吉田山田「10周年のむこうが見たい」デビュー10年を経て見える新たな未来
INTERVIEW

吉田山田「10周年のむこうが見たい」デビュー10年を経て見える新たな未来


記者:平吉賢治

撮影:

掲載:19年11月13日

読了時間:約13分

「ありのままの自分達の命の証」

山田義孝

――今作『証命』のタイトルに込めた想いは?

吉田結威 タイトルは、ほとんど曲が出揃ったなかで考え始めたんです。というのも、最初に何かテーマを決めて作り始めるのではなくて、この『証命』までの3作というのは、リアルタイムでいまの自分達の一番熱い気持ちをタイトルにと、だからあえて最後のほうに決めたタイトルです。10年間活動しているなかで、人に届く応援歌だったり、人を励ます曲みたいな曲を作りたくて音楽活動を始めたんですけど、本当の意味でそれをするためには、自分達のことをよく知って、自分達がこの命を使って、本当にどういうことが歌いたいのか知らないとできないということに気付いたんです。約3年前から創作活動をしてきたんですけど、その総括として、ありのままの自分達の命の証として、この作品を作り上げたということでこのタイトルにしました。

――本作はどんな心境で制作に臨まれましたか?

山田義孝 3年前から10周年をどう締めくくるかということを考えていて。僕らのなかでは3部作で完結という風に考えながら進んでいったんですけど、やっぱり2作目が終わったときに、凄くいいものが出来たし、これ以上のものを作り上げていくことに対するプレッシャーもあったんです。最初この『証命』というタイトルになる前、ぼんやりとまだ仮タイトルの段階で“遺書”というのを付けたんです。それくらい自分達のなかである種のタイムリミットを設けて、10周年で吉田山田をひとつ完結させたいという想いがあったんです。

 ちゃんと後悔のないように、そこまでに全てを吐き出すということを考えながら作っていたので、内容も自分自身の独白だったり生い立ちを歌ったりと、本当は人に聴かせたくないような想いも、「伝えたい」というよりも「残したい」という想いが凄く強かったので、そういう作品もたくさんあるんです。制作のなかで意識的なのか無意識か自分でもわからないんですけど、この先を見据えてまだまだ新たな世界を見てみたいという想いが形になったので、完成した今では10周年の終わりの曲でもあり、始まりのアルバムにもなったと思っていたので、ひとつ何かを残すということだけじゃなくて、この先の光も入っているアルバムになっています。

――本作で特に思い入れのある曲はありますか?

吉田結威 そういう風に3年間、ちょっといままでとは違うスタイルで曲を作るなかで、2人のなかでの作りかたも変わったんです。お互いが良いと思う意見を言い合うのではなくて、例えば山田のデモに対して「僕がこうするほうが好きだな」という意見ではなくて「山田って本当はそうじゃなくて、こういうことが言いたいんじゃないの?」という言いかたになったんです。だから表記は吉田山田になっていますけど、ほとんど山田の世界なんですよね。でも作っているとだんだん自分のことがわからなくなってくる瞬間があって、そういうときに「山田ってこういうところがあるし、本当はこういうことが歌いたいんじゃないの?」って、「もうちょっとここはこうして考えてみたら?」みたいなことなんです。それって、アドバイスじゃなくてカウンセリングに近くて。今回はそういう風に作っていった曲が多いと思っています。「ハミングアウト」、「君へ」、「運命」もそうですし。

――「ハミングアウト」はとても深いメッセージが込められているように感じました。

山田義孝 この曲に関しては内容が内容なだけに、歌い上げる曲ではなくて、思わず出てしまった独り言に少しだけメロディをつけるというくらいで歌ったんです。本当は人に教えたくない気持ちというか。僕はけっこう「この曲はシングルっぽいな、アルバムっぽいな」とか考えずに、どんどん種を作りためていくんです。とにかく形にするということをずっと続けていて。だからこの曲に関しては、正しいことを選べずに生きていた部分もあるので、そういう感情もちゃんと形にしたいという思いもあります。

 これは僕が作ったんですけど、こういう機会でなければアルバムに入れられなかったかもしれないなと思う1曲です。音楽に救われて、音楽があるから、もちろん今の自分があるんですけど、聴かせたくない要素もあるので凄く複雑なんです。でも2人組だからこそどちらかがそれを引っ張り上げて、「これはアルバムに入れるべきだよ」と言ってくれる人がいて。そういう部分でもし自分一人で完結させようとしていたら、アルバムには入れてなかったかもしれません。

――アルバム全体としての想いは1曲目の「証命」に強く表れている?

吉田結威 そうですね。一番テーマをわかりやすく歌った歌ではあるんですけど、人間って喜怒哀楽で言うなら、どれかだけの時ってないと思うんです。凄く楽しいんだけど、どこか寂しかったり。凄く悲しいんだけどそんな自分を楽しんでいるところがあったり。人間の感情というのは複雑で、そのひとつの色に特化した曲というのも凄く必要で。楽しいときにより楽しくなれる曲とか、悲しいときにより泣ける曲とか。それは大事なんですけど、今の僕らはリアルなところを描きたいというのが一貫してあって、制作していく中で「リアルじゃないよね」というのがよく会話に出てきたんです。

 「こんなにずっと明るい人はいないし」とか「こんなにずっと考えている人もいないし」とか。全ての曲に極端ではなく、人間の心の中にあるリアルな感情として思い描ける歌詞にしようというところは全ての曲に言えますけど、それは「証命」に特化している部分ではないのですが、「証命」は唯一ちょっと僕らの今の意思が本当にストレートに描かれていて、ミュージシャンとしての部分が描かれているかなと。「ハミングアウト」とかは山田個人の心の中をリアルに描いた作品なんですけど、「証命」は吉田だけでも山田だけでもなく、吉田山田としてのいまを描いた曲という感じです。

――人間のリアルな感情が全体に描かれたなかで、表題曲ではいまの吉田山田さんが描かれた楽曲なのですね。ボーナストラック「涙のむこう」はどのようにして出来た楽曲でしょうか?

山田義孝 この曲を作り始めたきっかけは、僕は『はじめてのおつかい』という番組が大好きで、それに凄く素敵な回があったんです。お母さんが子供を凄く甘やかせて育てていて、女の子が泣いたら「いいよいいよ」ってすぐ許してあげちゃうようなお母さんなんですけど、その時はやっぱり泣いておつかいに行けずに帰ってきちゃったんです。でもお母さんが突き放すように「行きなさい」とおつかいに行かせたんですけど、陰で泣きながら「あの子には涙の向こうを見せてあげたいの」って。その言葉が凄く残っていて、だからそのストーリーを曲で作りたいなと思ったんです。お母さんとして凄く勇気がいる瞬間だったなと。母親も子供もその瞬間に違う勇気の出しかたをしていたんだなと思ったんです。凄く胸に刺さった言葉だから、これはきっと職業や年齢や性別関わらず大事な言葉だなと思いました。

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