ジャズ100年、柳樂光隆氏が語る 今世界で起きている新しい動き
INTERVIEW

ジャズ100年、柳樂光隆氏が語る 今世界で起きている新しい動き


記者:小池直也

撮影:

掲載:17年05月07日

読了時間:約19分

シーンの意識変化

柳樂光隆氏

柳樂光隆氏

――反響はいかがでしたか?

 滅茶苦茶ありましたね。未だに『JTNC』は1冊目が一番売れています。ロバート・グラスパーを始めとして、内容は抜群なので知ってもらえさえすれば絶対良いと思ってもらえるものの筈なので。一番良かったのは新しい物を売りたいけど、どうすれば良いか、本当に推して良いのかわからなかった売り場の方の後ろ盾になれた事ではないですかね。CDショップのスタッフから「売りやすくなった」という反応が多かったです。

 4冊作ってみて思うのは、やっぱりジャズミュージシャンの話は面白いなという事です。ジャズっていきなりできる音楽ではないので。まず楽器が上手くなければいけないし、その後にやり方がわからないといけない。「こういう理由があって、こういう即興演奏になりました」っていうのがわからないと駄目じゃないですか。なので、皆何かしらの勉強や修行をしてきている。人に習ったりもしているので、自分が成長する過程で<教えて貰う>という形をとって、絶対に言語を介して音楽を身に着けているんです。だから皆、割と言葉があって、自分のやっている事を明確に説明できる人が多い。ちゃんと喋ってくれさえすれば、凄く面白い記事になりやすいと思います。

 それは、普段他のジャンルのミュージシャンのインタビューを読んでいる人にとって、凄く新鮮なんじゃないですかね。自分の音楽の作り方を解説してくれたり、どの様に今の姿に成長していったのかということの具体的な説明は、他のジャンルのメディアでは少ないですし。なので、できるだけアーティストが音楽を解説してくれる様な記事にしようとは心がけています。政治的な話題とか、失恋したからこういう曲つくりましたとか、そういう話になりがちなメディアも多いんですけど、パーソナリティを語ってもらうよりも自分の音楽遍歴を語って貰う様にして。それにアーティストもそういう事を喋りたいと思うんです。そういう事は、沢山取材してわかった事です。

 僕は基本的にジャズよりもジャズミュージシャンの方が好きなんですよ。ジャズミュージシャンには独特のセンスがあるんですよ。どこかに理屈があるところとか、上手く言えないですけど、ジャズ独特の言葉があるんです。「この人、滅茶苦茶上手い訳じゃないけど、音色が滅茶苦茶良い」とか、そういう事を大事にできたりもする。演奏なり、音なり、何かが個性的であることに皆がこだわるので、誰かのフォロワーというよりも自分にしかできない音を出すことに強いこだわりを持っているんですよね。それは多分、技術的なものを突き詰めた結果だと思うんです。機材を変えるとかそういうところじゃなくて。

――今なぜジャズでこの様な状況が生まれているのでしょうか?

 自分の音楽をジャズとして聴いてもらわなくても良いって思う人が増えた、という事じゃないですか。以前はジャズって<こうじゃなきゃいけない>とか<こういう曲をやらなきゃいけない>っていう感覚があったと思うんですけど、演奏者が2017年の他のジャンルの音楽と同じ様に自分達の音楽を聴いて欲しいと思い始めているっていう事なんじゃないかと。でも、元々のジャズってそうだったと思うんです。その時の流行りの音楽に反応していましたし。それが、ある時から<ジャズってこういうもの>っていう抑圧的な雰囲気が出てきて。でも、最近、そこから外れたことをやる人が一気に増えて来た。本当に<何をやっても良い>って演奏者もリスナーもメディアもみんなが思えるようになったのは、ここ最近だと思います。

 例えば未だに「ロバート・グラスパーはジャズじゃない」という様な意見もあります(笑)。でも、ミュージシャンがそういう発言を気にしなくなっているというのが凄く面白い。アメリカでは、年上のミュージシャンでも若い世代の自由な活動を好意的に受け取っている人が多いんです。例えば、若手のジャズメンと演奏してから、ベテランのジャズミュージシャンが凄い練習し始めて。ヒップホップのビートを叩ける様になったという話もあります。良い話ですよね。「自分達がやってきた事と同じように新しいものを生み出そうとしている若者がいるな」という感じなんだと思います。

 ロバート・グラスパーが取材で「ジャズのCDの売り上げは、CD全体の数パーセントだ」と言っていました。それにどんなに頑張っても一番売れるのはマイルス・デイヴィス(米ジャズトランペット奏者)の決定版『Kind of blue』(1959年)。だから嫌になったんでしょうね(笑)。「そこで競うよりもやりたい事をやった方が良いじゃん。何を作っても文句を言われる時は言われるんだから、好きな事やろうよ」となったのではないですかね。ジャズなんて所詮、そんなビッグビジネスでもないですし。

 あとは、ヒップホップ・R&Bのアーティストがジャズミュージシャンを求めたっていう事もあるかもしれません。機材の進化が停滞したということもあり、打ち込みで作った音楽に刺激を感じづらくなったということと、あとはライブ。パソコンから音を出して、その上でラップをするという様なスタイルだとヴィジュアル的にちょっと寂しいじゃないですか。まあ、映像を付けるとか、ダンサーを付けるとかやり方はありますけど。今ってCDが売れなくなって、ライブとかフェスの時代と言われていますよね。そういった時、後ろにドラムがいて、ベーシストがいて、ホーンセクションがいて、彼らがアクションも含め華やかに演奏をしているっていうのが凄い大事。2000年以降、ヒップホップとかR&Bのアーティストがそれに気づいて、バンドを使うのが顕著になったのも大きかったですね。

 ジャズミュージシャンって、昔から凄い上手かったけど、他のジャンルに対する理解を持っている人が少なかったんですよ。80年代はそういう人がいたりしましたけど。ヒップホップ・R&Bはお洒落な音楽だから、センスも必要じゃないですか。チャートで売らなきゃいけないし。そういう人が求める音が出せるジャズメンが増えたんですよね。物心ついた時からそういうのを聴いてると、全然違いますよ。アメリカだから、ラジオでかかるのがヒップホップばかりだったでしょうし。普通にヒップホップっぽい、Tシャツとかキャップでライブするジャズミュージシャンもたくさんいますよ。

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柳樂光隆氏
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