越冬

 ライヴは終盤線へ。冬へ突入する。「まだ熱いくちびる」がスタート。愁いを漂わせながら、冬らしくないノリが良い曲だ。全編を通してこの良い意味のギャップが全てプラスに働いている。そして演奏陣のキメがあってから、最後のワンフレーズを歌う瞬間に中村がマイクをスタンドから弾き抜いて、その後すかさずカットインするディストーションギターという一連の流れがクールすぎて鳥肌が立つ。正直に言うなら、引き抜いたマイクで殴られたいと思うほどだ。

 余韻に浸らせる間も与えず一番ロックな雰囲気の「DONE!DONE!」のイントロ。クラップをしながら立ち上がるオーディエンス。コール&レスポンスもバッチリ。「声を聞かせてー」と珍しく煽る中村は踊りながらノリノリである。会場のテンションがピークに達するのがわかる。シャウトとともにエンディングに着地。

 もう最後まで止まらない。今回の物販で目玉商品だというハンカチを振り回しながら会場全員で踊って盛り上がる「未練通り」へ。中村曰く「物販販売促進ソング」である。イントロのオルガンが気持ち良い。中村印の懐かしさ漂うメロディとモダンな演奏のバランスが面白いく、中村もこれまで見せなかった感情に身を任せる様にきれまくる。さらに転調してギアを上げる中村率いるバンドに負けないテンションで応答するオーディエンス。「皆さん最高でーす!」と叫んで暗転。

 インパクトのある協会風オルガンに続いて「最後の曲です」とコールしてはじまったのは「逢いびきの夜」。ポップで明るい曲だ。ファン達は左右に揺れて観客席には波が生まれている。ステージ上には赤い糸が張られて最後のサビを歌ってからはさみでこの糸を裁ち切るパフォーマンも見せた。この曲でも最後は転調が組み込まれる。中村のタフネスと煽りのスキル、サービス精神に賛辞を贈りたい。バンドを置いて一足先にステージを後にする中村。クール。バンドは熱くエンディング。

凛々しい姿

 躊躇なくアンコールが起こるが、ファンは「残業!残業!」と騒いでいる。どうやら彼女のライヴでは恒例の模様。

 すると先行してバンドの演奏からアンコールが始まった。ほどなく現れた中村。カジュアルな服装に着替えている。少し和風な印象の「友達の詩」。時おりバンドが盛り上げるが、基本的に粛々と歌い上げていく。すっかり聴き入ってしまった。エンディングではスイッチを入れて伸びやかな高い声で盛り上げていく。

 最後のMCで「もし人間に強い立場と弱い立場があるんだったら私は弱い立場に立っていたいと思っています。弱いというレッテルを跳ね返せるような歌をこれからも歌っていこうって思っています」と力強く語り、「最後の曲は春夏秋冬どの季節にも存在していて、どの季節にも限定できない特別な日、全ての人の誕生日を祝ってお別れします。また必ず元気でお会いしましょう」と告げた中村。

 そして、ファンたちに「ジロキチ」と命名されたという新しいアコースティックギターをポロポロと弾きながら三拍子の「死ぬなよ、友よ」を最後に持ってきた。曲調と歌詞がフォークっぽさを感じさせる。アコースティック編成で静かに聴かせながら、最後はいきなりバンドと照明の目潰しで切り込む大胆なアレンジを投下して感情を煽る。最後まで歌い切るとギターを右手で高く掲げた中村。長い時間掲げ続ける。その凛々しい姿に大きな拍手が贈られた。

 その後も最後までステージで深々と礼をして感謝を伝える姿が印象的だった。

(取材・小池直也)

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