オリラジ「PERFECT HUMAN」ヒット

オリラジが中心となる「RADIO FISH」による「PERFECT HUMAN」

 お笑いコンビのオリエンタルラジオが新ネタとして披露した「PERFECT HUMAN」が、ダンスヴォーカルユニット「RADIO FISH」名義の楽曲として音楽配信サイト上位にチャートイン。更に、テレビ朝日系音楽番組「ミュージックステーション」への出演も決まり、盛り上がりを見せている。これまでの歌ネタとは異なり、お笑い要素を排除した“ガチ”な楽曲。作曲を他者が手掛けている点においてもこれまでの歌ネタとは違う。そして、このヒットがお笑いと音楽の境界線をますます曖昧にさせていくのではないかとみられる。

 お笑いネタなのに真面目に歌っている点が人を惹きつける要素にもなっている。2月13日に放送されたバラエティ番組『ENGEIグランドスラム』(フジテレビ系)で同曲を披露したオリエンタルラジオ。お笑いネタというよりも、歌って踊るというダンスボーカルグループ顔負けの音楽的パフォーマンスを披露し、スタジオの観覧者から黄色い歓声を受けた。司会を務めたナインティナインの岡村隆史は呆れ顔だったが、意外にも好評を得た。

 ダウンタウンの松本人志も、テレビ番組で「一切、ここで笑わせる気がないんだってことに笑ってしまいますね」と評している。

作曲者の存在

 RADIO FISHは、オリラジのメンバーを中心とした6人組だ。お笑い芸人らしからぬダンスパフォーマンスやラップなどを組み込んだダンスボーカルグループ顔負けのEDMを新ネタに組み込んだ。もはやお笑いというよりも1つの音楽トラックとして強度ある仕上がりだ。

 これまでAMEMIYAやテツ and トモ、波多陽区、近年では「あったかいんだからぁ♪」のクマムシや、8.6秒バズーカー、どぶろっくなど「リズムネタ」あるいは「歌ネタ」と呼ばれる芸、もしくは直接的に楽曲を制作することによって人気を集め、最終的にCDをチャートインさせた“アーティスト”は沢山いた。それに元々オリラジも「武勇伝」というリズムネタでブレイクしたコンビである。

 ちなみに、「あったかいんだからぁ♪」は、アレンジャーによって楽曲のクオリティを更に高められ、それがCD化され、ヒットした。

 しかし、この「PERFECT HUMAN」が興味深いのは作曲者がいることだ。この楽曲はJUVENILEというトラックメイカーが音楽を担当し、藤森がリリックを書いている。だが前述した“アーティスト”たち(過去のオリラジも含めて)が共通するのは“自身作曲”である。音楽的に言い換えるのであれば全員が「シンガーソングライター」なのであった。そういう意味で言うならば、他者に書いたもらった「PERFECT HUMAN」は数多あるリズムネタとは似て非なるものだと言える。

 “他者作曲”の観点においては既に、とんねるずやダウンタウンたちが歌手活動としての実績を示している。2組の大ベテランは、お笑いのなかに音楽を取り込むのではなく、音楽とお笑いを別物として捉えていた。つまりお笑い芸人と歌手を区切っていた。自身の冠番組で歌うことはあったものの、オリラジの様にお笑い番組でネタと称して歌うということはしなかった。

 では音楽に乗るリリックを考えたのが藤森だとはいえ、「リズムネタ」のリズムに当たる部分を他者が作ったこのネタを、彼らの持ちネタと呼んで良いのだろうか。作曲者が存在する音楽の世界ではそれは常にあることで、「PERFECT HUMAN」はオリラジのネタであると言っても差し支えないだろう。

お笑いと音楽の境目があいまいに

 ただそうなってくるとお笑い芸人が活動範囲をダンスヴォーカルグループの領域にまで拡大している、と解釈することもできる。つまり今日、クラブなどで展開されてきたEDMチューンをダンスボーカルグループが「楽曲」として、オリエンタルラジオは「ネタ」として披露する時代になってきた。「楽曲/ネタ」「音楽グループ/お笑い芸人」の境界線がますます曖昧になっているのではないだろうか。

 その証拠にネット上では「PERFECT HUMAN」について「面白い」「笑える」といった感想だけでなく「普通に格好いい」というようなものも散見される。しかもオリラジは音楽番組よりも一組あたりの持ち時間の長いお笑い番組でパフォーマンスすることによって、今となっては珍しい地上波でのフルコーラス演奏もできるのだということにも軽々私たちに気づかせてくれた。

 さらにリズムネタにとどまらず、お笑い芸人の音楽への参入は同時多発的に起こっている。

 それは芸人出身の鬼龍院翔(東京NSC在籍)をヴォーカルとするエアバンド、ゴールデンボンバーを筆頭にした現代ヴィジュアル系シーンや、権威あるヒップホップMCバトルトーナメントである「戦国MCBATTLE」も去年から「芸人ラップ王座決定戦」なるお笑い世界とのコラボ大会を催すなど芸人がどんどん音楽のシーンに参入しつつあるのだ。

 そういう意味では、オリラジの今回のヒットは、芸人と音楽の境界線はますますあいまいになってくる。<芸人=音楽アーティスト>という図式が珍しいものでなくなって、チャートがお笑い芸人やそれを出路にするアーティストに席巻される日が来ないとも言い切れないだろう。

 これからお笑いのエリアからその方法論や精神を持って飛び出した彼らによる新しい音楽や表現がもっと出てくるかもしれない。「PERFECT HUMAN」が与えたインパクトはそれほど強いのである。(文・小池直也)

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