全力で音楽の神様を追いかけたい
――「長い夜」は、株式会社三昭堂のTVCM『あなたでいる篇』イメージソング。CMには、植田さんが部屋で歌っているシーンがありましたね。
東海地区で放送されたCMで、部屋で刺繍していたり、ハーブティーを入れて飲んでいるシーンなど、撮影させていただきました。おしゃれでゆったりした空間で、こういうお部屋はいいなって憧れましたね。
――植田さんの部屋は、どんな部屋なんですか?
え? うちですか? まったくあんな感じではありませんよ。遊びにきた友だちからは、「初めてきた感じがしない」とよく言われます。きっと実家っぽいんじゃないですかね(笑)。
――でも、そういう居心地の良さも大切ですよね。この曲は、どんなメージで作られたのですか?
もともと、私が20歳になる前に書いた曲なんです。当時映像の専門学校に通っていた友だちが、『長い夜』という映画を卒業制作で作るという話を聞いて。その頃の私は、どんなテーマでもきっかけがあれば作るぞ! と思っていたので、その映画を観て書いた曲です。まだ18、19歳で、いつか自分の曲が映画のタイアップになったらいいな~みたいな夢を思い描いて。“ごっこ遊び”じゃないけど、そういうタイアップの体(てい)で作った曲でした。
――曲は、夜から徐々に夜明けになっていく雰囲気があります。夜明けがメジャーデビューだとしたら、長い夜はインディーズ時代のこととも言えるのかなと思いました。
うまいことを言っていただいて、ありがとうございます(笑)。実際に映画主題歌として書かせていただいた「灯」と、映画主題歌に憧れて疑似的に作ったこの「長い夜」が、1枚の作品に並んで収録されているのは、面白いし感慨深いなって思いますね。
――ちなみに、友だちが作った『長い夜』という映画は、どういう内容だったんですか?
とても短くて、抽象的だったんですけど…。夢の中で知らない女の子と出会って不思議なことがあり、その夢によって、子ども時代の辛かったことや自分の心にしまい込んでいたことを自覚させられて目が醒める。という内容でした。学生の卒業制作なので、もう観られないですけど。
――約10年前に作った曲が、CMに使われることになったのは、どういう経緯があったんですか?
先方からバラードがいいというお話で、何曲か提出したうちの1曲で、これを選んでいただきました。でも学生時代に作った曲だから、もちろん不安はありました。新しく書き下ろすつもりでいたのですが、先方の方が「長い夜」をとても気に入ってくださっていたので、そのイメージが合うならば何よりだと思いました。選んでくださった方が、心で音楽を聴いてくださっているのがとても伝わってくるやりとりをさせて頂いたので、それも嬉しかったんです。
――最後に「ひねもす」という曲があります。タイトルは、「終日」という意味ですね。
「(春の海)ひねもす、のたりのたりかな」のひねもすです。昔学校で習った記憶が、うっすらあります。(笑) これもアルバムのための書き下ろしではないんですが、『W.A.H.』を作りながら、以前作った「ひねもす」という曲があったなと思い出して、入れようと思ったんです。
――いつくらいに作ったのですか?
3年ほど前に作ったんですけど…日頃から友だちがうちに集まって、遊びで曲を作ったり歌を歌ったりしているんです。歌がうまかったり、いい声だったりする子が不思議と周りに多いんです。それで、女声三声が合わさった綺麗なハーモニーの歌があったらいいなと思いながら、特にテーマはなく春っぽいイメージで作っていたものなんです。
――何と言うか、春の日だまりの中でゴロゴロしていてもいいよね、みたいな歌ですよね。
すばらしく良い感じでとらえていただいて、ありがとうございます(笑)。これは『F.A.R.』のテーマにも通じるんですけど、『F.A.R.』は、何事にも終わりがあることに気づいて、終わりがあることを意識して大人として成長していくことを歌いました。この「ひねもす」も、今になって思うと、いつか終わりがくるという意識が強まって書いていたのかなって思います。「ひねもす」という言葉は、「終日」「一日いっぱい」という意味もありますけど、どちらかというと私は、めいっぱいたくさんというよりは、限りがあるからこそひねもすと付けたのかなと思います。この日一日いっぱいだけ、めいっぱい一緒に過ごせるような。
――<ひねもすの花が咲く>と歌詞に出てきています。ひねもすという花もありそうですが、実際にはないですよね。
ないですね(笑)。自分の欲求のままに書いた曲で、歌詞を説明することを想定していないので、上手く説明できないんです。特にメジャーになって以降は、自分の中で勝手に制限をかけてしまっている部分があるのですが、この曲は人の目を意識せずに書いている。つまり、普段シングル曲を作る時には出てこない言葉で書かれている。そういう意味では、「ただアートしたい」という、今の私が大事にしていることと通じる曲です。
これは作品全体に言えることですが、何も考えず聴ける、ただ心地良いと思える曲を作りたい気持ちが今はすごく強いんです。その上で、聴いてくださる方の日常に寄り添ってもらえる1枚になったらいいなと思っています。もちろん、いくらでも好きなように深読みをしていただいても大丈夫です。もし面白い解釈があったら、ぜひお手紙で送ってほしいです。
――メジャーデビュー5周年ということですが、5年間、誰から何を言われようとも守ってきたこと、大事なものは何ですか?
無自覚なので、本当はすごくたくさんあると思うんですけど。でも意識していることは、植田真梨恵は、みなさんと同じように日々を生きている中で、歌が好きだから、みなさんに歌でお届けしているということ。とにかく今私が、生きていて抱えていることを、しっかり歌にして届けていくことが大事だなと思ってやってきました。だから私の音楽は、エンターテインメントではなく、もしかするとフォークに近いのかもしれません。「植田真梨恵もこう歌っているから、今日も頑張ろう」くらいのパワーの届け方ができたらいいなと思っています。なるべくリアリティを持って届けられるものが作れるように意識して。脳みそを停止させず、ちゃんと考えて心で感じて、丁寧に紡いで届けていきたいです!
――変な質問ですけど、自分の曲は好きですか?
好きな曲もありますよ。とびきり好きな曲もありますし。嫌いということはないです。ただ、今はあまり共感しないなという曲もありますけど、そういう曲でもまた共感する日がきっとくるし。
――その日、その時、その瞬間、“旬感”を大事に、自分に嘘を付かずに音楽を作っているからこそなんでしょうね。
はい。全力で音楽の神様を追いかけていきたい。いっぱい曲を聴いて、これまでよりもさらにいっぱい曲を届けていきたいというのが、5周年時点での植田真梨恵です。
――5月には、ツアー『植田真梨恵 LIVE TOUR 2019 [F.A.R. / W.A.H.]』を開催します。
久しぶりのバンド編成でのツアーで、全国9カ所を回らせていただきます。なるべく心地良い空気が空間を満たせるようにしたいです。今まで使わなかった楽器なども持って行く予定です。これまでの植田真梨恵のバンドツアーともまた違う質感のものになると思います。羽が生えたみたいに自由でのびのびした優しい、心地よいツアーになると思います。まだ自分でも、始まってみないとわからないこと満載で、未体験ゾーンに突入するんだなーという予感がひしひしとしているので、なおさら、絶対にいいツアーにしたいなと気合が入っています。楽しみにしていてください!
(おわり)