新型コロナ禍、変わらざるを得ない葛藤 ライブはどうなる
脳内再生録
新型コロナウイルスの影響でライブやフェスが次々と中止となっている。世の中の仕組みが大きく変わろうとしている。それを新たな産業革命の到来と言う人もいる。感染力が強い上に、体内に抗体が出来たとしても感染しないとは言い切れず。ワクチンが開発されても感染を避ける行動を取る必要があるとの指摘もある。以前の生活には戻れない、とするのはこのためで「新たな生活様式」を取り入れざるを得ない。
生活様式だけではない。ビジネスモデルも新たな構築が求められている。90年代をピークにCDの売上が下降している音楽業界はライブとグッズに活路を見出したが、それも今回の新型コロナ禍で厳しい状態になった。日本武道館をはじめアリーナクラス、ドームクラスでライブを行うのはアーティストにとっても一つのステータスだったが、その頂(いただき)も厚い雲に覆われようとしている。
大量生産時代から多品種小ロット時代と言われて久しいが、「新しい生活様式」下でのリアル社会ではこれまで事業が成り立っていた「販売数」や「価格」を見直さざるを得ない状況で、これまでのビジネスモデルで以前の売上に戻る保証もない。それは集客するライブなどにも当てはまる。
ネットやスマホを通して見る映画や聴く音楽だけでは醍醐味がないと映画館回帰やライブ隆盛を支えてきた関係者からすれば、なんともむごい話である。
変化を好まない、人間の心理
堰を切ったように――、という表現がある。これまでくすぶっていたネット社会への完全なる移行は、新型コロナ禍で一気に進む。既に実用化しているVRライブは、5Gの普及とも相まって更に進むだろう。しかし、どこかあじけない。音楽にアナログを求めている傾向がここ数年強いだけに、果たして全てが順応できるのか。
世界的に音楽はCDではなく配信に移行している。日本の場合はCDの売上枚数はまだ高いものの、その役割はグッズ化しているとも言われている。楽曲に対する付加価値という一面もあるが、集客ライブは現状のままなら少数制で行われるとみられ、会場でのライブは付加価値を伴ったプレミアムな機会となるかもしれない。何年か先に、新型コロナ禍以前の様子を「こんな貴重なライブに気軽に、しかも大勢で行けていたなんてすごいですね」と言われることになったら…。
もともと人は、新しいことは好まず、変化を恐れる生き物と言われている。急な変動に対応していくのはなかなか難しいものだ。未曽有の事態に先行きは見通せないが、ライブ再開に向けて試行錯誤する動きもある。止まるわけにはいかない――。目の前のことに取り組んだその先に何かがきっと見えるはずだ。【木村武雄】
筆者紹介
木村武雄 書く人、撮る人。新聞社を経て現職。昨夏、音楽班からエンタメ班に。