アルカラ「あなた自身の中になりたい」共有する強い想いが生み出す新たな音
INTERVIEW

アルカラ「あなた自身の中になりたい」共有する強い想いが生み出す新たな音


記者:平吉賢治

撮影:

掲載:19年12月11日

読了時間:約14分

いままでとはちょっと違うアルバム制作

――アルカラのアルバムは1stから8曲入りが続いて前作は13曲入り、そして8曲入りに戻りましたが、この意図は?

稲村太佑 アルカラを表現するのにバランスがいいんです。1曲1曲キャラが濃いなと思っていて。味が濃いという意味だと、あまり曲を入れちゃうと味が氾濫するというか。

下上貴弘 やっぱり8曲がいいですね。そう言ってくれる人もいるし。

――なるほど。アルバムの話からはそれますが、アルカラのチューニングが特徴的だと感じました。

稲村太佑 チューニングは半音下げています。普通のチューニングだと「みんなその音使いまくってるやん」と思って。半音下げるとハードロックを感じるというか。わからないですけど血がそう言うので(笑)。

――確かに半音下げチューニング特有の味というか。それでは今作で変化をつけた点は?

疋田武史 昔のアルバムはセッションをしながら作り上げていく感じだったんです。今作は太佑が中心になって、送られてきた打ち込みを膨らませていくという、いままでとは違う形です。だから僕のなかにないフレーズが多々あったのを僕なりに昇華していったという感じです。「太佑のなかではこういうリズムが鳴ってたんや」という感じで。そこからアルカラらしさ、自分らしさをどう出していこうかという風に作りました。

下上貴弘 僕が今回変化をつけた点としては、レコーディングで1960年製のプレジションベースを使いました。それで良い音になってたらな、という感覚はあります。

稲村太佑 曲を作る上ではみんなで「せーの」でやるほうが早かったんですけど、ある程度こっちで青写真を提示しないと進めづらいというのも正直あったんです。昔は全パート考えて「自分の世界」みたいな作りかただったけど、だんだん自分が考えるよりみんながサッと弾いてくれたほうが話が早くなったんです。でも、もう一回自分に鳴っている音を全部、というのに立ち直ってみようかなと。打ち込みである程度の設計図は作れるじゃないですか? 今回はそれを分解していくと面白くて。音楽ってそれぞれのパートに神様みたいなのがいると思って、それは縦軸にもいるなと思ったんです。

――新たな軸の発見があった?

稲村太佑 例えば、遅いテンポにして聴いた時に「やたら気になるな」と感じる拍があったりするんです。

――そこが新たに気づいた縦軸?

稲村太佑 そうです。テンポ200で聴いた3拍目が、テンポ50の時は別な感覚で感じたり。それを細かく見ました。すると「こっちのほうが面白いんじゃないかな」と。あと、打ち込みで設計図を作るからPCの操作的にずれる時があるんです。本当はC♯の音のつもりがD♯にいっちゃった、みたいな。でも「これのほうがええやん!」という、そういう導きが凄く面白くて。

――いつ頃からそういった制作の手法を?

稲村太佑 今回からです。Logic(音楽制作ソフト)でまずやって。Logicは入っているソフトの音源が独特で、それをバンドに切り替えた時に全く違うものになるので、またそこで発見があるんです。納品できるくらいまでやってしまうと、どうしてもそこを追ってしまうレコーディングになるので、一旦バンドでやって、そこからプリプロという形でみんなでやります。打ち込みの設計図だから現実的に弾けない内容もあるんです。それを実際に彼らのなかで解釈してくれて、より現実的なものに変えてくれるんです。

――今作で制作方法がガラッと変わったのですね。

稲村太佑 僕のなかでは変わっています。

下上貴弘 僕はベースを変えました。

稲村太佑 ライブでは出てこんかもしれんけどな(笑)。

下上貴弘 怖いからね(笑)。

――1960年製のビンテージベースでのプレイ観てみたいです(笑)。デモを渡されて最初どう思いましたか?

下上貴弘 なんか「大変やな」と思って。難解でしたね。

稲村太佑 謎に和音が多かったりな(笑)。

下上貴弘 2、3和音くらいずっと鳴っているところがあって。ベースパートなのに。「どうやって弾くねん!」と。絶対に再現不可能な和音が鳴ってるんですよ。

稲村太佑 指5本ずつじゃ足らんよな(笑)。

下上貴弘 今回は打ち込みだから何和音でもやりたい放題なんですよ。

稲村太佑 前まではどこの馬の骨か知らんアメリカ製のベースで自分で弾いてたんです。それを膨らませてもらうのがいままでだったんですけど、打ち込みでやると「可能性無限やん」と思って。あとはそれをいかに人間っぽく戻すかという。

下上貴弘 そこは僕、評価されてもいいと思いますよ。元のデータを弾くのは不可能ですけど、あれを僕は頑張って弾いたぞと言いたいです。

稲村太佑 あれをちゃんと弾けるパートに変えたわけやからな(笑)。

――それこそベースラインだと「猫にヴァイオリン」のAメロなど、印象的なのが多いです。

下上貴弘 あれは指がちぎれるかと思いました。

稲村太佑 「弾けるんやろな?」と思ってたら「フィジカル的にギリギリや」という空気がレコーディング初日から出ていて「これ、間に合うのか?」って(笑)。

下上貴弘 これは全然行けんなと思って。いまでもギリギリですから。打ち込みのデータを渡された日からずっと右手はまだ鍛えてますから。

――どんな打ち込みデータを渡したんですか(笑)。

稲村太佑 「これくらいできるやろ」と思って。そうしたら技術じゃなくてフィジカル的な問題が(笑)。

――しかし仕上りは素晴らしいベースパートで。ビート面でもそういった部分はありましたか?

疋田武史 フィジカル面では「TSUKIYO NO UTAGE」のサビのツインペダルで5発という部分です。ツインペダルを始めたのは最近なのにいきなり5発、しかもサビの大事なところで入ってくるという。16分で5発なんです。

――その曲のテンポだと相当難しいのでは?

疋田武史 めちゃめちゃ難しいです。僕もいまだにそこを練習してるんです(笑)。

下上貴弘 僕がベースの和音で混乱したのもこの「TSUKIYO NO UTAGE」なんです。

稲村太佑 この曲は最初に作ったんです。1曲目にしたいと思って作ったんですけど5曲目にして。

下上貴弘 仮タイトルは「1曲目の曲」と送られてきたんです。

――今作には色んな秘話がありますね。「くたびれコッコちゃん」の歌詞は実体験?

稲村太佑 そうですね。僕はこういう、どうってことないところにグッとくるんです。そのへんを拾い上げるのが僕らの仕事だなと。何が正統派なのかわからないんですけど、僕の場合の正統派がこれなので。大きなことを歌いながら目の前のことを歌うのが僕は一番グッとくるんです。この曲はニワトリのぬいぐるみの曲なんですけど、小さい頃に大事にしていた物が捨てられないというのはあると思うんです。

 それをただ「捨てるのがさみしいな」というだけでは面白くないので、それをいかに笑いあり涙ありというようにニワトリ目線で書くことによって、捨てることにマイナスなイメージを持たず、捨てるのを戸惑うことが「次に進めないんだよ」という、そういう歌にもっていければみんなが救われると思ったんです。そういう、日常や昔の体験がなんとなく残っていることって歌になるんだなと思って。

――そういった点は文学的だと感じます。「くたびれコッコちゃん」の歌詞と似た体験があるので共感しました。

稲村太佑 こういうのって生きることに対して大事なことだと思うんです。物にちゃんと捨てるとか、お別れを言うとか。そういう精神世界を歌えればこんな教科書はないよなって思いながら。それが歌えるバンドであれたらいいなと思っています。

この記事の写真

記事タグ 

コメントを書く(ユーザー登録不要)

関連する記事