上原ひろみの魅力支える抜群のポップ感

ジャズCDでは15年間で5作目のオリコン・アルバムトップ5入りを果たした上原ひろみザ・トリオ・プロジェクト『SPARK』

 ジャズピアニストの上原ひろみが、「上原ひろみザ・トリオ・プロジェクト」”名義でリリースした『SPARK』が、15日付オリコン週間アルバムランキングで初登場4位を記録。彼女だけに限らずジャズCDでは、約2年ぶり、5作目(01年以降)のアルバムトップ5入りを果たしたとして話題を集めている。

 このアルバム『SPARK』は、上原のリーダー作としては10作目だ。彼女の経歴についてはここで改めて説明するまでもないが、今や日米を股にかけて活躍するジャズウィメン(ジャズメンの女性版。なぜか複数形で書くのがマナーなのだ)である。

 これまでいくつかのバンドを率いてきた彼女が現在、取り組んでいるのは「ザ・トリオ・プロジェクト」。メンバーは大きな体に超絶かつ的確な演奏で世代を超えた人気を誇るアンソニー・ジャクソン(ベース)、元TOTOのドラマーとしても知られるサイモン・フィリップス(ドラムス)、そして上原(ピアノ、キーボード)の豪華3人編成。このメンバーと肩を並べる日本人女性というのも彼女をおいて他にはいない。

 一口にジャズと言ってしまうとバーや居酒屋で流れる音楽をイメージしてしまいがちだが、彼女の音楽はどちらかというとプログレッシヴ・ロックのそれに近い。ジャズのスタンダードチューンは滅多に演奏されないし、よくある4拍子の曲ばかりでない。

 この新譜のリードトラックの「SPARK」だけとっても、リズムが9拍子に設定されながらも5拍+4拍(=9拍子)や、3拍+3拍+3拍(=9拍子)と様々なリズム分割が施されていくアレンジになっている。しかし、ただの小難しい音楽にまとまることなく感情と高揚感に溢れていて、リスナーの心を揺さぶるのだ。演奏で魔法をかける不思議なバンドである。

 楽曲の持つジャズやプログレ感のイメージが先行しがちな彼女だが、抜群のポップ感覚も持ち合わせている。自身のバンドでも垣間見えるのだが、それが一番“発露”されていると思われるのが、2014年末に行われた池田貴史率いるバンド、レキシとのコラボレーションではないだろうか。

 「日本のバンドと上原がコラボレーション!?」と当時は驚いたものだが、その演奏はプログレ感よりもポップさが際立っており、演奏からステージングも含めた全てにおいて素晴らしいものであった。そういう現場にも溶け込んでより良いものを創造しようとする彼女のバランス感覚が見えた。

 そもそも、このコラボレーションに至ったきっかけは上原の夫であるデザイナー、ミハラヤスヒロの紹介であるという。ミハラヤスヒロは元々シューズデザイナー。その後ウェアラインなども展開して、現在は世界的なコレクションでも絶大な評価を得ている人物だ。

 公私と共に音楽に限らず、ファッションモードなど多種多様な刺激を得ていると思われる上原。そういう視野の広さも彼女の魅力に一役買っているのであろう。(文・小池直也)

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