世界共通の音楽を尊敬――、堤真一 挑む未知の世界 オーケストラとの共演
INTERVIEW

世界共通の音楽を尊敬――、堤真一 挑む未知の世界 オーケストラとの共演


記者:桂 伸也

撮影:

掲載:19年04月12日

読了時間:約9分

翻訳劇、長く親しまれる作品の良さは、人間の普遍的な弱さ、強さ、未熟さ、すばらしさ、といった部分が、ピックアップできること

堤真一

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――役作りについておうかがいしたいのですが、堤さんが演じられるのは政治犯、なかなか身近に接することがない役ですが、堤さんの中でイメージされているものはあるのでしょうか?

 まったく偶然なんですけど、先日、テレビで中国の政治犯を扱った『馬三家からの手紙』というドキュメンタリー番組を見たんです。政治犯というと、芯の強い、軍人的な強靭な精神の持ち主で屈強なイメージを勝手にもっていましたが、実際には学者のような風貌で、そんな拷問に耐えられるような体にも見えなかったんです。だからあの番組を見たあとは、意志の強さがあるからと決して画一的なイメージでとらえてはいけないと思いました。

――ギャップが見られたということですね。

 自分の信念のためにハンストをする役柄ですが、その意志の強さはすごいし、精神的にとてもタフだと思います。でも、もしかしたら意志が強い人物というのは、実際は意外なくらいに淡々としているのかもしれない、と感じ始めたんです。だから今は、本読みを通して、人物をどう作っていくか見つけていこうと思っています。

――ではそれは、これからやっていく中で演出家と相談しながら作っていく、という…。

 そうですね。最初に自分が思っていたイメージから、やっていくうちにガラッと変わっていくことも多いんです。だから今はまず稽古に、恐れずに取り組んでいこうと思っています。

――話は変わりますが、外国人と作る翻訳劇という部分で、堤さんが面白いと思われるところなどを教えていただけますか? 翻訳劇を見る楽しさみたいなところがわかればと思うのですが。

 もちろん優れた戯曲に海外も日本の区別はないんですが、翻訳劇は、その中でも特に絞り込まれたものが多い気がします。日本に紹介される時点で、わざわざ言葉や文化の壁を越えてやってくるわけですから。そして、シェイクスピアもそうですが、面白さは時代も国も超えて生き続けていきますよね。むしろ異なる時代、社会や文化背景の中だからこそ、人間の本質や普遍性がくっきりと読み取れる気がするんです。

音楽の魅力は、世界共通であること

堤真一

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――オーケストラとの共演というポイントがあります。先程、そこは不確定要素でもあり、少し不安を感じられているというお話もありましたが、逆に何かこれは面白そうなことになりそうだと期待している部分というのはいかがでしょうか?

 正直、実際にやってみないとわからないですね。オーケストラに、今の自分の心境を乗せていくのがいいのか、いろんなことを考えるんです。だから本当にやってみないとわからない。

――様々な思惑が浮かびますよね。ただ脚本を拝見させていただいたところでは、今回は単純にBGMという格好だけでなく、途中でオーケストラの音や演奏される方が、役者みたいに演技のほうに登場したり、特殊な演出があるということですが、そんな意味では、面白いかもしれないけど、わからないというところの難しさも大きいという感じなのでしょうか?

 初めてのことが多いので難しく感じてしまいますが、逆にそれが楽しみでもあります。でも、今一番心配しているのは、僕は音楽が全然だめなので“いくつカウントして”とか言われても全くわからない(笑)。この音楽の何小節目までにセリフを言い終わらなければいけない、みたいなことってありますよね。それが今から不安で不安で…(笑)

――ビビりますよね(笑)

 最近は年齢のせいか、セリフ覚えも心配で。でも、舞台でセリフを忘れて固まってしまう夢は未だに見ますしね(笑)

――ところで、普段から音楽は聴かれますか?

 実は普段あまり聴かないんですよ。若いころは自分の好きな曲をカセットテープに入れていたこともあるんですが。あとは、30代前半の頃に、知り合いにジャズ好きがいて、教えてもらって聴いていたくらいです。

――どちらかというと、静かなものが好みですか?

 そうですね、そのほうが落ち着きますね。楽屋でも、環境音楽を流していた時期もありました。静かな「雨の音」だけとか「川の流れる音」だけとか。共演者に「お前の楽屋はエステか!?」と言われるくらいに(笑)。

――なるほど(笑)。ちなみに、過去にご自身で楽器に挑戦されたことはありましたか?

 まあ、中学生のころはみんなギターをやっていたんですけど、僕はもうF(コード)のところで…(笑)。あのままちゃんとあきらめずに真面目にやってたら、一曲くらいでも弾けたんじゃないか、と…。

――音楽始めの“あるある”ですね(笑)。一方で堤さんは、音楽とはどんなものだと捉えられているでしょう?

 僕は自分ができないから、楽器ができる人を、メチャメチャ尊敬しています。前に映画で共演したナオト・インティライミとはずっと仲がいいんですけど、彼はピアノもできるし、自分で曲も作る。何でもできて、本当に音楽命みたいなやつで、うらやましいんですよね。

――では音楽とは、尊敬する存在、理想とする存在、みたいに捉えられているところもあるのでしょうかね。音楽にはどんなところに魅力を感じられますか?

 音楽はやっぱり世界共通ですから。言葉が通じなくても楽器が一つできたら、それでセッションができる。役者同士で突然セッションみたいに「さあ、みんなでシェイクスピアのハムレットをやろうか!」なんてことは、絶対ないじゃないですか(笑)。音楽がもつ力というのは本当にすばらしいと思います。

(おわり)

スタイリスト/中川原寛(CaNN)
ヘアメイク/奥山信次(Barrel)

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