INTERVIEW

井上小百合

音楽劇「ダ・ポンテ」で新たな挑戦 美貌で翻弄するフェラレーゼ役


記者:村上順一

写真:木村武雄

掲載:23年06月19日

読了時間:約8分

 井上小百合が、6月21日~25日にプレビュー公演、6月30日スタートの愛知公演を皮切りに東京、大阪を巡演する音楽劇『ダ・ポンテ~モーツァルトの影に隠れたもう一人の天才~』で、ダ・ポンテの恋人でソプラノ歌手のフェラレーゼを演じる。モーツァルトの名作オペラ「フィガロの結婚」「ドン・ジョバンニ」「コジ・ファン・トゥッテ」の制作背景には台本作家のダ・ポンテの存在があり、本作では、野心が強く、出世のためなら他人を利用するダ・ポンテ(演・海宝直人)と、天才でありながらも同じ時代の人間には評価されずにくすぶっていたモーツァルト(演・平間壮一)の軌跡を描く。フェラレーゼは美貌を最大限の武器とダ・ポンテや男たちを翻弄していく。いわば魔性の女とも言える役柄を井上はどう向き合っているのか。【取材=村上順一/撮影=木村武雄】

海宝直人は天才

――出演が決まった時の心境は?

 ダ・ポンテは名前ぐらいしか知らなかったのですが、彼を主軸に描くという面白さと日本オリジナルの音楽劇という新しさの中で、フェラレーゼを演じさせていただくのは、私にとって新しい挑戦になると思いました。今年2月に出演した舞台『博士の愛する数式』では小学生の男の子を演じたのですが、今回の役が、「突き抜けて嫌な女」だという流れもとても面白いと思いました。

――ギャップがすごいですよね。井上さんは過去に吹奏楽をやられていましたが、モーツァルトにどんな印象がありますか。

 私の中では常人ではないイメージです。世の中には努力の天才と生まれ持った天才がいると思うのですが、モーツァルトは後者だと思います。

――井上さんの周りで、「この人天才だな」と思う人はいらっしゃいますか?

 今回ご一緒させていただく海宝さんは天才だと思いました。幼い頃から舞台に立たれていて、ミュージカルといったら一番にお名前が出てくるような方です。私は海宝さんのことを「生まれ持った天才」だと思っていたのですが、ご一緒させていただいて、天性だけではなく、とても努力されてる方なんだとわかりました。

――どんな瞬間にそれを感じましたか。

 これだけ素晴らしい才能をお持ちの方が、今もボイストレーニングに通って自分を高めていらっしゃるんです。そして、稽古初日から膨大な量のセリフが全て入ってる状態で臨まれていたのも印象的でした。それを目の当たりにして、常にたゆまなく努力されている方なんだろうなと思いました。

井上小百合

自分を活かしながら演じる方法を模索

――今回のフェラレーゼ役ですが、どんなところにこだわって表現しようとされてますか。

 私が今まで演じてきた役はザ・ヒロインみたいな、主人公に守ってもらう役や少女漫画に出てくるような女の子の役が多かったんです。今回のフェラレーゼはとても強い女性で一人でも生きていけるけど、吸える蜜は全部吸うみたいな女性なので、歌声も強くなければ、と思い、太い声を出す練習や、どれだけオーバーにリアクションできるのかというのが挑戦でもあります。

――今までとは違う役柄というところで、難しさを感じている?

 はい。フェラレーゼの見た目からは想像がつかない強さみたいなものが、演じるにあたってあった方がいいと思っています。「どこからどう見ても強い女性」というよりも、「男の人が騙されてしまうようなものを持ってる人」の方がいいんじゃないかと思い、それをどう演じていくか模索しています。

――舞台『博士の愛した数式』では少年役で髪を切られましたが、今回は見た目の変化はありそうですか。

 フェラレーゼを演じるにあたって、もう少しウエイトを落とした方がいいと思い、割とハード目のジムと、ストレッチを専門にしたジムの両方に通っています。『博士の愛した数式』では小学校5年生という役だったので、ちょっとプニっとしていた方が逆にいいのかなと思っていたのですが、フェラレーゼは美貌を活かして男性を翻弄する役なので、食事制限も行いつつ、ダイエットを頑張っています。

――具体的にはどのくらいウエイトダウンしたいと考えていますか。

 5キロくらいは落としたいと思っています。でも、強く太い声と体幹は持っていないといけないので、そこのバランスは考えながらやっています。衣装やヘアメイクも豪華になると思うので、それを着せられているのではなく、しっかり着ているようにしないといけない。スタイルがあまり良くなかったら説得力がないので、ヒールを履いて衣装を着るためには、筋力をつけて体幹を鍛えていかないといけないなと思ってます。

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憧れの存在・田村芽実

――今回共演される田村芽実さんは憧れの人だというのを聞いたんですけど、どのようなきっかけがあったのでしょうか。

 田村さんはコロナ禍で一人芝居をやっていました。それは動画の作品なのですが、舞台や映画、ドラマとも違うようなものを根本宗子さんとやっていらして、とにかくそれが素晴らしくて「こんな人がいるんだ」と驚きました。お芝居も歌も全部織り交ぜた一人芝居だったんですけど、いろんな可能性を感じて素敵だなと思いました。田村さんのルーツを辿ってみると、私と同じようにグループに所属していた時代もあったことなど色々知って、自分も頑張ろうと思える勇気をいただきました。田村さんが出演されている作品を観るようになって、繊細ですごく素朴で「なんて飾らない人なんだ」と思い、本当にお芝居が好きなんだろうなと感じました。

――稽古の中で田村さんとお話しされましたか?

 はい。お互いがどうやってお芝居のことを好きになったのかとか、田村さんが私のインスタを見てくださっていることが分かったり、色々お話ししました。私がプライベートでやっているボランティア活動のことを聞いて、今度一緒に行きたいと仰ってくださって、すごく素敵な人だなと思いました。そういう方なので、感情表現が豊かにできる方なんだと思いました。

――今回、共演されて絆が深まりそうですね。

 今度「お泊まりしよう」という約束もしているので、すごく楽しみなんです。

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歌に面白さと難しさ

――音楽劇なので、歌もフィーチャーされますが、どんな歌を歌われる予定ですか。

 ダ・ポンテに「私にオペラの歌を書いてほしい」と頼むシーンで歌う曲があるんですけど、それが妖艶で可愛らしい曲なんです。おそらく頼まれたダ・ポンテは「この子に言われたら頑張って書かないと!」と思ったかもしれないけど、傍から見たら彼女は絶対危険というシチュエーションを表現した歌で、それがすごく面白いなと思いました。でも、さじ加減がすごく難しい歌だと感じていて、ダ・ポンテに対して可愛らしく振る舞っているけど、どう見ても裏があるような歌い方をしなければいけない。そんな技術がいる歌だと思ってます。

――井上さん、歌唱イベントでダ・ポンテのような人とは関わりたくないと発言されてましたね(笑)。

 実際にダ・ポンテのような人がいたら絶対関わりたくないなと思いました(笑)。今『モーツァルト殺人法廷』という本を読んでいて、ダ・ポンテがモーツァルトを殺害したんじゃないか? という容疑がかけられるという内容なのですが、すごく卑怯な人なんです。多くの史実が残っているんですけど、どれを読んでもダ・ポンテについてよく書かれているものがなくて、いろんな女性に手を出しては法廷に呼ばれたりとか…。そんなダ・ポンテを海宝さんが演じるというのが、すごく面白くてチャーミングだなと思います。

――ダ・ポンテは“ダメ男”?

 ダメ男だと思います。モーツァルトはすごく音楽のことを愛していて、音楽で生きていければそれだけでいいという天才だったと思うんです。でも、ダ・ポンテは天才だけど富や名誉、名声が欲しかったのではないかと思いました。詩人として物を書くのが好きで戯曲を愛していたというよりは、「俺は有名になってやる」「世間に認めさせてやる」みたいな野心がすごいと思いました。もし、ダ・ポンテがいま生きていたら、インスタとかSNSなどバンバンやるタイプの人だと思います(笑)。

井上小百合

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お芝居さえ続けていければ

――ちなみに井上さんは、ダ・ポンテのような野心はありますか?

 もちろん野心はあります。もっと色々追求して自分を高めていけたらと思っているのですが、自分が有名になりたいからという考えではないんです。とにかく私はお芝居が大好きなので、もしお仕事がなくなってしまって、富や名声が手に入れられなくても、お芝居さえ続けていければそれでもいいかなという気持ちもあります。

――本当にもうお芝居が大好きなんですね。逆にお芝居ができなくなったら…。

 できなくなったら憂慮に堪えないと思います。コロナ禍で不要不急の対象としてエンタメが扱われてしまった時に、自分の中の生きる楽しみとか糧を失ってしまったような気がして…。その時に私はエンタメがないとダメなんだと気づきました。その後、三谷幸喜さんが書き下ろした舞台『大地』を観に行きました。それはコメディ作品だったんですけど、私は「エンタメありがとう」という感情になって号泣してしまって。エスカレーターにも乗れなくて、その場で立ちすくんでしばらく泣いてました。

――改めてエンタメの大切さを感じた上で臨まされる本作。楽しみにしている方にメッセージをお願いします。

 フェラレーゼを演じるのは自分の中で大きな挑戦でもあるし、やりがいのある役だなと思っています。みんなで一丸となってゼロから作っているので、多くの意味で新しさもあり、画期的な作品だと思うので、ぜひ劇場に観に来ていただけたら嬉しいです。

(おわり)

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メイク:藤原羊二 (UM)
スタイリスト:中川原有(CaNN)

<公演日程>
【プレビュー公演】
2023年6月21日(水)~25日(日)
会場:シアター1010

【愛知公演】
2023年6月30日(金)~7月1日(土)
会場:日本特殊陶業市民会館ビレッジホール

【東京公演】
2023年7月9日(日)~16日(日)
会場:東京建物Brillia HALL

【大阪公演】
2023年7月20日(木)~24日(月)
会場:新歌舞伎座

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