マシコタツロウ、音楽はつらいけど楽しい「ハナミズキ」作曲者が語るプロ論:インタビュー
INTERVIEW

マシコタツロウ、音楽はつらいけど楽しい「ハナミズキ」作曲者が語るプロ論:インタビュー


記者:村上順一

撮影:

掲載:18年11月14日

読了時間:約12分

音楽は「つらくて楽しいもの」

マシコタツロウ(撮影=村上順一)

――今作の最後に収録されている「限りないもの」は曲ももちろんですが、歌詞も気になるワードがあって興味深いです。

 バックのトラックはある女性アーティストのために書いた曲のものなんですよ。ギターも弾いてもらってしっかりアレンジしたんですけど、色々あって曲だけ僕のところに残ってしまって。女性のキーだったのでそのまま歌えなかったというのもあって、このトラックを流しながらまた新しいメロディを考えました。もちろんメロディを大事に作ったんですけど、歌詞も話しかけるような感じで作りました。

――新しく再構築されて。歌詞だと<いつもの曲が聞きたくなったよ 85'年のダサいやつさ>というのがすごく引っかかりまして。

 僕、80年代の洋楽が大好きなんです。この歌詞に登場する曲は、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で流れていた、ヒューイ・ルイス&ザ・ニュースの「The Power of Love」なんですけど、あの曲が流れるとテンションが上がります。僕が良く行くお店があるんですけど、そこは80年代に出来たお店で、ブラックライトがあったりちょっと時代を感じさせる内装で、いい意味でダサい(笑)。でも、そのお店の雰囲気と「The Power of Love」がすごく合うんですよ。

――何となく今では80年代って“ダサカッコいい”感じがありますよね。

 そうなんです。僕のなかでダサいというのは褒め言葉で、「ダサいな」というのは「グルーヴィー」だなということなんです。

――しっかりと愛がありますね。さて、タイトルの「限りないもの」というテーマはどんな心境のときに思いついたのでしょうか。

 僕のなかで“限りある”というものは「命」だと思っていて、僕の命もいずれ果てますけど、作った楽曲というのはずっと残っていくと思うんです。その残ったメロディは“限りないもの”だと思いました。例えば人が亡くなってしまっても、その人との思い出はずっと残りますし、こういった両極端なことで世の中は出来ているんだなと思うことがあって。限りある命のなかで、限りないものをたくさん作っていったほうが良いなと感じました。永遠のものを作るのって良いなと。この歳になると知り合いを亡くしたりすることもあって、いろいろ考えてしまうんです。

――「旅人」という曲は知人を亡くされたことが、関係しているのではと感じました。

 そうなんです。僕は昼間に曲を書くことが多いんですけど、この曲は珍しく夜に作りました。22時頃に寝て、午前2時頃に目が覚めてしまって。でも、今までは目が覚めたとしても仕事でもない限り曲を作ろうなんて最近は思ったことはなかったんです。だけど、なぜか久しぶりに自分が歌う曲を作りたいなと思って。キーボードを前にしたら、会えなくなってしまった先輩のことを思い出してしまい、涙が止まらなくなってしまって…。そのままメロディを書いていったのがこの曲で、1コーラス歌詞を含めて1時間掛かっていないですね。先程出た、僕の中での良い曲の定義にも当てはまる安産系の楽曲でした。

――感情の赴くままに書けた1曲だったんですね。

 昼間に曲を書いているのは、夜に書くとドラマチックになり過ぎてしまうということもあってあまり書かないんです。なので念の為、朝起きてフラットな状態で客観的に聴いてみたんですけど、悪くないなと思いました。過度に悲し過ぎないし、他の意味でも取ってもらえるような歌詞にもなったなと思います。

――今作でのレコーディングはいかがでしたか?

 これが、6時間で4曲録ったのでなかなか大変でしたね。その時に武部さんの教えである「時間は限りあるもの」だということを思い出して、“一曲入魂”でどの曲も3テイク以内で録り終えることが出来ました。僕の場合は上手に歌うというよりは、味や雰囲気のほうが重要だと自分では思っています。歌を録ってくれたエンジニアさんも、僕の声や歌い方に合ったマイクなど機材のセットアップをチョイスしてくれました。あまり声を張らなくても気持ちいい声が録れるようにして頂いて、優しく歌うことが出来ました。

――確かに語りかけてくるかのような歌ですよね。ところで、マシコさんにとって音楽とはどういった存在ですか。

 これは究極に難しい質問ですね…。う~ん僕にとって音楽は「つらくて楽しいもの」ですかね。音楽の「楽」は楽しいという字を書きますけど、プロフェッショナルな部分では楽しいだけのものではなくて。元々音楽は好きなものではあるので、その2面性をもったものですね。もう音楽なんか聴きたくないと思うほど、スタジオに篭って作業しているのに、作業が終わって帰る頃には、自分の好きな音楽を聴いていたりするので。苦痛でもあり快楽でもあると行った感じです。

――その音楽を辞めたいと思った時もありましたか。

 ありましたね。ある生放送番組に歌唱するために出演したときのことなんですけど、Bメロの歌詞をど忘れしてしまって…。「手のひら」というバラード曲だったのでサビまで長いんですよ。その帰りの新幹線ではお酒をベロベロに飲んで、次の日には自分はプロじゃないなと感じて「もう音楽をやめる!」というところまでいってしまったことがあります。今でもその時のことはトラウマなんです。その時はその場所に行くのもちょっと臆していたんですけど、いずれリベンジしたいなと思っていて。継続は力なりじゃないですけど、失敗も血や肉となっているんじゃないかなと今は思えています。

――「ハナミズキ」などマシコさんには代表曲がありますが、これからの目標はどのようなものですか。

 昔は「ハナミズキ」のような曲を書いて欲しいというオファーが多かったので、そういう曲を書くぞと意気込んでいたんですけど、途中から「ハナミズキ」みたいな曲が書けるわけがないなと悟って。「ハナミズキ」はあの時に関わってくれた人達と作り上げたものなので、あの時だから出来た曲だと思っています。

 僕はいつも同じ気持ちで曲を作っていますし、一人でも多くの人に届くような曲を作ろうと思っていれば、自然と残る曲になっていくと思っています。作る側が「名曲を作ろう!」とか考えないほうが良いなと思っていて、これからも、ひたすら自分が好きなもので、相手も好きなものを書けたら理想だなと思っています。

(おわり)

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