山中千尋「ジャズはアメリカの相撲」過去に誠実な新作とSNS時代の音楽語る
INTERVIEW

山中千尋「ジャズはアメリカの相撲」過去に誠実な新作とSNS時代の音楽語る


記者:小池直也

撮影:

掲載:19年06月26日

読了時間:約11分

ジャズは日本でいえば、相撲

山中千尋

――実際に彼と会ったことはあります?

 はい。私がお会いした時は「ここの(コード)チェンジはこうした方がいいよ」と、本に書いてあるコード進行を直してくれる優しい方でした。あとは理想が高い方だったようで、演奏のことになると少し言葉が荒くなるところもあったと聞いたことがあります。

 彼自身は「個性なんていらない。ビル・エヴァンスみたいに弾ければ、それでいいじゃないか」という確固たる信念があったとか。ニューヨークでは思うように活動できなかった葛藤もあったかもしれません。ボストンにいた頃、訃報とラジオから流れる彼の音を聴いて悲しかったのを覚えています。

――老舗レーベルである、ブルーノート・レコードの創立80周年をトリビュートされたことことについても教えてください。

 一番有名な「ブルー・マイナー」「スイート・ラヴ・オブ・マイン」を入れました。両方とも「私のマイ・ファースト・ブルーノート」と言える、大好きな曲です。

 現代は「何がジャズなの?」と訊かれても、誰にも分かりません。そんななかで現在のブルーノートは、過去のフォーマットにとらわれない方向性を打ち出しています。今一番面白いものをアーカイブできて、メインストリームを作り変えるくらいの影響力を持つレーベルじゃないでしょうか。

 今なにがヒップか知りたければ、ブルーノートの一番新しいレコーディングを聴けばいいし、過去が知りければ当時の録音を聴けばいい。それだけジャズという音楽を生きた音楽として、ドキュメントしていると思います。

――先日、サックス奏者のブランフォード・マルサリスが「ロバート・グラスパー、カマシ・ワシントン(サックス奏者)はジャズじゃない」と発言し、議論になりました。ヒップホップをはじめとした、現代の音楽とジャズを垣根なく演奏することに対して、アメリカでもさまざまな意見があるようです。

 定期的に「ジャズとは何か?」を話しましょう、という雰囲気になるのは大事。ジャズって、日本で言えば相撲みたいなものなんです。それなのに国民全体でジャズファンはほんの一部ですからね。「アメリカってなんだ?」という質問に「ジャズだ」と返答できるくらいの文化だと思いますので、もっと大切にしてほしいです。

――よろしければ、山中さんのジャズ観も教えていただけますか。

 私の立場として言えば、ジャズとは変わっていくものです。その人が認めると認めざるとに関わらず、おそらくグラスパーやカマシの音楽が今のジャズなんですよ。実際にジャズとして支持されているわけですから、やる人もジャズだと思って弾けば、それはジャズなんです。それを定義する特権階級は存在しない。ブランフォードさんの演奏は大好きですけど、SNSで情報が広まっていくかぎり、オーディエンスも変わっていく。これはもう仕方のないことです。

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