阿部真央「リミッターを外した“行き切った”表現」求める理想像とは
INTERVIEW

阿部真央「リミッターを外した“行き切った”表現」求める理想像とは


記者:村上順一

撮影:

掲載:20年01月31日

読了時間:約15分

これが私の歌の在り方なんだ

阿部真央

――さて、9枚目のアルバム『まだいけます』が完成しましたが、このタイトルを見たときに全部ひらがなというのが、1stアルバムの『ふりぃ』や6thアルバム『おっぱじめ!』など彷彿とさせたのですが、原点回帰というのは意識された部分も?

 作っている最中は全然考えていませんでした。でも、タイトルを決める時の軽やかさ、こうでなければいけないという縛りのない感じ、収録曲1曲1曲に対するモチベーション、ただただ楽しむ感じというのは、今思い返すと近い感じがあったなと思います。

――アルバムの最後に弾き語りが入っているアルバムが多いのですが、そこはこだわりですか。

 こだわりというほどではないんですけど、入れておかなきゃという感じです(笑)。なので一応作ってみるんです。

――弾き語りの曲はいつも一発録りなんですか。

 今回の「おもしろい彼氏 」は一発録りなんですけど、これまでの楽曲は歌とギターは分けて、ちゃんとクリックを使ってギターを録ってから、歌を入れていました。それは、メジャーデビューしているアーティストとして失敗してはいけないというところから来ていたと思います。一発録りは弾き語りツアーが影響していてすごくツアーが好評だったんですけど、なぜ好評だったのかを分析してみまして。

――どんな答えが出たんですか。

 もともと私はシンガーになりたかったので、ギターを弾くというところにはあまり興味がなかったし、曲を書いてそれを表現したかったというわけでもなくて…。歌が主軸だったんですけど、シンガーのオーディションを受け続けたけどダメで。ピアノからギターに変えて、アヴリル・ラヴィーンのように歌いたいと思って、歌を聴いてもらいたいがためにギターを始めたんです。

――ギターはあくまで歌を聴かせる手段だったんですね。

 そうなんです。レコーディングだとリズムを先に録って、それに合わせて歌を入れて、ライブでも同期でクリックを流してそれに合わせて歌うことが多いじゃないですか。それが当たり前になってしまって、歌が主軸だという事を忘れてしまっていたんです。弾き語りツアーをやった事でテンポが変わろうが、私が歌いたいように歌えていればそれで良いんだってわかりました。これが私の歌の在り方なんだって。

――改めて気づいて。

 はい。なので、弾き語りの曲は一発録りになりましたし、バンドとやった曲もそのスタンスが生きていると思います。今までは歌は別の日に録っていたんですけど、リズムの制作段階で一度歌わせてもらったり、その場のライブ感を意識してやりました。そういう意味で歌を主軸にするという原点回帰はありました。

――この曲の最後に「出来た!」と声が入っていますが、これは一発録りが出来たという意味だったんですね。

 そうです。もう何回も間違えちゃって(笑)。これは3テイク目で1回目も2回目も同じところで間違えちゃって。

――そうだったんですね。1曲目の「dark side」も一発で。

 はい。「dark side」を先に録りました。別の日にエンジニアさんも違う人で「おもしろい彼氏」を録ったんです。「おもしろい彼氏」はデモみたいなラフな感じにして欲しいとお願いしたので、同じ弾き語りでも音が全然違うんです。

――弾き語りの曲を1曲目に持ってくるのは初めてなんじゃないですか。今までの流れだったら「お前が求める私なんか全部壊してやる」をオープニングに持って来ていたんじゃないかなと。

 まさに「お前が〜」を1曲目にしようと思っていました。そうしたかったんですけど、曲順を決める時に「dark side」の居場所がなくて。みんなも弾き語りツアーを良いと言ってくれていたし、「dark side」が1曲目でもいいかって(笑)。曲順を決めるのも昔みたいな軽やかさがありました。

――ちなみに「dark side」は『スター・ウォーズ』は関係していないですよね?

 関係していないです(笑)。実はアルバムのタイトルは最初「dark side」にしようと思っていました。それで、11月頃にスタッフさんから「このタイトルで発表しますけど良いんですよね?」と最終確認された時に、「『dark side』は普通だからやめます」と伝えて『まだいけます』に変えたんです。でも、『スター・ウォーズ』の最新作が公開される事を私は知らなくて、もし知っていたら「dark side」のままだったんじゃないかなと思います(笑)。

――そうだったんですね(笑)。あと、「今夜は眠るまで」は6分の大曲ですが、割と他の曲は3分弱ぐらいだったり、コンパクトな曲が多いですけど、これは海外のトレンドを取り入れたり?

 全然考えていないです。基本的に長い曲が苦手なんです。アヴリル・ラヴィーンが好きなんですけど、アヴリルも3枚目のアルバムまでは割と短い曲が多いんです。その影響もあるのかなと思います。

――ということは逆に「今夜は眠るまで」が珍しい。

 珍しいです。この曲はアレンジで聴ける曲になったなと思っています。アレンジがちゃんとしていないとライブで歌っても萎えちゃうんです。4分でも長いと感じる私からしたら、6分は相当長いんですけど、笹路正徳さんのアレンジが美しいので、逆に聴いていたいと思わせてくれるんです。デモも同じくらいの長さがあったので、アレンジをしてもらうまではなかなか退屈で(笑)。実は私、あまりこういうタイプの曲は興味がないんです。

――えっ、そうなんですか。

 4曲ぐらい同時にプリプロをしていたんですけど、その中では1番普通の曲で、それ以外にお気に入りの曲が沢山あったので。ディレクターさんが「今夜は眠るまで」は良い曲だと推してくれたので、リード曲の一つとして先に配信させて頂いたんですけど。バラードは聴くのもそんなに好きじゃないんです。

――「側にいて」など阿部さんのバラードで良い曲いっぱいありますけど。

 そう言ってもらえるんですけど、自分ではよくわかってなくて。歌いやすいからかなとか思ってるんですけど。「側にいて」は歌うのが簡単なんです。

――そんなことはないと思いますよ(笑)。さて、「お前が求める私なんか全部壊してやる」はアグレッシブでライブでも楽しみな一曲ですが、タイトルにあるような心境だったのでしょうか。

 これは常に私の中にある感情で、マグマのように下でうずいている気持ちなんです。ずっと何かに不満がある、ちょっと子どもっぽい部分で、それが普段は顔を出さないだけなんです。メロディと歌詞が一緒に出来て、これはカッコいいかもなと思って、ちょっと放置していました。サビはすぐに出来たんですけど、AメロとBメロがなかなか出来なくて。特にAメロが苦戦して、Bメロは事務所の駐車場に車を止めている時に浮かんできました。常に良いメロディないかなと考えているんですよね。ふとした時に思いつくんです。

――この歌詞を読むと理想像を求められるというのは辛いなと感じます。

 もうこれは永遠のテーマだと思います。特に表に出てしまっている人はイメージを持たれる仕事でもあるので。逆にイメージを持っていてもらえる方が楽なこともありますから。でも、私の場合は決め付けられるということに耐えられない、それは自分だけじゃなく他人に対してもそうなんです。それを今回楽しく曲に落とし込んでみました。

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