植田真梨恵「全力で音楽の神様を追いかけていきたい」創作的意欲の源泉とは
INTERVIEW

植田真梨恵「全力で音楽の神様を追いかけていきたい」創作的意欲の源泉とは


記者:榑林史章

撮影:

掲載:19年04月21日

読了時間:約13分

 シンガーソングライターの植田真梨恵が17日、ミニアルバム『W.A.H.』をリリース。2月にリリースした『F.A.R.』に続き今年2作目。2014年にシングル「彼に守ってほしい10のこと」でメジャーデビューし、今年で5周年を迎えた植田。今作について「和をテーマに、ただ心地良いと感じてもらえる“和チル”をイメージして制作した」と話す。今作のために書き下ろした「Bloomin'」や、映画主題歌として制作した「灯」、また10代の頃に作ったという「長い夜」など、これまでの活動を総括したような作品となった。さまざまな時期に作られながらも、一貫した植田の感性が詰まった今作に込められたものについて話を聞いた。【取材=榑林史章】

イメージは“和チル”!

『W.A.H.』通常盤ジャケ写

――テーマの違うミニアルバムを3カ月の間に2枚リリースするのは、制作が大変ではなかったですか?

 デビュー5周年なので、今年は今までで一番作品を作ろう、植田真梨恵の人生で、今が一番アートしている年にしたいなと思っていたので決して大変ということはありませんでした。

――『W.A.H.』は、どんなアルバムになりましたか?

 前作の『F.A.R.』は“大人の成長”がテーマで、『W.A.H.』は“和”がテーマのミニアルバムになっています。前回インタビューしていただいた「勿忘にくちづけ」をライブでたくさんお届けしていくうちに、これまでの歌とは違うパワーや、静かで日本人ならではの琴線に触れる心地よい時間を感じました。これまで届かなかったみなさんにも届いた手応えがあったし、より広く一つの空間を楽しんでいただける曲になったと感じました。その感覚を元にした心地良さや、日本人ならではの感覚で、より多くの方と共有できるミニアルバムが作れたらいいなと思い、「勿忘にくちづけ」を中心にして、和をテーマに作りました。

――“和(わ)”だから、『W.A.H.(ワー)』ということですか?

 そうです。インディーズ時代に『U.M.E.』というミニアルバムを作ったことがあったんですけど、単にアルファベット3文字のタイトルが好きなんです(笑)。その時は、梅の花が好きだから、心の隙間を「埋め」るとか、楽曲を「生め」るとか、そんな言葉が掛かっていました。でも今回は、もう1枚が『F.A.R.』だったので、それに合わせたという感じが大きいですね。『F.A.R.』は遠い、という意味のFARです。リードの「FAR」という曲を軸に作ったミニアルバムなので『F.A.R.』にしました。それで『W.A.H.』は、“和”にかけて。あと、関西の人間は1文字の言葉を伸ばすくせがあるので、その語感もありますけど、それ以上の深い意味はないです。

――まず「Bloomin'」は、ずばり桜がテーマ。桜の持つ始まり感、儚さや力強さなどが歌われています。

 植田真梨恵の曲には、みんなで大きな声で歌える曲が少なかったし、日本人のシンガーソングライターとして「桜」は、挑戦してみたいテーマでした。それでサビをアンセム的にみんなで歌えるように、口ずさんでもらいやすい曲になったらと思って作りました。

 この曲はいつもとは違う作り方で、ピアノの西村広文さんとスタジオに入って、イメージを伝えながら、曲の大枠から作っていったんです。コード進行と曲構成をまず完成させて、そこにメロディと歌詞をはめていきました。

――詞先や曲先ならぬ、“オケ先”みたいな。

 そういうことですね。私が桜の曲をやる上で、どういうものを作るべきか、単純に大変迷い、悩んでしまったんです。煌びやかで豪華絢爛な和ではなく、現代における今っぽい和で、すごく日常的だけど力強い桜の曲がいいなというイメージがあって。いつものようなメロディが先の作り方では、それが出てこなかったんです。

――そういう作り方はどうでしたか?

 とても音楽的でした。言葉に合わせてアレンジを選ぶのではなく、一番言葉にするのが難しいところから歌詞とメロディを引っ張ってくる感じだったのですが、これはこれで面白い作業でした。

――間奏のピアノは、学校で弾いているようなイメージ。日本人なら、誰もが懐かしく感じるだろう雰囲気ですね。

 学校の休み時間に、誰かが音楽室で弾いているみたいなイメージで、西村さんに弾いてもらいました。私自身、懐かしさやノスタルジックなものに心が揺れやすい性格なので、ついそういうものを散りばめがちです(笑)。

――同じ花がテーマで、「花鬘(はなかずら)」という曲もあって。

 かんざしのようなイメージの花で、昔は髪飾りのこと自体を花鬘と呼んでいたそうです。この曲は、歌詞と曲が先にできて、タイトルは最後に付けました。

 「勿忘にくちづけ」をリリースしたあとに弾き語りライブツアーを行ったのですが、「勿忘にくちづけ」ともう1曲、和をテーマにした曲を作ったら、ツアーのその時間がより楽しんでもらえるんじゃないかと思って作りました。

――最初はギターのアルペジオと歌だけで、途中から入るドラムやトラックは独特な雰囲気ですね。

 和のイメージを持ったチルアウト感と言うか…。この『W.A.H.』というミニアルバム自体、“和チル”というイメージを持っていて。「勿忘にくちづけ」もそうですけど、淡々とした一定のテンポ感の中でチルアウトしていく間に、和のイメージもある。感情的な曲ではなく、どちらかというと、ただ気持ち良くすぎていくようなイメージです。それでドラムも、打ち込みっぽく淡々とループしているイメージで一曲に渡って入っています。

――「花鬘」というタイトルは、普段から着物に馴染みがあるとか、“かんざし”や“つげ櫛”など和の小物に触れているから、出てきた言葉なのかなと思いましたが?

 そういうわけではなくて、時代を越えて昔から人の側にあるものというイメージから浮かんだ言葉です。歌詞に<花>という言葉が出てきますが、花は私にとってすぐそばにある存在というイメージなんですね。かんざしも、当人の一番すぐ側に寄り添って見守ってくれているイメージでした。

――また「灯」は、2017年に公開された映画『トモシビ銚子電鉄6.4kmの奇跡』の主題歌ですが、バンドサウンドで熱いものがこみ上げてくる曲ですね。

 映画は、高校生が銚子電鉄の電車と競争をする駅伝を企画するお話です。たすきを繋いでいくイメージとか、シーンの1つ1つを想像しながら書かせていただきました。

――この曲にも、どこかに“和”が?

 この映画には私もシンガーソングライター役で出演させていただいたのですが、撮影で、舞台となる銚子市に初めて行ったんです。ひと昔前ならきっとどこもこういう光景だったと思うような懐かしさがあって、海も山もきれいで。夕焼けの中に電車が消えて行く風景で歌うシーンがあったんですけど、当たり前のように近くにありすぎて、誰もが忘れてしまっている日本人としての感覚が、その時に呼び覚まされた気がしました。それで、このアルバムの“和”というテーマにぴったりだと思いました。

――映画に出演して、いかがでしたか?

 まさか私が映画に出るなんて、思ってもみませんでした。演技なんか絶対にできないと思っていたし。ただ歌を歌う役で、せっかくいただいたご縁だと思って、挑戦させていただきました。試写を見たときは、私が出ているシーンだけ時が止まっているみたいで、スクリーンの中の自分は、とても自分に似ている自分じゃない人みたいでした(笑)。でも映画を見るのは好きなので、映画制作の裏側が見られたり、本物の役者さんの演技を間近で見ることができたので、それは貴重な経験になりました。

――演技と歌は似ている、と言う方は多いですけど。

 私もそう思っていたんですけど、やっぱり違う部分もあって。でも、すごく楽しかったので、もしまたチャンスをいただけた時は、もっと勉強して臨みたいなと思っています。

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