映画とは何か、周防監督が語る「カツベン!」の意義×成田凌が明かす舞台裏
INTERVIEW

映画とは何か、周防監督が語る「カツベン!」の意義×成田凌が明かす舞台裏


記者:木村武雄

撮影:

掲載:19年12月21日

読了時間:約12分

『カツベン!』を制作する意義、「映画」の定義が揺らいでいる

――活動弁士は、ナレーターや声優など様々な要素を含んだ職業だという話ですが、実際にやってみたいものはありますか?

成田凌 役者はもちろんですが、活動弁士はやりたいです。当時、どちらもやっていた方はいらしたんですか?

周防監督 活動弁士を辞めて、役者になった人もいた。徳川夢声さんは作家でもあったし、最初のマルチタレントと言われているような人で、辞めた後も喋りで自分の道を切り開いた。作家としての評価も高くて、尚且つ俳優でもあった。大辻司郎さんは、語りのユーモアを生かして漫談家になった。

成田凌 そうなんですね。僕も芝居ではあったけど人前で喋ったときのあの感覚が良くて。

周防監督 ライブパフォーマーだから、役者に近いと思うよ。

成田凌 この時代に生きていたら活動弁士にもなってみたいです。

成田凌

成田凌

――当時からすると活動写真は時代の最先端だったんですよね。

周防監督 写真が動いているだけでもびっくりした時代ですからね。それまでは静止画でしたが動画となり、普段見ている人や機械の動きや風景がスクリーンに映し出されるだけで大満足。やがて、チャップリンやキートンが出てきて、観客の想像を超えるアクションを作り出した。観客は、それをただただ浴びるように観て楽しんでいた。作る方も、まだ映画というものがよく分からずにやっていて、フィルムで撮って、それを投影して見せる機械がある、そのシネマトグラフと言われる機械を使ってどう表現していくのか。いや、最初はまだ表現というより、「現実をコピーする」だけだった。まだ映画は物語を見せてくれるものではなかった。エドウィン・S・ポーターという人が『大列車強盗』というのを作ったのが初めての西部劇。それが初期の「物語映画」だった。それはもう驚きですよ。映画が単なる見世物から「物語」を見せてくれるようになったんだから。当時の最先端の技術で思考錯誤して、今は今の最先端の技術の中で思考錯誤して、映画を作っている。だから、やっていること実は昔も今も同じ。違うのは、今は映画が100年を超える歴史の中で、文化として確立されていること。当時はまだ最新の見世物にすぎなかったんだから。

――今の時代に必要なものはありますか?

周防監督 僕は映画ファンだからずっと作品を観ている。そのなかで何が快感かというと、自分のそれまでの価値観を壊してくれたり、揺さぶられたりされること。写真が動くという価値観の転換じゃなくて、自分の世界観がその映画によって揺るがされてしまう。ひっくり返ってしまうというのが、映画の持つ力だと思っています。みんなが驚くような映像を観せることより、みんなが驚くような価値観を突きつける。そういうのが僕にとっての映画表現でもある。今ある技術革新が僕のこれからの映画作りにどう作用するのかは分からない。実は今回初めてデジタルで撮りましたが、こんなに簡単に映ってはいけないものを消せるんだ、後処理がこんなにも簡単なんだと思いましたよ(笑)。

――この時代に「カツベン!」を制作する意義みたいなものは?

周防監督 今の時代、「映画」の定義は崩れ去ってしまった。リュミエール兄弟が映画の父と言われるのは、フィルムで撮影してそれをスクリーンに大きく投影して、不特定多数の人と一緒に観るという彼らの上映システムを「映画」と呼んだから。デジタル配信ができるようになってスマホの画面を観るのも「映画を見る」ということになってしまうと、「映画」の定義が揺らがざるをえない。100年以上の歴史を刻んできた「映画」とは何か、というのが揺らいでいるからこそ、映画がどんなふうに始まったのか、というのを伝える必要があるのではないかと思いました。少なくとも日本では、動画という文化が入ってきた時に生身の人間の語りというものが付いていた。それが30年も続いたが、今では映画を支えてきた活動弁士という存在がほとんど忘れられている。やはりそれは悲しい。彼らが映像文化を支えていた時代は確かにあったのだから。そのことをみんなに知ってほしいと思いました。今やらないと「映画とは何か」ということがますます分からなくなってくると思う。もっと後になると、その時流通している「動画」が今の「映画」という枠を押し広げすぎてしまって、その時に『カツベン!』を撮っても、その時代の映画とは結びつかないものになってしまうかもしれない。今ならかろうじて…映画館などのイメージもみんなの中にあるこのタイミングが、最後チャンスかもしれないと思いました。

周防正行監督

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成田凌
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