脳内再生録

 歴史上の人物で人気が高い織田信長。それまでの既成概念を取り払い、新たな秩序を見出した「覇者」とも呼ばれているが、残虐非道の行為から「魔王」とも言われた。「魔王・織田信長」は相次ぐ裏切りによって形成されていったとも言われ、特に、妹・お市の方が嫁いだ浅井家の裏切りが変貌させたともされている。そのなかで、彼の生い立ちが影響しているのではないか、とするのが7日放送されたNHK大河ドラマ『麒麟がくる』だった。

 『麒麟がくる』では、幼き頃から実母に愛されてこなかった自身を憂うシーンがあった。常識を外れた者を指す「うつけ者」しかも「大うつけ者」と周囲から揶揄されていた信長。父・織田信秀はその力を高く評価し織田家を継がせるも厳しく当たっていたことから、信長自身は「認めてもらえていない」とも思っていたそうだ。織田家の当主となった信長は信秀亡き後、何度も裏切りにあう。弟の信勝(信行)も謀反を企てた。その結末は信長が信勝を誘殺。

 7日放送回「決戦!桶狭間」では、最大の脅威でもあった今川家との戦いで、大名・今川義元の首を討ち取る大金星を挙げた織田家。その帰途、明智光秀に会い“家族”に愛されてこなかった自身の境遇を憂い、そして妻・帰蝶を母のように慕う胸中が明かされた。その後の信長をどのように描くは今のところ不明だが、おそらく浅井家の裏切りが一つの転機になるだろう。

 親に愛されてこなかった信長――、一人の人物を通して映すのは現代。『麒麟がくる』が信長を通して伝えたかったのは、昔も今も変わらず、家族あるいは仲間の愛情が大切であるということなのではないか。信長だけでなく、父・斎藤道三を討った斎藤義龍も親子のすれ違いが描かれている。あくまでも直接的な表現で示していないが、一人の男の人生を描くことで、伝えようとしている気がする。

これまでとは違う“染谷信長”

 ところで、織田信長演じる染谷将太だが、これまでの信長は、勇ましくどっしり構えている人物として描かれることが多かった。そのため小柄な染谷“信長”に一瞬の違和感を覚えた。しかしさすがは名役者。何かを企んでいそうなその雰囲気や達観していそうな目つき、一瞬見せる冷酷な表情に信長を見た。染谷ならではの信長を作り上げ、怪演している。

 その染谷は同番組のサイトで「織田信長はとてもピュアな男です。ピュアだからこそ感情の起伏が激しく、ピュアさゆえに孤独になっていく」とその印象を明かしている。

 その信長が、今川軍の侵攻を受けるなかで清須城でうたった幸若舞「敦盛」。「人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり」という節だが、信長が描かれるドラマでは必ず登場すると言ってもいいシーンで見せ場だ。ここでも染谷なりに表現。毅然たる、よりも不安な胸中がのぞく。

 これについて染谷は同サイトで「芸能指導の先生と練習を重ね、『麒麟がくる』バージョンの『敦盛』をうたっているので楽しみにしていただけたらうれしいです」と語っている。『麒麟がくる』の信長はあくまで7日放送回までは、身近な存在として描かれている。

 ちなみに、音楽を担当したのは作曲家のジョン・グラム氏。劇中歌のひとつ「美濃の里〜母なる大地〜」の歌詞を担当したのは堀澤麻衣子。「戦国時代の英傑たちがひとときの安らぎを感じられるように」との想いを込めたという。

筆者紹介

木村武雄 書く人、撮る人。新聞社を経て現職。昨夏、音楽班からエンタメ班に。

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