕は自分の将来とか目的などを全く考えたことがなくて、今のこのポジションにいるのも、「このポジションになりたい」という目的を定めてきた訳ではなくて、目の前に現れたものを忠実に面白がっていって、右から来れば右を見る、左から来れば左を見る、という風に目的を定めていないから、それがフレキシブルにできたんです。
――流れに身を任せている。
振り返ったら自分の道が出来ている、というのが心地良かった。だから、たぶんこれからも目的を定めないで、目の前に現れるものを自分で「こっちに行こう」と思うのを信じて動いていれば、回転さえ止まらなければ自分は生きていけると思っています。
今音楽家なのは、今の瞬間でしかなくて、僕がまだ知らない自分の別の能力が、死ぬまでに何があるかわからないです。このインタビューが終わった帰り道に、どんな事件に出くわすかわからないし、誰に出会うかわからない、そこでどんな価値観が覆されるかわからないわけで。
「うわ、もう音楽なんてやっている場合じゃないよ。こっちに行ってみよう」と思う可能性があって、そこに行ったら別の僕が生まれる可能性があります。だから「音楽家でいなければいけない」ということも実はそんなに重要に考えていません。
――人間としての可能性をより大きく考えてらっしゃるのですね。今はたまたま篳篥などを演奏する音楽家?
そうです。たまたまです。
――普通は目標を見据えて、それに向かって生きていくと言いますか。
そう、学校でも「目標を定めましょう」って教えますよね。でも僕が先生になったら絶対にそうは教えないんだけどな……。「目標なんて必要ないぞ。目の前に出てくるものを見て歩いてみろ!」と言うと思いますね。先生になろうかな(笑)。
(取材=村上順一/撮影=冨田味我)
作品情報『Hichiriki Cafe』 01.As Time Goes By |
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